第30話 旅立ち(2)

終着駅に着いた後、3人は近くのバーに入った。

老人の男性が1人で営んでいて

他に客はいなかった。


「この街を出てどこへ行くんだい?

キラービー。いや、一応ホロウと呼んだ方が

いいのかな?」


「よく調べているじゃないか、どちらでもいい。

今となっては大した違いもない。」


「そうかい?我々にとっては今でもその名は

聞くだけで震え上がるよ『キラービー』」


「気にすることじゃないだろう。私は

『梟』の始末はしたことがない。いやあなたは

『鴉』だったかな?」


「私がいた時に『鴉』から『梟』に変わったから

どちらでも間違いではないよ。」


そう言ってグースは酒を飲んだ。

ラビとレオルは酒を飲まなかった。

レオルは全く話が分からないまま聞いていたが、


「すみません、なぜロッド理事長がここに

いるのですか?ラビとはどうやってやり取りを?」


混乱したままどうしてもそれだけは気になって

いた。


「蜘蛛との屋敷を出る時にササー巡査長と

言ったかな?彼に言付けを頼んだのだよ。

彼が無理なら君に頼もうと思っていたレオル、

以外とちゃんと伝わるものだな。」


「この都市に死神が2人もいて何の情報も

張らないわけにはいかないだろう。」


グースは苦笑いした。


「あの時にそんなことを……」


「で、行き先は?それが重要なんだろ?」


「ナナ・ハーンへ行く。明日の朝には

そう流してもらいたい。」


その後の話を要約すると、

今日ワシアで蜂が蜘蛛を倒した。

その蜂はナナ・ハーンへ行く。

という内容を分かる者だけが分かるように

ラジオで流してほしいということだった。


「ナナ・ハーンか、かつて賑わったリゾート地だが

今では悲しいほどに寂れているぞ。」


「ならなおさらちょうどいい。」


ラビはなぜか遠い目をしてそう答えた。


「君が動くという認識でいいのかな?」


「何かのために動くというわけではない、

己のしがらみに応対するだけだ。」


「しかしそれが大きなことにつながることは

確実だ……彼らがくることに確信があるのだね?」


「来る。確実に。アイツらが私の煽りに弱いことは

蜘蛛が証明した。アイツらは蜘蛛よりずっと、

ずっと深く執着している。

それに何より私は彼らの……」


一息置いて続ける。


「明確な『仇』だからな。」




グースは固唾を飲む……

深く目をつむり「そうか」と呟く。

ジルやレオルと違い、組織に所属していた者には

それの事の大きさに身震いが止まらない。


「ということはやはり総統も君か。」


「そうだ。その情報が取り引き内容だ。」


「キラービーがやったと広めていいのだな?」


「好きにすればいい。」


「君は分かっていないかもしれないが、君が

総統派にいないと言うことはとてつもなく

大きな情報なんだぞ、加えてイーダが死んでいるということ……」


「息子共がそれを隠すとはな。」


「予想外だったのかい?というか、イーダを

いつやったんだ?」


「総統と同じ日だ。」


「そうか……」


「もっと早い段階で剥き出しの憎しみで

復讐をしてくるかとも思っていたが、人とは

やはり分からないものだ。」


「それを止め、イーダの死を隠し、派閥の存続の

優先を指示した者がいるのだろう。」


グースは空のグラスを眺めながら言った。


「そもそも君の行動に政治的意図はあったのかい?」


「いや。」


「それにしては余りにも大胆なことを

やってしまったものだな。」


「そうだな……」


「しかし、聞いてしまったからには

こちらもやるべきことをやらなくてはならないな。

君と蜘蛛の他に死神は残っているのかい?」


「『スコーピオン』が残っているが、彼は総統派のためには動かないだろう。他にはいない。」


「そうか、貴重な情報をありがとう。」


「彼は元々『梟』の構成員だった。死神になった

のには事情がある。

それとホーク、彼女はイーダを殺した現場にいた

現体制派に付く気はないがイーダの息子達を

とても警戒していた。」


「なんと、そんな人物が………」


「ホークとスコーピオンを探すことだな、

それができれば後は多分、何とかなるだろう。」


そう言って、ラビは席を立った。

もう夜は深くなっていたが行くようだった。




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