モノクロの女神
わふにゃう。
第1話:出会い
死につつまれた時代。世界にはある言い伝えがあった。
―――いつの日か、天上より断罪する者が現れるだろう。
***
遠く、地平線の彼方まで広がっている森の中。一人の女性が木々の間をひたすらに走っていった。彼女以外に、周囲に人影は見えない。
集落の入り口まで、あともう少し。あそこの門さえくぐれば、アレは私を追うことができなくなる。
それにいざとなれば、この前来ていた商人から買ったものも使えるはずだ。1回限りの代物だけれど、時間稼ぎにはなる。
彼女の進行方向とは反対の方から、唸り声が響いた。やはり。まだ追いかけているようだ。
後方に注意を向けたとき。彼女は唐突に転んだ。木の根に足が引っかかったのだ。彼女が手に持っていた籠から、摘み取ってきた色とりどりのベリーが散らばっていく。
痛みに顔をしかめつつ、正面を向き直そうとして―――彼女は、横に何かが近づいて来ていることに気がついた。視線を向けたその先には、黒い狼がいる。自身の背後にも1匹。もう片方の横にも1匹。
立ち上がって逃げようとして、足に強烈な痛みが走った。どうやら、さっき転んだときにくじいてしまったらしい。
ジリジリと距離を詰めてくる狼たちを見て、死を覚悟した。
その瞬間。
何かが破裂したような音が響いた。それと同時に、彼女の左側にいた狼が倒れ、煙のように消えていく。
背後の狼が、怯えるように後退った。
再び、大きな音が響く。次は右側の狼が消えた。
覚悟を決めたのか、背後にいた狼が大きく飛び上がる。
動けないで座り込んでいる彼女を飛び越え、着地しようとして刹那。その狼は真っ二つになったかと思うと、消滅した。
信じられない。
この世に、これほどきれいに魔物を退治することのできる人がいたなんて。
夢でも見ているかのようにボーッとしている彼女に、誰かが喋りかけた。
「大丈夫だったかい?」
彼女の前方の茂みから、人が出てくる。
白髪に、金色の目。体格は彼女より一回り小柄で、上下共に黒を基調とした服を着ている。長袖のコートは、その人物に大人びた印象を与えていた。片手には、金の細工が施されたマスケット銃を携えている。
「平気よ」
差し伸べられた手を掴んで、なんとか立ち上がると、彼女は訪ねた。
「あなたは誰?」
眼前の少女は答えた。
「僕はアイリス。旅人さ。君は?」
「私はリーナよ」
それが、リーナとアイリスの出会いだった。
モノクロの女神 わふにゃう。 @wafunyau889
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