再編:荒くれ、隊長に成り上がる

 国一番の暴力犯罪者ことヴァイオルトが蘇生師となり、回復魔術師特殊部隊「フェニクシオン」の隊員として働きだしてはや2週間が経った。現在では比較的新人の少女タルトラと並ぶ有能さを誇るようになっていた。

「…またツーオペか」

「……タルトラは完徹…です……」

 小屋の壁にもたれたタルトラが力なく呟く。

「医療崩壊まっしぐらだなコレ」

 二人が有能というよりも、他が無能であった。



 いつものように黒電話が鳴り、現場へと急行する二人。ヴァイオルトだけ般若めいた仮面を被り、首から下の魔術師らしい白装束は共通していた。二人が到着すると、しかし既に蘇生は終わっていたようだった。

「あれ、また誤報かなぁ」

 そうタルトラは言いながら、ぴょこぴょこと現場をうろつく。さすがに戦闘は終わっていたが、まだ油断はならない状況とも言える。

「…あれ、隊長?」

 タルトラと同じ白装束。その横顔は、遠目ではあったものの、確かにストレンガーであった。

「お~い…って、速ぁ」

 すでにストレンガーの姿は見えなくなっていた。

「どしたん」

「ストレンガー隊長、無断でおしごとかなぁ」

「え、それ嫌なんすけど」

 ヴァイオルトは無駄足が嫌いであった。それが作為的なものであればなおさらだ。



「…と、いうことです」

「なるほど…確かに、一度フェニクシオンをきれいにしておきたい、という意見には賛成します」

 そうティーカは言った。新米隊員がその上の組織のまたトップに話を持ち掛けるというのは、この国ではなかなか無い事例であった。それほど切羽詰まった状況である、と書きたいところだが、実際は気の置き所のない仲だから、というのが妥当だろう。

「しかし……これだと隊長を誰にするかという問題が……」

「確かに」

「…分かりました。今よりストレンガーを当組織から除名、代わって隊長にヴァイオルトを指名します」

 嫌な返事こそしなかったものの、ヴァイオルトの額には影がかかったことだろう。



「隊長~~~~!!」

「成り上がりにしたってこれは雑じゃない?」

「いいんですよぉ、隊長を隊長って呼べるんだから」

 タルトラは謎に上機嫌であった。どうやらヴァイオルトを隊長と呼びたい謎の欲求があったらしい。


「うっす隊長」

「なじんでるねぇ」

 ブレロイドの軽薄な呼びかけに、ヴァイオルトもまた軽薄に返した。

「いやぁ~、割としっくりくるんですよね、コレが」

「何で?」

 ブレロイドもまた、ヴァイオルトを隊長と呼ぶのは自然の摂理と言った感じであった。


「じゃあ隊長、私はこれで」

「は~い…はい?」

 フィルナも例外ではなかった。そして勝手に退勤するのもまた、フィルナにとっては自然だった。



「ストレンガーさん、大丈夫かな」

「スさんなら大丈夫ですよ?なんていうか、天才って感じのひとだから」

「じゃあまあ、ええか」

 そんな会話を交わしながら、有能組の二人はまたもや寝ずに夜を過ごすのだった。

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仮面の蘇生師 御前黄色 @Omaekissyo

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