第4話 笑い話

1年前

とある村


白い霧が半月から降り注ぐ。


見つけた!局長の娘だ!

お前らのせいで俺達は!

捕まえろ!

虐めて殺してやる!

王の為にあの一家を探せ!


「あゝ惨めな愚民。ふふ!」


まずは父親。


—殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ


切れ味の悪い包丁で体を何度も何度も肉を叩く。


—殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ


首を絞めて何度も何度もお腹を殴る。


—殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ


「いやいやー。中々酷い事を私に命令なさる」


これは全部、による幻覚。


  あの一家はただ日々を過ごしていただけで

 悪いのは2通の手紙。

 あゝ可哀想な家族。

 ううぅん。面白い面白いよおお!

 わらっちゃ駄目笑っちゃダメ!


村人はお互いに疑い、錯覚し、惑わされ、

愚民はお互いに殺し、結託し、娘を襲った。



「お前ら家族のせいで、俺らは何もかも失ったんだぞ!」

村人は娘の髪の毛を掴み只管に殴った。


別の村人は娘に這いつくばる様に指示をして、父親から流れる血を舐めさせた。

「私達が稼いだお金を使って食べてたパスタは美味しかった!?」

「俺らの息子達はな!お前らが、国に納める筈のお金を着服した事で持ってかれたんだよ」

「殺すだけじゃ終わらねーからな」


—知らない知らない。私たちは何にも知らない。

 何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で?

 何でお父さんは殺されてるの?


「ウゲェエェ…!気持ちわり、もうお手紙は何処にも無さそうだし、探すのも大変だからいいっか!それじゃ、後は勝手に自害して下さい!」


 この出来事は全部で終わる話。

権力が殺せと言ったのだから、お前らは仰せ——まに殺れち——やうん——。



道化は自分の頭を何度も殴りながら、ぴょんぴょんと跳ねて消えていった。


——

————

——————


9月1日 15時頃

ナイナイ村付近の森


突如襲った爆風により、馬車は100m近く吹き飛ばされた。


急な出来事に理解不能。

国の未来に必要な若者達は幸いな事に一瞬で死んだ。


「こりゃひでぇな」


「ですね。あっ生首だけでも持っていきますか?」


「若者を殺したって事実だけでも胸が潰されそうだ。よって却下!」


「モノマネ挟み込む余裕はあるんですね〜」


「カネだよカネ。お金様の事を考えたら心が落ち着くんだ。余裕が生まれる」


「はいはい。誰かに見られると面倒くさいんで早く立ち去りましょう」


「ダメ押しだ。この辺り燃やしといてくれ」


「へーい」


謎の二人組は事件現場から消えた。


——————

————

——


9月1日 16時頃

ナイナイ村付近の森


事件現場付近は、山吹色の炎が一面にめらめらと広がっていた。


その中、1人の男が目を覚ます。


「痛っ! イッタ!!」


目を覚ましたのはクリムだ。そして再び倒れ込む。

吹っ飛んだ際に左腕の骨にヒビが入っていた。

その事に気づかず、目を覚ました際に全体重を左手にかけてしまった。

倒れながらも状況を整理しようと周りを見渡す。


—激痛が走ったと思えば…。

辺り一面に不自然な色の炎が上がっている…。

待てよ…。カレンの火は赤だよな。

んん?どういう事だ。

炎はオレンジ色?

ダメだ。全く状況がわからん。


「おおい!!おおーい!!」


聞き覚えのある声が近づいてくる。


「…?」


「クリム!ポックだよぅ!ボクポックだ!」


「…え?」


「ねーねー!フランとカレンは治療したよぅ!後は君だけだ!」


得体の知れない小さい塊がぴょんぴょん跳ねながら言葉を発している。

だが、確かに懐かしさを感じざるを得ない声に彼の脳みそは目を覚ました。


「痛っ!ポックて、人形の!?」


「久しぶりだね!」


久しぶりだねときゃんきゃん跳ねる物体は、昔にクリム達が作ったお守り人形。

お守り人形は花の力を有する者達が色と祈りを丁寧に混ぜ合えば出来上がる、

生物では無い無機物のペットだ。

見た目は如何にも子供が作った人形で不恰好だが、昔はもっと綺麗で色鮮やかだった。

その違和感に彼は気づいていない。


「ポック!腕がめちゃくちゃ痛くて起き上がれないんだ。助けてぇ…」


「任せてぃ!ええいっ!」


ポックはクリムに奇蹟を施した。

苗色の綺麗な煙がクリムを包み込む。


ボロボロになった肌や、一瞬で蓄積された痛みなどがふっ飛んだ。

ただ、一番治って欲しい骨のヒビは完治とまではいかなかった。


「ありがとう!助かったぜ!」


「どういたしまして!さあっ!カレン達の元に行こう!」


「よっしゃ!」


—あいつ等なら、いやっフランなら状況がわかってるかもしれない。


お守り人形はクリムと共に彼女達の元へ向かった。

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東雲のオリエント そぎお @yakiyu

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