第3話 月が席を外す時

 はじめから分かっていた。


 君はいつか絶望をするって。


 私は人間が大好きだから。


 だから知っていた。


 君も人間を愛していたから。


 私は君と行くよ。


 まずは誰からにする?


 ——

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 9月1日 16時頃


 ポックの助けにより、3人は合流していた。


「おい。何が起こったのか分かるやつはいるか?」


「全然わからない」


「まずだ。吹き飛ばされ方からしてよ、絶対に死んでないとおかしいよな?」


「確かに」


「じゃあ、何が起こったんだ?分かるやつ、いるか?」


 彼らはこのループから抜け出せないでいた。

 2人とも頭がぼーっとしている。


「クリム君、過去に起きたことを把握するのは大事だけど、今の現状を解決してみない?」


「分かってるけど…怖いじゃん」


「他の乗客とかは居ないのかな?」


「多分、みんな死んでる」


「あの夫婦も若い人たちも...」


「夢じゃないんだよ、これって」


「うん、そして事故でも無いんじゃないかな」


「あっ、そう思えば。お前の火の色は赤だよな?

 周りに広がってた火が見たことない色だったんだけど」


「そうだ、私も言おうと思ってた。」


「…。」


 —私の力が暴走したのかな、オネショみいたな、でも余韻がない。


「私には分からないけれど、それぞれが持つ色って変わらないんでしょ?

 クリム君、カレンの暴走じゃないよ。

 さっ、ここからすぐ逃げよう。

 もしかしたら、狙われてる人はもう既に死んでいるかも知れない。

 けれど、もしこの中の誰かだったらまた…」


「ポック見たようぅ?二人組だぁ!

 たぶんだけどねぃ?」


「2人か」


「一応だけどさ、カレン。火を出してくれないか?」


「何でよ」


 疑われてるかもしれないと思い、少しイラついている。


「もしかしたら色が変わってるかも知れないだろ?疑ってるんじゃない。

僕は馬鹿だからさ」


「はぁ、分かった。」


「えっ、ちょっと!そんな事したら私たちの位置が!」


 フランは慌てて止めに入ったが遅かった。

 既にカレンは目を閉じて集中に入っている。

 そして、お爺ちゃんに渡された剣を一本の木に向けた。


 集中…私…。

 今思い描ける最も強い赤を…。


 真紅に、燃え上げて!


 目の前の木はブワッと一瞬にして燃え始めた。


「すげー!やっぱりお前すごいな!」


「はぁ。はぁぁぁぁぁぁ…!

 やりすぎた…。めっちゃくちゃ疲れた…。」


「ああぁ…。

 今すぐ逃げないと…。」


「逃げるなら僕に任せてぃ」


「なーんかごめーん!」


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 ——



 —場所は移動してがあった場所—


 「はぁはぁ…。

 逃げたのはいいけれど、こっからどうしよう!」


 「ねぇみんな聞いて欲しいんだぁ。多分みんなが気になってることぉ」


 「アイサ?」


 「うん…。」


 「聞かせてポック。」


 ポックは一年前に起きた悲惨な事件を話した。


 ——————

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 ——


 「……。」


 「アイサはどこだ」


 「家にいるよぉ」


 「なんでお前が居て助けてやれなかったんだ」


 「ごめんねぇ…。ボクにできたのは回復することしかできなかったんだぁ」


 彼はバッと立ち上がった


 「どこ行くの…?」


 答えを出さず走り出した。


 「クリム!!」


 「待ってぇ!はダメダァ!」


 ——————

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 ——

 クリムは必死にアイサが居る場所も場所も分からないのに走った。

 あの場に居たら、罪も無いポックを責めてしまいそうで怖かった。


 はぁはぁはぁ!

 クソクソクソクソクソクソクソクソ!!!!!!!!!!

 何であの時無理矢理にでも止めなかった!!

 何で手紙を返さなかった!!!

 何で異変に気づけなかった!!

 何で俺は馬鹿なんだよ!!!

 何なんだよ!!!!!!!!

 ——

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 ——————


 フランは静かに泣いていた。

 クリムと同じではないが似た理由だ。

 フランにとっては姉のような存在だった。


「今彼女は不安定なんだぁ、事件の後、突然周りに咲いた花の蜜を大量に食べちゃって…。

 たまに昔のアイサに戻るんだけどぉ、そうじゃ無い時は、ぼくも近寄れないんだぁ。」


 「…」。


 「アイサのご飯を集めてる時にカレン達を見つけてぇ。」


 「ポック、ごめんね。こんな事になるなんて。」


 「やめてよぉカレン…。」


 「私たちが君を産んだ理由は子供の好奇心でもあったけれど、友達が欲しかったの。

 辛い思いをさせたくて産んだんじゃない…。ごめん…。本当にごめん…。」


 「知ってるよぉ。想いが伝わって産まれてきたから…。

 でも悲し事から救えないんじゃ友達失格だよぉ。」


 「頑張ってくれてありがとう。ポック。

 フラン…。アイサの所に行こう。

 友達1人じゃ荷が重い事もある、みんなで会いに行こう。

 馬鹿も、多分だけど先に行ってるし。」


 「うん」


 フランは親友がそう言ってくれて嬉しかった。

 正直怖いが、このまま逃げれない。


 「2人ともありがとう。案内するよぉ」


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 ——


 「動き出しやしたゼェ兄貴ィ」


 「その喋り方やめろ」


 ——

 ————

 ——————


 必死に走ったクリムはとある場所についた。


 「何だよ。ここは。」


 ——————

 ————

 ——


 日が落ち始めて夜に切り替わる頃、

 カレン達は郵便局に向けて歩き出した。

 道中は花の蜜を啜った動物達が顔を出している。


「こんな時に便利なランタン!

 ちゃんとリュックに入れてて良かった!」


 フランは元気よくランタンを取り出した。


「私も入れてたはずなんだけどね、どっか行っちゃったよ。

 あっ!うさぎ!なのに羽が生えてる、何で?」


「鳥を夢見た人の魂だったんじゃない?」


「ほ、ほーん!なるほどねー!動物の方が反映されやすいんだっけ?」


「本能で生きてるからね。にしても、多いね…」


「うん」


「いっぱい人が死んだんだぁ。

 自殺でねぇ。この地は異常に花が咲くようになっちゃたんだぁ」


「それをアイサはいっぱい舐めた…。

 走ろう!ポック!抱っこするからこっち来て!」


「あいよぅ!」


「あれっ!こんな軽かったけ?後でいっぱいご飯食べ—」


 2人が走り出したその時、1人の女がカレンを目掛けて攻撃をしてきた。


「おおおりゃっ!」


 スパン


「きゃあ!」


 カレンはポックを抱っこしてたせいで、受け身が取れずその場に転がる。


「おいおい避けられてんじゃねーか。おりゃ!とか言うから」


 男はポリポリと頭を掻きながら嘆いた。


「カレン!絶対にこいつらだよ。 爆破の犯人」


「そんなことはどうでもいいって。

 あー、黒髪のショートヘア…。お前だ。

 殺すなよ」


 男は何か紙を見て相方に指示を出した。


「分かってまっせ!オラァ!」


 金髪の女はフランに攻撃を仕掛けた。


「ポック!ごめん!逃げて!」


「ほいぃ!」


 ポックはそそくさとお尻を隠しながら茂みに逃げ込んだ。


「もう!いきなり何すんのよ!」


「お前の命には価値が無いんだよ!だから話す価値もねぇ!殺してやるから待ってろ」


 一拍を置いて男はポンと手を叩く。


「いや、お前、カレンだよな。

 あの女をこっちに来るように説得してくれれば見逃してやるよ。

 どうする?」


 半笑いで彼女に提案をした。


「アホか」


「じゃあ死のうか」


 男を目を閉じて口を開いた。


 DOKAAN!!


「!!!!」


 カレンは瞬時に自分の立ってた場所から距離を取った。


「おいおい待て。 何で避けれてんだよ」


 一方で女同士の戦いは…


「兄貴ぃ!はぁ、こっちの女!かなり面倒臭いっす!

 うわっ!あぶなっ!こいつ調子に乗りすぎぃい!!」


「今のガキはこんなにもレベルがたけぇのか?

 おい!そっちも殺す気でやれ!

 どうせこいつらは力を使えやしねぇ!」


「…」


 —カレンの力に反応してきたわけじゃ無いんだ。

 この女は、に比べれば桁違いに弱い。

 なら、この女はカレンで余裕。

 けど、私が殺す。


「ねぇ、あんた本当に田舎のガキンチョ?!

 さっきからヤバい攻撃してきて!」


「死にたくないの」


「さっき言った!アンタの事は殺す気なんかないんよぉ!

 って、話聞いてぇ!」


 —待て待って待ってって!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!

 力使いたくても集中できない!


「ヤっヤバいよアニキィ!

 アタイ、死ぬかもぉお!!!」


「クソ」


「待ってフラン!殺しちゃダメ!」


「嘘だろ、お前ら手加減してんのかよ?」


 この時、フランの動きがほんの少しだけ鈍った。

 何故なら、フランは今の状況を打破できると読んでいた。

 だけど、誤算が生じる。

 今のフランは人を殺す事が出来るが、カレンにはそれが出来ない。

 相手を殺す前提の逃げの考えは破綻してしまった。


「お前は後だ」


 そういうと、男はフランの方を向き声を発した。


 BON!


 フランの腹部から爆発。

 そのまま彼女は約10m程吹き飛んだ。


「フラン!!!!!!」


「ある程度力は抑えたが、駄目になってる内臓はあるかもな〜、

 お前が舐めた事してるから、隙が生じるんだ。

 力はつえーが精神がガキで本当に助かった」


「はぁはぁ、兄貴ぃ、本当に助かりましたぜぇ…。

 アタイのために…、ヒクヒク—」


「お前には後で説教が待ってるからな」


 そういうと男は相方の頭を撫でた。


「そんなぁ」


「ポック!返事はしなくていい!そのままフランを連れて逃げて!」


「あん?逃がさんよ〜?」


「駄目です兄貴、あいつの目を見てくだせぇ」


「お前…」


 闇夜がやってきていた。

 月は潜め星が綺麗に咲く夜が。

 ここに真っ赤で綺麗な花が咲く。


「今だけはお前らの生死を気にしてられない。 早く終わらさせて」


 フラン達を追わせないように、床一面に大きな火柱が立つ。


「そうか!原色の花を喰らってたのか」


「おい女!アタイらだって条件は同じなんだ!

 殺していいんなら、本気で力使ってやる!」


 花の力が開花した状態の能力者には、集中は要らない。

 筆に絵の具をのせて、思いのまま絵を描くように力を操る事が出来る。

 ただし、脳の半分以上が支配されてしまう為、開花に慣れていない者は人間としてのどれかが欠落する。


 そして、女は本能で理解している。

 純粋な色には間違いなく勝てないと。


「おらおらあ!最大火力だっぜぇー!!

 死ねや女!!!!うぷっ!」


 カレンは一瞬で距離を埋めて右手で女の顔を掴みそのまま燃やそうとする。


「格上に逸るな!」


 すうふぅぅ…BAAAN!!


 男はカレンの足に焦点を合わせ爆発を起こしたが、

 身体能力が向上しているカレンは、女の顔を掴んだまま、

 攻撃をかわし、木の枝に飛び移った。


「バァビキィぃバブベベ!」


「めんどくせぇ…、おい!人質でも取ったつもりかよ!」


「人質…、それはアンタが決めて。

 本当に殺したくないの、だけど色々なことが急に起きて頭が回らない。

 善良を取り繕えそうにも無い。だから早く決めて」


「決めろって何をだよ」


「時間がないから、次の言葉に気をつけて」


 ——

 ————

 ——————


 時は少しだけ遡り、場面は郵便局に移る。


「何だよ、この花の数は!


 遠くから爆音が聞こえる。


 まさかフラン達のとこで何か起きてるのか?!


 待ってろフラン!」


「もしかして、クリム?」


 靄が濃くて気づけなかったのか、クリムのすぐ近くには、

 女が立っていた。


「え?アイサ…?」


「うわぁ!やっぱりクリムだ!

 何でここにいるの?!」


 クリムの前に現れた女性は、同じ時を過ごすはずだったアイサだった。

 彼女は優しく微笑んでいる…みんなが事件を知っているはずが無いと、

 ただ会いに来てくれたんだと無邪気に笑っている。

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東雲のオリエント そぎお @yakiyu

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