廃屋敷の奥には、

あも

第一話

これは私が中学生だった頃の話です。


 私には、ひまりちゃんという友達がいました。キリッとした顔立ちで、羨ましいくらい綺麗な二重の持ち主でした。

 髪は真っ黒のショートへアで、私とお揃いで買った黄色のヘアピンをいつも付けていました。


 ひまりちゃんはとにかくオカルトやらホラーやらといったものが大好きな、少し変わった子でした。


 私たちの住んでいた地域には、夜に幽霊が出るといったようなありきたりな噂のある廃屋敷がありました。

 その手の話をひまりちゃんが見逃すばずがありません。

 案の定、ある日彼女は一緒にその廃屋敷へ肝試しに行こうと私を誘ってきました。

 怖いものが苦手な私はすぐさま断りました。 

 でも彼女はなかなか諦めませんでした。

 数週間にわたる説得の後、私はついに折れて廃屋敷に二人で行くことになりました。


 深夜に家を抜け出して、三十分ほど歩いてそのいかにも幽霊が出そうな廃屋敷を見た時、私はなんで着いてきてしまったのだろうかと後悔しました。

 玄関の門は片方しか扉がなくて、その扉も夥しい量のツタが絡まっていて、元々がどんな姿だったのかは想像もできないような有様でした。

廃屋敷は古い木造の建物で、ちょうどコンビニを2つ並べたくらいの大きさで、二階建てでした。


 なんの躊躇もなく歩くひまりちゃんの右手を強く握りしめながら、私は彼女の後ろをそろそろと歩いて行きました。

 屋敷の入り口の扉はぼろぼろで、鍵はかかっていませんでした。

 そしてひまりちゃんがドアノブを引っ張ると、きぃ〜と甲高い声をあげてドアが開きました。


 屋敷の中はひどい有様でした。

 床にところどころ穴が空き、木材やらガラスの破片やらが散乱していました。

 家具は横に倒れたり、逆さに立っていたりして、そのどれもが私一人の力で壊せてしまいそうなほどにボロボロでした。

 そのいかにもな廃屋敷の内装を見て私は恐怖で縮こまっていましたが、一方でひまりちゃんはキラキラという擬音語が実際に聞こえるのではないかと思うぐらいに目を輝かせていました。

 私たちはそれから一時間ほど中を探索しましたが、結局これと言って何か変わったものはありませんでした。

 ちょっと大きなお屋敷と、一般家庭ならどこにでもあるような品々の成れの果てしかそこにはなかったのです。


 でも、1つだけ不可解なことがありました。

 外から見た時、この屋敷は二階建てだったのに、どれだけ探しても二階につながる階段が無かったのです。

 結局私たちは一階をぐるぐるした後、もう帰ろうかと言って入り口の方に来ていました。

私がドアを開けて外に出ようとするとひまりちゃんが

「最後にもう一回階段を探してくる」

と言って一人で屋敷の中へ駆け出して行きました。

 なんで一人にするのよ、ひまりのバカと心の中で悪態をつきました。

 そして屋敷の中にいるのは怖かったので外で彼女を待つことにしました。

 それから彼女はなかなか帰って来ませんでした。

 これ以上一人でいるのは耐えられないと思って、廃屋敷の外から彼女の名前を大声で呼ぼうとした時、ドアが開いて彼女が顔を出しました。


「ずいぶん遅かったね。何してたの」

私は涙声でそう尋ねました。すると彼女は


「階段を見つけてニ階を探索してたの。それで、このお人形を見つけたの」

 そう言って彼女は一体の人形を私に見せつけてきました。

 その人形は穏やかな顔立ちで、長い金髪をツインテールにしていて、そのツインテールの根本には赤いリボンが付けられていました。


「すごく可愛かったから持ってきちゃった」

 彼女は満面の笑みでそう言いました。


 私はそれに何かヒヤリとしたものを感じました。

 あれだけ探しても見つからなかった二階に彼女が辿り着いたこと。

 あれだけオカルトやらホラーやらにぞっこんで他のものに興味を示さなかった彼女が可愛いからと言って人形を持ってきたこと。


 なんだか気味が悪くて仕方ありませんでした。

 その後私が人形を元の場所に戻してきた方が良いのではないかと何度言っても彼女は聞く耳を持たず、私が折れる形で肝試しは終わりました。


 あの人形にひまりちゃんが呪われてしまったらどうしようと心配していたのですが、その心配は不要でした。

 この肝試しから六年経った今までの間、何も起きなかったのですから。


 ひまりちゃんとは別々の高校に進み、疎遠となっていたのですが、つい一週間ほど前に連絡を取って、今日彼女の家に遊びに行きました。

 インターホンを押して少し待つと、彼女がドアから顔を出しました。

 久しぶりに会うので外見が変わっていたりするのかなと思っていたのですが、そんなことはありませんでした。


 昔と同じく穏やかな顔立ちで、長い金髪をツインテールにして、その根本に昔と同じ赤いリボンをつけていました。

 その後私たちは彼女の部屋で、小一時間ほど話しました。


 ふと何か視線を感じて部屋を見渡すと、ベッドの横のタンスの上に、あの人形が置いてあるのを見つけました。


 目が大きくて、真っ黒のショートヘアで、私が付けているものとよく似た黄色のヘアピンを付けたその人形は、どこか悲しそうな顔をして私を見つめていました。

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廃屋敷の奥には、 あも @amodayo

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