52 あとがき
本作品を最後までお読み頂き、本当にありがとうございました。あとがきから読まれるという方、この先ネタバレを含みますのでご承知おき下さい。
この作品は、「全員両想いのハッピーエンドな三角関係を書きたい」というところからスタートしました。メインとなる純くん、楓ちゃん、千晴くんのキャラクター造形はすぐにできました。そして、この三人に共通点を持たせたいと考え、浮かんだ案が「自死遺族であること」でした。肉親の死をどう受け止め、どう行動したか。その違いを彼らには持たせました。
私にとって、小説で「死」を描くことはとても重いことです。果たしてこのテーマでいいのか、引きずられやしないか、何度も考えました。けれど、強い使命感のようなものに突き動かされ、キーボードを叩きました。三人が互いの共通点を知ったときのシーンは深夜に書きました。楓ちゃんが自殺未遂をするというショッキングなシーンでもあります。あそこは「死」と同時に「生」も描きました。大きな山場だったと思います。
楓ちゃんの設定を双極性障害としたのも、小説家として大きなチャレンジの一つでした。私自身が双極性障害の当事者であります。どうしても、彼女には自身を投影したところがあります。私も自殺を考えたことのある人間です。この病気のことを、一人でも多くの人に死って欲しいという願いもこめて書きました。作中にも書いた通り、双極性障害は珍しい病気ではありません。現実に、数多くの方々がこの病気と戦っていることを、知らせたいと思って書きました。
残念ながら、現実では楓ちゃんのように支援者に恵まれるケースは稀でしょう。メンター役として、龍介くんを登場させましたが、彼のような動きができる大人はまず居ないと思います。香織ちゃんと雅紀くんにも、大きな役割を持たせました。特に、香織ちゃんのお陰でコミカルなシーンを挟み込むことができ、物語に濃淡が生まれたと思います。
奈緒ちゃんの暴走には、作者である私も驚きました。ちょい役の予定だったのですが。あまりにも話が展開するので、「順番に書く」という自分の中での決め事を破り、最終話を書いてから間のエピソードを調整するということをしました。彼女にはほとほと困らされました。ですが、彼女の登場は、純くんが「三人で生きる」ということを本当に決意した大きなきっかけとなりました。彼女は千晴くんも言った通り図太い性格です。この先も、必ず幸せを掴むことでしょう。書いていて非常に魅力的なキャラクターでした。
この作品には、いくつかのカクテルが出てきました。今回は、酒言葉にも気を遣いました。作中で明記しなかった酒言葉もいくつかあります。もし良ければ、それぞれ調べて頂くと面白いかもしれません。私自身も、ショットバーによく通う身です。飲んべえの私から言わせれば、酒言葉にいちいち気を配っていると自由に飲めなくて苦しいんですけどね。ここは小説の場ですから、象徴的な意味を持たせました。必ず理由があります。それが彼らの物語です。
勝手にモデルにさせて頂いた、マスターの川上さんに感謝を。いつも美味しいお酒をありがとうございます。そして、アードベッグを薦めてくれたアルバイトの美和ちゃん、ありがとう。あのスモーキーさにハマりました。
そして、我が夫よ、ありがとう。物語にのめり込みすぎて、上の空だったことがありましたね。心配をかけました。私が双極性障害と診断された以後も、付き添ってくれた大事なパートナーでもあります。お酒を飲みに行かせてくれて、小説を書かせてくれて、本当にありがとう。これからもよろしくお願いします。
もちろん、読者の皆さまにも、精一杯の感謝を申し上げます。純くんたちの物語を、最後まで見届けて頂き、ありがとうございました。もしよろしければ、コメントや星評価をお願いします。私はこれからも、小説家を続けます。ぜひ、次の作品でお会いしましょう。私は毛色の違う様々な作品を書いているので、過去作にも目を通して頂けると非常に嬉しいです。お気に召す作品がありますように。それでは皆さま、またね!
ショート・ホープに火をつけて 惣山沙樹 @saki-souyama
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