第22話 早乙女汐音Ⅳ

「――で、残ったキミ誰? シオンちゃんの知り合い?」


 貴族風の男は首だけをこちらに向けて、睨むような視線で俺に問う。


「知り合い以上友達未満、と言ったところですかね」


「ふぅん、変なの。大して強くも無さそうだし、みすぼらしい格好だ。悪いけどあんまりシオンちゃんに近づかないでくれるかな? 極上のデザートに虫が集るのは嫌なんだ、分かるだろ?」


 なんだその例えは。俺がハエだとでも言いたいのか。


「……アンタはどちらさまで?」


 男は、俺の言葉に虚を突かれたような顔をした。


「ボクをアンタ呼ばわり……ははっ、面白い庶民だなぁキミは! ボクのことを知らないのかい?」


「――知らないね」


「……あのなぁ。今のはYESかNOを問うたんじゃない、知らないことを恥じろという意味——」


「――言葉に言葉以上の意味を乗せるな。回りくどいし分かりづれえんだよ」


 刺々しい言葉がするすると出てくる。

 こういうねちっこいタイプの男は嫌いなのだ。


「ぐっ、いいか、ボクは名高き鳳院家の20代目当主、鳳院マサトだ。この町に住んでいながら鳳院家の名を知らないとは言わせないぞ」


 数秒「鳳院」で検索をかけたあと、答えを返す。


「……悪いが知らんな。俗世の知識には疎いんだ」


「――ッ。馬鹿に、するなよ……」


 男は小さく震えだして、右手を掲げた。


「……ん? なんだ」


 それは合図だった。


「――そこの無礼な庶民を喰らえッ! 我が竜よ!!!」


「――あ」


 男の怒りに満ちた号令と共に、男の手が振り下ろされる。


 そしてその合図と共に颯爽と現れる赤い巨竜。

 巨竜は男を背に乗せると、雄たけびをあげながら突撃してきた。


「ぶははははは!!!! 竜の餌になって惨めに散るが良いッ!!! 愚民が――」


 いちいちうるさい奴である。


「――っ、危ないわ! 逃げてッ!!!」


 俺の身を案じる汐音。

 こいつ、学校で会った時のあの痴女感はどこへいったんだ? マジで。


 …………


 ……………………


 ま、色々と思うところはあるが、

 今はおいておこう。


 俺も少々、虫の居所が悪い。

 後味の悪い海外ドラマを見た後のような気分なのだ。


「――今度こそ、見せてやるよ」


 きのぼうの先端を竜の頭蓋に向ける。口を大きく拡げ、俺を喰らわんとするその巨体に向けて、指先からゆっくりと力を送り込んでいく。


 鼓膜をつんざく竜の咆哮と、高らかに笑う下種の声。それから叫ぶような汐音の声が遠くに聞こえた。


 だが、そんなものは一切合切無視して、俺は自分だけの世界に深く沈み込む。

 一発で、終わらせてやる。


「――次元の隔絶ディメンション・ゼロ。全ては次元の彼方へ」


 きのぼうの先端から小さな輪が生み出される。


「ハハッ! なんだそのヘンテコな輪っかは! そんなものでボクの赤竜が止められるとでも――」


「止めやしねえよ、言葉通りだ」


「何を言って――ッ!?」


 輪は次の瞬間に巨大な円へと変貌する。

 勿論ただの円ではない。

 それは入り口だ。

 出口のない異次元への、入り口。


「ぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 異空間への門は、大口を開けて二つの物体を迎え入れる。

 男と竜の断末魔が向こうの世界で小さくなっていくのが分かった。


「これで一丁あがりだな」


 猛スピードで突っ込んできた赤竜と、いけ好かない男を吸い込んだ「異空間への門」は役目を終えると、音もなく縮んでその存在ごと消滅した。


「……なに……今の……何が、起きて……今確かに竜が、鳳院が……」


 その場にぺたんと座り込んで、呆気に取られている汐音。


 俺は服についた砂を払いながら、汐音の元へと歩みを進めた。

 従者の二人も状況に理解が追いついていないのか、俺を止めることはしなかった。


「よろしく汐音さん。俺が湊だ」


 和解の握手を求めるべく、手を差し伸べる。


「……え、貴方が湊くん……? う、噓でしょ……?」


「いやほんとほんと、連絡先貰ったじゃん、俺」

 

 遅すぎる自己紹介。

 汐音の顔が徐々に赤く染まっていく。


「あ、あのねぇ……あなたねぇ……」

「……ん?」


 そうして、彼女の頬の火照りが最高潮に達したと思われた時、


「――そういうことは、最初に言いなさいよバカァァ!!!!!!!」


「ぶべらぼえっ!?」


 座り込んだ彼女から繰り出される天をも衝くアッパーにより、俺は空高く舞い散るのであった。

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MMORPGでハーレム築いてしまったので今日から俺はクラスの女子と配合(ry @ex_legend

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