閉幕
勝者の後日談
チームルーザー初勝利。
この戦いは一週間は語られ、動画サイトでは非公式の動画が出回った。
非公式の動画は三日で全て消され、公式サイトが有料で公開する事で一時的に治まったが、未だ非公式で動画を上げている投稿者と、削除する運営の鼬ごっこが続いていると言う。
「まぁ、あまり金を使いたくない我々としては? こういう非公式動画と言うのはありがたい訳だがなぁ……」
彼女含め、チームルーザー所属の転生者が過ごす場所は、世界七不思議の一つとしても数えられる世界最古の毒殺者、セミラミスの有する空中庭園である。
「コラ、荊軻。貴様は酔うとすぐに吐く故、我が庭園での飲酒は禁じたであろう」
「これからまた、いつ死ぬかわからぬ戦いに投じられるのだぞ? 硬い事を言うなセミラミス。アタランテを始め、続々とルーザーに集結している。これから、騒がしくなるぞ?
「こんなはずでは……
「安心院なら、家で悲鳴を上げてるぞ? 南條は何処だぁ、と」
東京某所。某喫茶店。
テーブルに置かれた携帯端末が、休むことなく揺れている。
が、携帯の持ち主に取る気は無く、電話の相手が報われる事はまだないだろう。
優雅に珈琲を啜る男の前でけたたましく鳴り続ける携帯端末に、対していた相手の方が耐え切れず、吐息した。
「取っては?」
「ケッケッケッ。内容は概ね予想が付く。向こうは後で相手してやりゃあいい。今はこっちだ。おめぇの方が何して来るかわからねぇ。何の用で呼び出した、監督」
あからさま、互いに素性を隠す格好。
故に南條も、相手が誰かはわかりつつ、敢えて濁す。
この場で何の躊躇もなく本名か監督名で呼ぼうものなら、問答無用で側に控えさせていた転生者に斬らせていたのにと考えながら、監督ポラリスはオレンジジュースを飲んだ。
「この一週間、随分とご多忙だったようですね。次の対戦相手のお誘いと、転生者の勧誘と、間に合っていないのでは? 正直、今まで二人だけで仕切っていたというだけでも、驚きました」
「あぁ、お陰様でなぁ。歴史の中では敗者でも、実際の勝者は意外と多い。だから大変なんだ。真に勝たせたい負けカスと、楽して勝ちたいだけの
「言葉選びが粗暴ですが……まぁ、言いたい事はわかります。だからチームヴィクトリアの中でも、アタランテだけ引き抜いたのですか」
「まぁな。本当ならヴィクトルの野郎を連れ出したいが……」
「また酷な事を。ソロモンの暴走を止めた功労者として、あなたのところのニュートンが英雄視される代わりに、ソロモンを暴走させた罪と責任を取ってチーム解体、辞職にまで追い詰めておいて……」
「敗北。挫折。後悔。これらを嫌い、遠ざけ、経験を避けていった奴ほど壊れやすい。だから俺は好きなんだ。結果的には敗北者と取られながらも、それでも勝利を諦めない。馬鹿みたいなルーザー共がな」
「なるほど……そんなあなたに、一つ提案があって、今回は呼び出しました」
「裏で同盟組むって話なら、いいぜぇ俺ぁ。おめぇらとの勝負の時がすぐ来るからいい」
「違います……今回の件で、転生者は強い異能を持つ者であると言う事と同時、非常に危険な存在だと知られました。元々転生者大戦を良く思わない人々もいましたが、今やその声は強くなりつつあります」
「だから俺達で、転生者大戦を盛り上げようってか? この命の奪い合いを、正当化しようってか?」
「残念ながら、この世界に呼び出されてしまった転生者には、大戦以外に目的も目標も持ちません。何処かで異能を使い、犯罪者になられるくらいなら、私は……」
南條は珈琲のグラスを指で弾く。
小さくも響き渡った音に言葉を止められたポラリスが見たのは、サングラスを外し、この上なく面白そうに笑う南條の顔。
「転生者大戦に聖者はいねぇ。勇者も要らねぇ。戦いが決着した時、そこにいるのはただの――
立ち上がった南條は五千円札を机に叩き付ける。レシートをグシャグシャに握り潰した手で、サングラスをかけ直すまでの一挙手一投足を、ポラリスはポカンとして見ていた。
「今回は英雄が生まれちまったが、いずれ大戦も元の形を取り戻すだろ。その時ぁお互い楽しもうぜ。転生者大戦。そいつぁ、最っ高のエンターテインメント何だからな」
異世界転生者達の戦い。
勝利を目指す者。勝利を信じる者。勝利を求める者。勝利を利用する者。勝利を渇望する者。勝利を愛する者。
彼らの間に愛憎はなく、善悪もない。
ただ、勝利を求める欲望と渇望とがぶつかり合う命懸けのエンターテインメント。
転生者大戦は、今日も続く――。
転生者大戦~ウィナー・アンド・ルーザー~Ⅱ 七四六明 @mumei
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