第7話 向き合って、背負う。
あの後、悠に誘われて家に来ると、突然手首を捕まれ、押し倒された。
え......?
「何やって......!」
「静かにして」
ただ、求めるような眼。
そのままの勢いで唇を重ねられ、舌を入れられた――ディープキスをされた。
拒否しようという気持ちにはならなかった。
吐息が、熱が触れる、食むようにこちらも舌を絡める。
互いの目線で幸福を確かめ合う。
あぁ......なんかすごい......
===
あの後、特段何かが起こったかと言うと何も起こらなかったし、俺もこちらから手を出すみたいなはばかられた。
俺としてはもう少し段階を踏んだ上でそういうことはした方がいいと思う。
「えぇと......ごめん裕也」
「あ......うん」
このとおり、何も言えなくなってしまった。だって恥ずかしいしね。
「でもほんとにごめん。いきなり。気持ち悪くなかった?」
「いや、寧ろ気持ち良かったまである」
「......!」
悠は恥ずかしそうに目を伏せる。今のは問題あったかも。
「嫌じゃなかったし嬉しかったよ」
「ありがと」
気まづい雰囲気ではあったけど、どこか心地よかった互いにそこまでしても良いくらいに信頼していて、好きであることが再確認出来たから。
「じゃあ、俺は帰るよ」
「うん」
恋人としては初デートだったけど今日も色々あった。でも何も無いよりは格段に楽しい。そう思った。
===
俺は、俺たちは変わっていく。昔の何も見えてなかった子供のままでは居られない。
孤独を愛していた俺はいずれ世界さえ変えられると、群れずとも自分を保てる俺は特別なのだと思っていた。
だが、違った。俺はただの強がりで痛々しい奴でしかない。それに気づいた途端、段々とそれではままならなくなってきて、俺は少ない友達と行動するようになった。
心残り――小四の夏に出逢った、独りで震えていたあの女の子は今どうしているのだろう?
スマホから通知が鳴る。悠からの通話の通知だった。
急いで応じる。
「どうしたんだ」
『ちょっと話したいことがあってね。顔が見えない方が話しやすいこともあると思うから』
「あぁ。そういうのもいいな」
『ごめん。私嘘ついてた』
「言いづらいことなら言わなくていいけど」
『ううん。言う。どの道いずれ言わなきゃいけないから』
一呼吸。
『小四の花火大会の日に会ってからずっと好きだった』
「え? あの子が?」
『頑張ったよ。頑張って可愛くなったし、頑張って友達も作った。ずっと待ってた』
「マジか、てか俺の黒歴史も知ってるってことかよ」
死にたい。恥ずかしすぎて死にたい。
『いやいや、今でもあの頃の裕也は私のヒーローだよ。頑張ろうと思えたから』
「......ごめんな。俺はこんなになって」
そうだ。俺は彼女の期待を裏切ったのかもしれない。俺はビッグにはなれなかった。
『ううん。裕也は優しいと思う。自信もっていいよ』
その言葉にまた救われる。
「ありがとう。そんなこと言ってくれる人は居なかったよ」
『じゃあ、また学校で』
「あぁ」
通話が切られる。ほんとにすごい日だ。
===
「おはよ。一緒に行こ!」
「おぉ、黒瀬と坂は今日も仲が良さようで」
「はいはい」
俺たちの関係も段々と公認になってきて文句を言ってくる連中もかなり減ってきた。
まぁまだ完全にとはいかないけど。ずっと隠す必要も多分なかったと今となっては思う。
幸せだ。
お互いの過去も含めて、これからも俺たちは背負う。それで時に傷つくことも、すれ違うあるだろう。でも、それでいい。そう決めた。
その度に向き合って、癒し合って進んでいく。
それでいいんだ。俺たちは。
「今日はどこ行く?」
「まぁライブハウスとかどうだ?」
「おぉ久しぶりだね」
「まぁな」
~完~
陰キャの俺の唯一の女友達は実は俺のことが好きらしい。 神崎郁 @ikuikuxy
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