十日目

 茉莉まつりは両親との朝食中に、落ちんでいた。


 まるでこの世の終わりかのような口調くちょうで、つぶやいた。

「はああああ……。もうダメなのです、もう終わりなのです。私はこの九日間、『君』を安心させいやそうと必死に努力してきたのです。でも結果は、惨敗ざんぱいだったのです。

 スマホをググれば、まだ色々いろいろな音がASMRになることが分かるのです。でも、もうダメなのです。もう私の心は、れたのです……」


 すると茉莉はまだ朝食を食べている両親に、聞こえるか聞こえないかの小さな声でげた。

「あ、それじゃあ私は、学校に行くのです……。行ってくるのです……」


 そして登校とうこうの途中でも足取あしどりは重く、ため息ばかりついていた。

「はああああ……」


 学校に行くとその日の一時間目の授業は、生物だった。

 教室には教師きょうしが黒板にチョークで書く、音が小さくひびいた。

//SE黒板にチョークで書く音『カッカッカッ』


 それと生徒がノートに書く、小さな音も響いた。

//SEノートにシャーペンで書く音『カリカリカリ』


 茉莉は気落ちした口調で、つぶやいた。

「はああああ……。私は『君』と、ちょっとお話がしたかっただけなのです……。いや、そのままお話がはずんで良い雰囲気ふんいきになったら、『私と付き合って下さい!』と告白こくはくして『君』と付き合おうという、よこしまな考えもたしかにあったのです……。

 ああ、もしかすると、このよこしまな考えがうまく行かなかった理由なのかもしれないのです……」


 すると突然とつぜん、茉莉の前に座っている男子生徒がり向いて、話しかけてきた。


 茉莉は当然とうぜんおどろいた声を出した。

「え? どうしたのですか、突然? え? 今日は話しかけてこないのか、ですって?

 え? 今までのような変な音よりも、私の声が聞きたいですって?!」


 茉莉は考え込みながら、納得なっとくしたような口調でつぶやいた。

「そういえばASMRの中には、『落ち着いた口調で話す言葉』というのも、あったような気がするのです……」


 なので茉莉は、聞く人を落ち着かせ癒す口調で男子生徒に話しかけた。

//SE聞く人を落ち着かせ癒す口調の声「ねえ、『君』とは同じクラスになって一カ月もつのに、まだお話ししたこと無かったよね。よかったら私とちょっと、お話ししない?」


 すると男子生徒は、ちょっとれた表情になってうなづいた。


 茉莉は、すべての願いがかなったかのような声でさけんだ。

//SE全ての願いが叶ったかのような声「やったのです! ついに私は、『君』とお話しをすることができるのです! ASMR、バンザーイ!」


 するといつの間にか生物の教師が、茉莉の机の横に立っていた。


 茉莉は、どうしたんだろうという、不思議そうな口調で聞いてみた。

「あれ? どうしたんですか、先生。そんなにこわい顔をして。え? ちょっと職員室にこい? 説教せっきょうしてやる? え? 授業中に大声おおごえを出したから?」


 すると茉莉は、やれやれという口調で説明した。

「何だ、そんなことですか。でもこれには、海より深い事情じじょうがあるのです。先生も理由を聞けば、きっと納得してくれるはずなのです。それは……」


 茉莉の説明の途中とちゅうで生物の教師は、茉莉の右腕をつかんで立たせた。そして引っった。


 茉莉は、あわてた口調になった。

「ちょ、先生、分かりましたよ~。職員室に行って、説教されますよ~。あ~れ~」


                                   完結

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

決めたのです! 私は絶対十日間で『君』と、お話をするのです! 久坂裕介 @cbrate

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ