第3話
「行くって……
「うん!!」
いや、流石にムリでしょ。そんなふうに言おうとした
「あ、行けるかどうか、じゃないよ? 行ってみたいって思うでしょ?」
「……まぁ、行きたいか行きたくないかで言われると、行ってみたいけど」
「そりゃ、冷静に考えたら、無理だろうね。光の速度でも二五〇万年かかる旅路になるからね。もしかしたら、人類が滅びる方が先かもしれない」
「……」
夜空に手を伸ばす
「世界は
二五〇万光年先の未知の世界だけじゃない。人はいったい太陽系の何パーセントのことを理解できているのだろう。地球儀を作って、地球のことは理解した気になっているけれど、海の九十五パーセントは未だ解き明かせていない。知と知の間の空白を、星座のように繋ごうとするのは、人間に備えられた探求心ゆえだ。
「でも……、やっぱ無理なのかな?」
「……」
そこで、
「人類が初めて月に辿り着いて、もう何年たった? それなのに、まだ月の裏側に人は足跡を刻んでない」
思えば、初めて人類が月に足跡を刻んだ一九六九年は東西冷戦の最中だった。米ソが激しく対立し合うなかでおこなわれた宇宙競争は、人類の目標というよりかはアメリカの政治目標としての色彩の方が強かったのかもしれない。世界の政治家にとっては、大気圏外のことよりも、相変わらず地球のなかでおこっている権力闘争の方が重要で、宇宙の空白を埋めてやろうという心躍らせるような人は、ついに現れることは無かった。
「本当は、空白を埋めたいはずなんだ!! 心躍るような、未知への旅路がしたいはずなんだ!! それなのに……こんなんじゃ、宇宙旅行なんて、夢のまた夢だよ!!」
火星への旅? 馬鹿をいえ。現在考えられているような計画は、所詮片道切符だ。宇宙旅行を謳うどれもが、地球圏外に行くことを想定していない。それどころか、口を開けば、VR!! 仮想世界!! メタバース!! 完成されて白紙なんて存在しない地図の上で、人は満足するようになってしまっている。そこで、はたして未知への好奇心を満たせるのだろうか? すべてが満たされていて、余白のないその場所を、人は「
「ねぇ、
「
「もしそうなら、私は人間の敵になるよ。馬鹿みたいに身内で争い合うんならさ、私が
そこまで言ったところで、
そして、自分の言葉を確信する。世界は空白で、だからいくらでも二人の望む世界を描くことができるし、書き上げることこそが二人の向かうべき未来なのだと。明星は夜明けの空を琥珀色に照らし、黒紫色の空はそんな明星の旅路の物語を描くに相応しい作家だ。
「
「……」
「でも前言撤回。やっぱり、行けるよ」
「アンドロメダ銀河まで?」
「連れてってよ、
付き合うよ、どこまでも。
相変わらず世界は、どこまでも白く、だからこそ可能性に満ちている。お互いに愛しているのは、お互いの空白。お互いの可能性だ。何でも描くことができるし、どこまでも行くことができる。未知への旅路は、創造の旅路なのだから。
「私と付き合ったこと、絶対に後悔はさせない」
笑い合いながら、繋がり合う二人。まぁ、まずは修学旅行中の自由行動のプランを練ることからなんだけどね、なんて言い合いながら。
星空の下で、お互いの空白を埋め合った。
今夜、一緒に星が見たいから。 げこげこ天秤 @libra496
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