エピローグ

梅雨が明け、本格的な夏が始まった

始まってしまった

直接的な暑さと紫外線を逃れるように女子たちは長袖に逆戻りし、男子は涼し気な半袖で闊歩していた

わが校にも、男子に混じって紫外線の脅威に屈しないつわものが一人


「先輩。その内お肌真っ赤になりますよ」


「なった事ないから大丈夫でしょ」


「ちなみに日焼け止めは?」


「・・・あ、塗ってない」


「ちょっと信じられない!がんになりますよ!がん!」


わたしは鞄から日焼け止めを漁って先輩の肌に塗りたくった

先輩は小さな子供のように大人しくしている


「どうも」


「明日からは自分で塗ってきてください」


役得だと言いたい所だが、流石に先輩の肌が心配だ

お家の玄関で塗ってきてくれ

現在、わたしと先輩は学校の屋上で機材の調節中

もちろん先輩の機材で、わたしは体のいい雑用係だ

なんでも、新しいレンズを買ったので、強い日差しの中での絞り値が知りたいそうだ

強い日差しの中、って想定があるのになんで日焼け止めサボるかな


「・・・まあ、こんな日々が戻ってきただけいいか」


なんだか年寄りみたいな事を言ってしまった気がする

あの喫茶店での一件から、わたしと先輩の関係性は恋人(仮)では無くなった

新しい関係の名前は、まだ決まっていない

このまま一生決まらなくても、まあそれはそれでいいのかもしれない

ちなみに、わたしが注文したアイスコーヒーはあの後届けられた

既に注文して15分以上経っていたアイスコーヒーは、淹れ直してくれたのかちゃんと冷たかった

気遣いがこっちを苦しめる事って、割とあるよね

もうあのお店一生いけない

ごめんなさい


「ねえ先輩」


「何」


「先輩はわたしの事好きですか?」


「好きなんじゃない?」


「反応に困るなぁ」


「こっちのセリフ」


わたしの好きと、先輩の好きは多分一生噛み合わない

男と女ががっちり噛み合うものだとしたら

同性愛者と同性愛者が、歪ながら噛み合うものだとしたら

わたしたちはびみょーに噛み合わない関係性が、一生続く

本音を言えばまたキスがしたい

さらに言えばエッチもしたい

そりゃこっちは健全な若人ですから

でも先輩は二度と、わたしにそんな事をしてくれない

不服だけど、まあしょうがない

わたしがそういう人を好きになっちゃったんだから、しょうがない

結局のところ、わたしはこの恋心の行き先を与えてくれればそれでいいのだ


「じゃ、先輩」


好きにさせてやるなんて、カッコいい事言えないけど

あなたを手放しますなんて、物分かりの良い事出来ないけど


「これからもっと、困らせてあげますからね」


残酷な恋を味合わせた仕返しは、一生あなたを見つめ続ける権利で手合いにしてあげる


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同性愛者と無性愛者 桜木家 @shashu

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