最終話

 空炉とリュウとピポラと果蓮は湊と清香の様子を見にいくことにし、玲華は手術室の前に行くことにした。

 廊下は嫌に静かで、三名はそれぞれ焦る気持ちから足が早まっていく。


「無事!?」

 扉を開いて果蓮が一言声をかけたとき、複数のベッドの傍にいたのは、力の無い光を抱えるルイフェル・トクツェアだった。

 何故か五体満足のルイフェルに対して一歩後ずさる面々。

 扉は開いてるはずなのに何かが当たって外には行けないと最後尾の空炉が思った瞬間前へと押し出される。押し出してきたのは腕が何本もあるような黒い異形だった。

 ルイフェルは光を窓際で一番近い湊のベッドへ下ろすと、頭を撫でて布団を被せた。

 空炉とピポラ、リュウが何度も見た優しいルイフェル・トクツェアがそこにいた。やっぱりルイさんは操られていただけで、本当は優しいルイさんのままだったんだ! 今までのことを考えず、目の前の光景を見た空炉はそう思い、自分も撫でて欲しいと思った。思っていたのだ。


「死体に布団をかけるなんて意味あるの?」と黒い異形がルイフェルに笑いながら聞いたとき、果蓮・空炉・ピポラ・リュウはルイフェルが光を殺したんだと理解した。怒りで我を忘れそうなピポラが銃を取り出すとルイフェルは冷たい目で銃を取り出し撃って弾く。黒い異形が足で銃を踏みこわすのと同時に複数あるうちの二つの手でリュウの口を塞ぐ。手で塞ぐと言うよりはテープを貼られたような塞がれ方で、首元には別の腕がナイフに変形している。徹底的にリュウを喋らせないつもりだ。


「あんた、やっぱり復讐のために、」と果蓮が言いかけたところで黒い異形の蹴りで昏倒させられる。

 ルイフェルは、銃を持ち、光、湊、清香の順番に頭に一発ずつ的確撃っていく。白い枕が赤く染まっていく。黒い異形の口笛が部屋に響く。そしてルイフェルは静かに銃弾を装填していく。


 銃はゆっくりと空炉へ向けられる。

 空炉は今度は自分が殺されるんだと理解して、命乞いのように言葉を紡いだ。

「ルイさん、ルイさん、ずっと心配してたんだよ。みんなバラバラになって、帰る家も無くなっちゃったけど、それでもルイさんがいれば、って頑張れたんだよ。私は。総帥ね、遺言状でルイさんのこと縛り続けてごめんって言ってた。こんな場所、ルイさんにとっては最悪の場所に違いないのにずっと我慢してくれてありがとうって、私それ読んで思った、ルイさんに帰ってきてほしいって言うのがいかに傲慢だったってこと。でもあの時間だけはあの時間だけは確かに私にとってもみんなにとっても宝物だから、だからルイさん!」

 ルイフェルは表情を一つも変えず引き金に指をかける。

 それを見て、死を悟った空炉は目を閉じる。なんとか助けようともがくリュウに、顔を歪めて下を向くピポラ。


 瞬間、黒い異形が悲鳴を上げる。扉を塞いでいた腕が誰かに切られたようだ。その調子で腕が離れていく。

『動くな!』とリュウが黒い異形とルイフェルに命令した時、誰かの声で「ありがとう」と聞こえた。

 誰もが止まっている中、その人物は人の間を潜り抜け、空炉の前に立つ。

 ルイフェル・トクツェアに向けて銃を泣きながら連射したのは、リリア・ディフォールト。

 ルイフェル・トクツェアが最初に殺した夫婦の妹である、リリア・ディフォールトであった。

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融雪、燃ゆる T◎-BUN @toubun812

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