嫁が遺産を狙ってる 3人用台本

ちぃねぇ

第1話 嫁が遺産を狙ってる

登場人物


君江:奈央子の義理の母。かよ子とは30年以上のお友達。

かよ子:君江の友達で君江と奈央子の近所に住んでいる。

奈央子:君江の息子の雄二と結婚した嫁。雄二は10年前に亡くなり、現在は君江と二人暮らしをしている。



君江:かよ子さん、聞いてちょうだい

かよ子:あら君江さん、どうしたの

君江:奈央子さんが私の遺産を狙っているの

かよ子:え?

君江:雄二が死んでもう10年、いい加減家を出て新しい人を探しなさいって言ってるのに、一向に出ないのよ?これはもう私の遺産を狙っているとしか思えないわ


0:奈央子登場


奈央子:やだわお母さんったら

かよ子:あら奈央子さん、こんにちわ

奈央子:こんにちわ、かよ子さん。お母さんがまた変なこと言いだしてごめんなさい

かよ子:いいのいいの、いつものことだから

君江:ちょっと!いつものことってなによ

奈央子:お母さん、お母さんに狙えるほどの遺産なんてありましたっけ?

かよ子:そうよぉ、いっつも私と一緒にスーパーのタイムセールを狙ってるのは君江さんのほうでしょう?

君江:それはその…隠し財産があるのよ

奈央子:あら、いいことを聞きましたわ。ねえ、かよ子さん

かよ子:そうね。君江さん、そんなのがあったなら今度パフェをおごってちょうだいよ。奈央子さんも一緒にどう?

奈央子:いいんですか?やったあ

君江:ちょっと!よくないわよおごらないわよ勝手に話を進めないでちょうだいよ!

奈央子:え~お母さんのけち~

君江:どうしてそうなるのよ

かよ子:けち~

君江:かよ子さんまで!

奈央子:じゃあ私がご馳走しますから、今度3人でパフェでも食べに行きましょうよ

かよ子:ええ?悪いわよそんな

奈央子:いいんですよ、かよ子さんにはお母さんが日頃からお世話になってるんですから

かよ子:やだ、出来たお嫁さんね!君江さん、奈央子さんのこと大事にしなきゃだめよ?

奈央子:そうですよ~?大事にしてくださいね~?

かよ子:変なことばかり言って困らせちゃだめよ~?

奈央子:だめですからねー?

君江:もういーやー!私の味方がいないじゃない!私おうちに帰るわっ

奈央子:あ、お母さん、戸棚のおせんべい食べ過ぎちゃだめですよーもうすぐお夕飯ですからねー


0:君江退場


かよ子:あなたも大変ね、奈央子さん。君江さんったら、こんなにいいお嫁さんをもらったのにあんな嘘ばっかり言って

奈央子:お母さんは、どうにかして私を家から追い出したいんですよ

かよ子:出る気はないの?

奈央子:はい

かよ子:君江さんが追い出したい理由、わかっているんでしょう?

奈央子:まあ

かよ子:君江さん、雄二くんが亡くなってもう何年も経つのに、いまだに死んだ夫の母である自分の世話を焼くあなたがすごく気がかりだって言ってたわ。変に操(みさお)なんか立てずに出ていけばいいのに、って

奈央子:操なんか立ててないのに

かよ子:君江さんじゃないけど、私も奈央子さんはそろそろ自分の幸せを考えてもいいと思うわよ?まだ40代でしょう、新しい出会いだってまだまだ

奈央子:私はお母さんと暮らせる毎日が幸せなんです

かよ子:奈央子さん

奈央子:それにね、かよ子さん。お母さんの言ってることもあながち嘘ばっかりじゃないんですよ

かよ子:え?

奈央子:(茶目っ気たっぷりに)ほんとは私、お母さんの遺産を狙ってるんですよ

かよ子:(同じくお茶目に)あらそうなの?

奈央子:ええ。ですから出て行ったりしないんです、ふふふ

かよ子:まあ、悪いお嫁さんね





0:数日後、病室に飛び込む奈央子


奈央子:お母さんっ!

君江:奈央子さん

奈央子:大丈夫ですか?突然部屋で倒れたって!

君江:大げさねぇ、ただの熱中症よ

奈央子:何言ってるんですか、熱中症で簡単にぽっくり行っちゃう老人のくせして

君江:まあ、なんて言い方!

奈央子:エアコン、ちゃんと付けてましたか?お母さん最近電気代気にしてケチってたでしょう

君江:そんなことしないわよー毎日快適空間でのびのびと暮らしてるんだから

奈央子:家に帰って和室に入れば分かりますよ?

君江:だって…高いじゃない

奈央子:お母さん!そんなこと気にしないでエアコン付けてください!

君江:だってぇ

奈央子:だってじゃない!お母さんが倒れたって聞いて、私がどれだけ心配したか

君江:奈央子さん

奈央子:いいですか、次エアコン切れてたらごはん抜きですからね

君江:ちょっと、それは老婆(ろうば)虐待よ!

奈央子:躾(しつけ)のなってない子にはご飯はいらないんです

君江:私は犬じゃないわよっ


0:かよ子登場


かよ子:君江さん、具合はど…あら、奈央子さん早かったわね

奈央子:かよ子さん、ご連絡いただいてありがとうございます。母にも付き添っていただいて

かよ子:いいのいいの、気にしないで

君江:かよ子さん、聞いて聞いて!奈央子さんったら私にごはん抜きって言ったのよ?

かよ子:ええ?そんなこと奈央子さんが言うわけ

君江:言ったわよ!ね!?

奈央子:そうですねー言いましたねー

かよ子:あらあら、じゃあそれはきっと君江さんが何か言ったせいね

君江:なんでよ!

奈央子:流石かよ子さん

かよ子:1食くらい抜いても死なないわよ

君江:死ぬわよ!老婆には死活問題よ!一撃必殺よ!

奈央子:もうお母さんったらー面白ーい

かよ子:ほんとねー

君江:どこがよ!?





0:5年後


君江:奈央子さん

奈央子:はい、お母さん

君江:あなた、この家を出ていきなさい

奈央子:またその話ですか

君江:今日こそは首を縦に振ってもらいます

奈央子:いやでーす

君江:奈央子さん!

奈央子:…

君江:私、この頃記憶が怪しいの。この間だってスーパーに行ったのに何を買うか、とんと思い出せなくて

奈央子:あ、私もよくなりますよ、それ

君江:そういうことじゃなくて!…あなたにこれ以上、迷惑をかけたくないの

奈央子:迷惑だと思ってるなら、素直にお世話されてくださいよ

君江:…あなたは私の娘じゃないわ。他人のお世話に人生を費(つい)やさないで

奈央子:他人じゃないです、娘です

君江:奈央子さん!

奈央子:娘ですっ!私は、お母さんの娘です

君江:奈央子さん…

奈央子:最期まで、お世話させてくださいよ。一緒に暮らさせてくださいよ

君江:…あなたには、あなたの幸せがあるわ

奈央子:私はお母さんと一緒にいることが幸せなんです!

君江:ああもう…強情っぱり!

奈央子:お母さんこそ!よくないですよ、そういうとこ!

君江:どっちがよ!


0:かよ子登場


かよ子:君江さーん、お庭でピーマンが採れたんだけど~

奈央子:あら、かよ子さん。こんにちわ

かよ子:あら奈央子さん、こんにちわ。ピーマン要る?たくさん成ったのよ~

奈央子:わー嬉しいです

かよ子:はいどーぞ

奈央子:ありがとうございます。あ、今お茶お持ちしますね

かよ子:お構いなく~


0:奈央子退場


かよ子:外まで聞こえたわよ

君江:え?

かよ子:どっちがよ!って。また奈央子さんと言い争ってたんでしょう

君江:だってぇ

かよ子:奈央子さん、お母さんを早くに亡くされてるんでしょう?君江さんのこと、ほんとのお母さんみたいに思ってくれてるんじゃないの?意地を張るのはそろそろやめなさいよ

君江:だって、こんな私といたら奈央子さんはずっと不幸じゃない

かよ子:不幸だなんて、奈央子さんは思っていないみたいよ?

君江:今はよくても、私だってそのうちボケが来るわ。足腰だってここの所すごく悪くなってきたし、迷惑かける前に離れたいの

かよ子:迷惑だって奈央子さんが思うと思う?

君江:思うわよ絶対!だから、思われる前に離れたいの。奈央子さんに、嫌われたくないの。疎(うと)まれたくないのよ

かよ子:君江さん

君江:私は奈央子さんに、あの子に…娘に、嫌われるのが怖いのよ

かよ子:君江さん、奈央子さんはあなたを嫌ったりしないわよ

君江:そんなのわからないじゃない!

かよ子:君江さん…

君江:あの子は雄二のお嫁さんなのよ?忘れ形見なのよ?大事にしたいし好かれたまま離れたいじゃない!なのにちっともわかってくれなくて…あの子頑固すぎるわっ

かよ子:それは君江さんも同じでしょう?

君江:それは…そうかもしれないけど

かよ子:よく似てるわよ、あなたたち。まるでほんとの親子みたい

君江:かよ子さんっ!

かよ子:それにね、奈央子さん言ってたわよ

君江:?

かよ子:奈央子さん、君江さんの遺産を狙ってるんですって

君江:え?

かよ子:だからぽっくり行った後、がっつり渡してあげなさいよ、感謝も込めて

君江:私に遺産なんか…あるわけないじゃない

かよ子:あら、そうなの?

君江:わかってるくせに

かよ子:でも、狙ってるのは確からしいわよ

君江:私だって…残せるものなら残してやりたいわよ。あの子には返したくても返しきれない恩がたくさん溜まっちゃってるんだから

かよ子:ふふっ、そうやって素直な気持ちをしゃべっちゃえばいいのに

君江:あの子が頑固なのが悪いのよ

かよ子:どっちもどっちよ





0:3年後


かよ子:お葬式、お疲れさま

奈央子:かよ子さん。手伝ってくださって、本当にありがとうございました。助かりました

かよ子:私は何もしてないわ、喪主のあなたが全部頑張ったんじゃない

奈央子:いいえ、すごく助けられました

かよ子:…これから、どうするの?

奈央子:どうしましょう

かよ子:あの家は売ってしまうの?

奈央子:あー…実はあの家、借家なんです

かよ子:あら、そうなの?

奈央子:はい、だから元の持ち主さんにお返しして私はアパートでも借りるつもりです

かよ子:じゃあ、奈央子さんは何を継ぐの?

奈央子:え?

かよ子:ほら、前に言ってたじゃない、遺産を狙ってるって

奈央子:ああ、あれですか

かよ子:やっぱり嘘だったの?

奈央子:いいえ、ほんとです。…こちらへ来ていただけますか?

かよ子:え?


0:本棚の前


奈央子:確かのこの辺り…あった

かよ子:なあに、それ

奈央子:お母さんのレシピノートです

かよ子:レシピノート?

奈央子:雄二さんの好物とか、お父さんの好物とか、家族に作って喜ばれたものを書き留めてたノートだそうで。存在は知ってたけど、生きてるうちは一度も見せてくれなくて

かよ子:君江さん、照れ屋さんだから

奈央子:はい。(ページをめくって)あ、肉じゃが…そっか、隠し味にみそが入ってたんだ…わからなかったなぁ。美味しかったなぁ

かよ子:君江さん、お料理得意だったものね

奈央子:何年経っても敵いませんでした。(ページをめくって)あ

かよ子:どうしたの?

奈央子:ここ、茶わん蒸しのここ…

かよ子:え?

君江:「奈央子さんはエビNG」

奈央子:あ…

かよ子:奈央子さんエビダメなの?

奈央子:はい、昔からアレルギーで…そっか、茶碗蒸しにホタテって変わってるなって思ってたけど、お母さん、私のだけ別で用意してくれてたんだ…

かよ子:ほかにもあるわ

奈央子:え

君江:「マヨネーズ入りの卵焼き、奈央子さんがバクバク食べた、マル」

君江:「シュウマイ、包まずにキャベツで蒸す。ダイエット中の奈央子さんにもOK」

君江:「混ぜご飯、雄二も奈央子さんもお代わりしてくれた。嬉しい」

奈央子:お母さん…

かよ子:君江さんは、家族が大好きだったのね

奈央子:もっと、もっと長生きしてほしかった。そばにいてほしかった…

かよ子:奈央子さん…

奈央子:お母さん…お母さん…

かよ子:…あら

奈央子:(鼻をすすって)どうしました?

かよ子:ほら、このノートの最後のページ、見て

奈央子:え?

君江:「奈央子さんへ。遺産らしい遺産を残せなくてごめんね」

奈央子:これって

君江:「こんな私によくしてくれて、すごく嬉しかったわ。こんなノートでよかったらぜひ使ってちょうだい」

かよ子:君江さん、奈央子さんが狙ってた遺産の正体、気づいていたみたいね

奈央子:お母さん…

君江:「あとね、私人生で初めて買ってみたものがあって。それもあなたにあげるわ。運が良ければいいものになってるはずよ、引き出しの中を開けてみて」

奈央子:人生で初めて?

かよ子:運が良ければ…何のことかしら


0:引き出しを開ける2人


奈央子:これって…

かよ子:宝くじ…

奈央子:お母さん、こんなの買ってたんだ

かよ子:君江さん、昔お父さんの賭け事で苦労されたらしくて、「自分は今まで一度もギャンブルなんてしたことない」って言ってたのに…最後の最後で買ってみたくなったのかしら

奈央子:当選番号調べてみましょうか。もしかしたら当たってたりして。まだ引き換え期日まであるみたいですし

かよ子:そうね、君江さんの運の強さ、確かめてみましょうか


0:当選番号を調べる2人


奈央子:嘘

かよ子:あら、すごい

奈央子:お母さん、ビギナーズラックですよ

かよ子:3000円なんて私も久しく当ててないわ、すごいわね、君江さん

奈央子:…かよ子さん

かよ子:なあに?

奈央子:これって、お母さんの隠し財産だと思うんです

かよ子:隠し財産?

奈央子:はい。だから、落ち着いたら…この3000円で、二人でパフェ食べに行きませんか

かよ子:え?

奈央子:多分きっと、お母さんが私たちにご馳走したくて当ててくれたんですよ。だから行きましょう、パフェ

かよ子:…そうね。ありがたく君江さんにご馳走になりましょうか

奈央子:はい!(君江に)この使い方で、あってますよねお母さん


0:空から


君江:ええ、行ってらっしゃい



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