エピローグ
結婚式を間近に控えたとある深夜、我が
「それで? 夜這いならぬ“夜招き”なら嬉しいが──その
「はい、おっしゃるとおりです」
入浴して比較的簡素な室内着へと着替えられたメッシュ様のお姿は、いつもの隙の無い服装と異なり、素肌の見える部分も多く、“男の色気”とでも表現すべきものにあふれていて、ドキドキしたのですが、私は懸命に胸の高鳴りを抑えて、話し始めました。
もちろん、この期に及んで愛しい
正直、この方にコレを伝えるべきかについては、非常に悩みました。
お父様やお母様にも相談したのですが、「伝えない方がよいと思うが、最終判断は任せる」と言ってくださいました。
──私は弱い女です。貴族の娘であれば、秘密のひとつやふたつ、抱えたまま墓まで持っていくべきなのかもしれませんが、所詮は偽令嬢の私は、「愛する人を騙しとおす」罪悪感に耐えられそうにありません。
そのため、すべてがご破算になる危険を冒してでも、結婚前にメッシュ様にその“秘密”を打ち明けてしまったのです。
「ふむ……確認しておくが、入れ替わったのは1年前で、
「は、はい、その通りですわ」
何でしょう。「最初からすべてが偽りだったのか!」と激怒……されるような雰囲気ではありませんね。
「なら何も問題なかろう。我の知る“ゴート伯令嬢ニーナ”は貴女だけだ。
そして、我は初めて会った日から貴女のことが気になり、話をして気に入り、会うたびに好きになり──愛するに至った。友であるだけでは満足できず、伴侶に迎えたいと願ったのだ」
嗚呼、もぅ、この方は──どうしていつも私の欲しい言葉を簡単にくださるのでしょう。
「メッシュ様!!」
淑女にあるまじきはしたない行為ではありますが、感極まった私は、思わずこの方の胸に飛び込んでしまいました。
「ぅおっ! そなたの方から抱きついてくれるのは珍しいな」
ほんの一瞬だけギュッと強く抱き締めてくださったものの、すぐに抱擁を解かれます。
「お嫌だった、でしょうか?」
「嫌なワケがあるか。だが、こんな真夜中に、ふたりきりで、惚れた女を抱き締めて、そのまま理性を保てる自信は流石の我にもない」
「…………あっ!」
チラとベッドに視線を走らされては、そのテのコトに疎い私でも真意を覚らざるを得ません。
少し名残り惜しいですが、折角の“お気遣い”を無にするわけにはいかないでしょう。
私は、ほんの少しだけメッシュ様から距離をとりました。
「で、内密の話とは“ソレ”だけなのだな?」
「はい。これで、私がメッシュ様に隠していることは何もありません。
そして、今後、隠し事をすることもないと誓います」
「(また、
──そんな残念そうな顔をするな。このまま貴女の純潔を奪ってもよいのか?」
冗談、ですよね? いえ、おそらくは「限りなく本気に近い冗談」なのでしょう──私が残念そうな表情をしていたということも含めて。
「お心遣いに感謝します。おやすみなさいませ、メッシュ様」
「うむ、おやすみ」
* * *
グラジオン歴485年。アーストラ王国にて、王家の第4子たるギルバートと、ゴート伯爵のひとり娘ニーナの婚礼が執り行われた。
第三王子であったギルバートは、そのまま王位継承権を放棄して臣籍に下り、降婿してゴート伯爵家を継ぐことになる。
才気煥発ではあるが、少々気まぐれで傍若無人な傾向のあったギルバートだったが、熱愛の末、ニーナと結ばれた後は、いくぶん性格が丸くなり、結果的に、極めて有能な近衛将軍として王国の歴史に名を残した。
また、その妻ニーナも、「レディ・オブ・レディス」、「聖女夫人」と称えられた才色兼備の女性で、これまたいくつかの逸話と功績が語り継がれている。
彼と彼女の間には二男三女が生まれ、その子孫たるゴート伯爵家は、約300年後にアーストラが他の国と合併して連邦となるまで、王国の重鎮として国を支え続けた。
──なお、同時期に王国東方の辺境域で冒険者ギルドのマスターとなり、ギルドの制度に関する様々な改革を実施した「リュウ・ゲン」と言う人物が、かつてゴート伯爵家に仕えていたという風聞もあるが、真偽のほどは定かではない。
お嬢様稼業は楽じゃない -入れ替わり偽令嬢奮戦記- 嵐山之鬼子(KCA) @Arasiyama
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