第15話 夜は嘘にふるえてる

 姉の四十九日の夜、私は夢を見た。

 小さな私が、姉のベッドの近くに座って、何事か話している。うつむいているくせに、何か一生懸命に。


「あのね、チュッパチャップスの、土星のなりそこないみたいな形が好きなの」

「うん、そうなんだ」


 姉が優しく笑う。私は顔を上げる。嬉しかったのか、笑って、言葉を続けた。


「だから、舐めて丸くなっちゃったのを見ると、むなしいような、さみしい気持ちになるんだよね」

「うん、うん」


 姉はうなずく。ひだまりのような微笑を浮かべて。


「由衣ちゃんは素敵な感性を持ってるね」


 おぼれるように、目が覚めた。

 私はひどく泣いていて、息がつまったのだ。

 むせかえって、顔を覆った。

 どうしても、これを止めなければいけなかった。

 けれど、体が異常なほどに跳ね返って、止まらなかった。


 お姉ちゃん!


 叫びそうになるのを、私は必死に耐えた。のどから、ひーっと息が漏れた。足がベッドを蹴る。


 一人で行ってしまった。


 嘘だ。こんな気持ちは、全部嘘っぱちなんだ。

 だから私は、誰にこの事実を伝えられるだろう。

 嘘を混ぜずに、寸分違わず、誰に。

 薄暗い部屋の中。私は布団の中、ずっとふるえ続けた。


 夜は、もうすぐ明けようとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夜は嘘にふるえてる 小槻みしろ/白崎ぼたん @tsuki_towa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ