第7話 二人旅(2)
「夜が明けてきた。行こう」
ジルはラビに起こされた
周りは少し明るくなってきていた。
「う、うん……」
固い土の上で寝ていたので身体が痛かった。
ジルにはラビの外套が掛けられていた。
「あ、これ……」
ジルは驚いた。
「すごい重い……」
「かえって眠り難かったか?」
「ううん、大丈夫。ありがとう。」
ラビは何も言い返さず外套を受け取った。
「もう二・三時間行けば手前の街に着く。
そこで食事を取る。行けるな?」
ラビは確認を取ってきた。
「うん!」
ジルは元気いっぱいに答えた。
心は不安でいっぱいだったが、
怖い、辛い、苦しいなどと思いたくなかった。
『信じて付いていくんだ!』
考えていても答えはでない、
迷わず元気でいようと心掛けた。
ラビは手元に用意していたらしい武器をしまい
そして出発した。
「何を用意していたの?ナイフ?」
「そうだ、この辺りの山には熊や狼がいるからな
獣は人間よりずっと手強い。」
「えっ……」
何も知らなかったジルは改めてゾッとした。
「夜の山ってそんなに危なかったの?
それでも夜の内に町から出た方がよかったんだ。」
「拠点に出稼ぎに出ていた者達が戻れば
後を追われる可能もあるからな。」
「……!」
結局はずっと危険の連続だったのだ。
「今も安全というわけではない。
だからできるだけ急ぎ、進む。」
「う、うん。」
目覚めた時は危険が去ったと思い元気に答えたが、
改めてまた不安でいっぱいになりそうだった。
『今頼れるのは……』
ラビだけである。
ラビは言葉も表情もいつも無感情だった。
それでも
寄り添っても裾を掴んでも拒否しないラビを
心頼りに、力を振り絞って道を進んだ。
やがて、ラビの言った通り、
二時間半ほどで街に着いた。
ワシアの隣にあるソージの街は
ラビとジルが出会った町よりもずっと
落ち着いていて人々の営みも安定している
ようであった。
ソージに着くと食事を取り、一息ついた。
ソージの街とワシアは大きな川を挟んだ
向こう側にあり、距離は近かった。
ワシアは街というよりはこの国の七つある
主要都市の一つで、主要都市の中では
人口も面積も一番小さかったが、
この国においては珍しく文化的で物資もそろって
おり、とても穏やかな都市であった。
警察組織と小規模の軍事施設もあったが
どちらも市民達からの信頼も厚く、
関係も良好で、国家崩壊時も大きく乱れる
ことがなく、警戒態勢を取りながらも
都市運営は安定している方だった。
そのワシアの側と言う事もあり、
ソージの街も安定していたのだった。
争いや諍いがあってもワシアから警察官などの
応援があるので大きな被害が出ることも
ほとんど無かった。
それでも、そんなソージの街でも
今大きな問題が起きているようであった。
「そうか……どうもありがとう。」
誰かと話をしていたらしいラビが
ジルの所へ帰ってきた。
ジルは食事を終えた後、疲れが取れず
眠そうにしながらラビを待っていたのだ。
「何かあったの?」
「橋が壊れていて向こうに渡れないらしい。」
ワシアとソージの間にはとても立派な橋が
あったのだが、内戦時に過激な集団によって
破壊されてしまったらしい。
「川を超えられないの?」
「船があるらしいが。」
五十人ほど乗船可能なそこそこ大きな連絡船が
一日二往復で都市との往来の役目をしていた。
食事を終えた二人はその船に乗るために
乗船所を訪れたが、
そこでその問題の全容を知ったのだった。
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