第3話 取り乱してゴメン

 9月1日9:25


 3人は馬車に乗った。

 受け取った3本の剣を、同じ馬車に乗る乗客に怖がられないように、

 支給された学生服でなんとか隠す。


「もう乗る人はいませんねー! 出発しまーす!」


 馬車は5分遅れて出発。

 3人の他に老夫婦と若者たちが乗っている。


 んうぉおおお!!


「おっ、おい!お爺さんが凄い顔で走ってくるぞ!」


「えっ!また?」


 カレンは咄嗟に馬車の窓を開けて叫んだ。


「お爺ちゃーーーーん!向こうに着いたら手紙書くねー!!バイバーーーーーーーイ!」


「ぬぉおお!!頑張れよー!!負けんなよーー!!」


 お爺ちゃんは馬鹿みたいに号泣していた。


 ——————

 ————

 ——


[ヨミ村]

 ↓

[イーダ村]

 ↓

[ナイナイ村]

 ↓

[星の鐘]

 ↓

[ノーチ村]

 ↓

[御神渡りの里]


 3人が乗車した馬車はこの順番で移動する。

 御神渡りの里に着けば、そこからは王都まで電車で移動できる。


 ——

 ————

 ——————


 残暑でまだ暑い。

 フランは他の乗客に断りをいれて窓を開けた。

 若者たちがガヤガヤと騒いでいる中、

 カレンは泣き疲れたのか、爆睡している。


「ねぇ クリム君のお母さんは見送りに来なかったけど・・・」


「お母さんは朝からお仕事で来れないって言ってたな。あの人からしたら、僕が学校に行くなんて当たり前の事だから特別感はないんだろ」


 少し寂しそうに目を瞑る。


「そっか…」


 フランはまだ理由があるんじゃないかと疑っていた。


「お前の家族は…。 と来れないよな」


「違うよ。 カレンのおじさんとは違って、ボクの家族はちゃんとご老体。

 村から一番遠い地域に住んでるんだから、来ない方安心だよ」


「なぁ お前等の両親とお兄さんが死んだのって——」


「関係ない。カレンの両親も、ボクの家族も、ただ襲われただけ。」


「…」


 少し気まづい空気が2人の間に流れる。


「あっ この道の先、郵便物を乗せた馬車が強盗にあったんだよね。確か9年前と4年前に」


 フランは思い出したかのように窓から外を見た。


「あー 確かアイサの家族が任された郵便局だったはず」


 —よく何年前だって覚えてるな。


「アイサ姉ちゃんが引っ越した後、連絡とった?」


「取ってないけど平気だろ。事件が起きた後に引っ越したんだし、あとと一緒にいるんだ」


「停留所があったはず、止まってくれないかな」


 フランは何故か少し不安そうにしていた。


「アイサが乗ってくるかもよ!」


 カレンは急に話しかけた。


「うわっ!起きたなら起きたって言えよ!」


「一々起きました報告しないよ」


「2人共 あいつから聞いてないのか…? 王都にはいけないとか〜、色々と」


「おっ…?」


 ——————

 ————

 ——

 2年前の3月


 クリムのお家


「クリム、私引っ越すことになったの」


「どこに」


「ナイナイ村。 国がね、私のお爺ちゃんに任せてた郵便局をお父さんに任せることにしたらしいの」


「馬車で1時間ぐらいの場所だろ、じゃあ!アイサだけでもこの村にのこ——」


「私の家は、あなたみたいにお金持ちじゃないの!安定はしてたかもしれない…けど、色々あったの知ってるでしょ…?私だけ残るなんて出来ない!」


「…」


「お父さんを支えなきゃいけないから、王都には行かないことにした。」


「えっ…、じゃあ何の為に…一緒に勉強したんだよ!」


 彼は初めて彼女に声を荒げた


「仕様がないよ。…でもでも、郵便局がまた安定すればさっ、王都で働かなくても良い生活が出来るかもしれないからさーって、ははっ」


「ダメだ…」


 —アイサも一緒にじゃないと…


「2年後にはフラン達が試験を受けるよね、そして卒業したら国に従事できるようになるでしょ、そうしたら、もしかしたら…また一緒に過ごせるよね」


 彼女は、それが無理なことだと分かっていた。

 カレン達は特別。王の下で働けるぐらい強い。

 わざわざ、郵便関連の職に就けるはずが無いと。


「嫌だ!お前が行かないなら僕も行かない」


「クリム…。


 ねぇ、聞いて。


 私はあなたのお陰で、この村で過ごせたの。

 学校で私がイジメられてる時、真っ先に助けてくれて…

 そのせいでクリムの周りから友達がいなくなった。

 だから、罪滅ぼしじゃないけれど、

 私がこれから覚える事は全部教えたくて、居残りもして勉強をした。

 キモイよね。クリムには重かったかもしれない。

 でもね、あなたが助けてくれた時から、私の時間は全部捧げようと思ったの。

 だから…クリムが学校に合格できれば…それで…」


「…」


 でも、わたし

 皆んなと クリムと一緒に王都に行きたい 離れたくないよ


 涙と共に本音が溢れ出した。


「…こんな事言いに来たんじゃないのに…ごめん取り乱して。

 私もう行かないと。」


「待って、アイサ——」


 ——

 ————

 ——————


「私はてっきり、もう入学してるんだと思ってた。 なんで行かないの?」


 カレンは学校に行く楽しみが一つ消えてしまった。


ってやつだよ」


「…運転手さん!この馬車ってナイナイ村に止まりますか?」


 フランは急に運転手へ問いかけた。


「止まらないよ!次に止まるのは星の鐘だ!」


「おい!お前何してるんだよ」


 クリムは彼女の肩に手を当てた。


「友達に会いに行くだけだよ」


 フランは珍しくクリムに反抗的だ。


「俺はアイサに会わねーぞ」


「アイサ姉ちゃんはクリム君に会いたいはず、だって1に届いた手紙にはそう書いてあったから」


「私も会いに行けるなら行きたい、入学日って3日後だよね?間に合うはず」


「なんだよ!2人とも!他に客乗ってるんだぞ!迷惑だろ!」


 —やめてくれぇ…。本当に気まずいんだよ!


「友達に会いたいんだろ…?私たちのことは気にせずに」


 老夫婦の旦那は微笑えんで言った。


「あーもう!分かったよ!運転手さん!この券って途中下車できま———」


 DBAAAAANG!!!


 馬車は突如爆風に巻き込まれた。



 この事件は5日後に新聞へ掲載される事となった。


 運転手及び乗客 計8名 死亡

 犯人を含む行方不明者 計5名


 1日昼、ナイナイ村付近で、爆破事件が発生。

 犯人達は現在も逃走中で、が行方を追っています。


 事件の犯人は現在逃走中の下記2名


 カレン・バーニリア 14歳

 特徴:赤髪の長髪でナムディアム校の制服を所持

 生死問わない


 フラン・フレーゲ 14歳

 特徴:黒髪のショートヘアー

 生捕


 以下、行方不明者の捜索は現——


 ……………

 …………

 ………

 ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る