第2話 別れと再会

 9月1日9:25


 3人は馬車に乗った。

 受け取った3本の剣を、同じ馬車に乗る乗客に怖がられないように、

 支給された学生服でなんとか隠す。


「もう乗る人はいませんねー! 出発しまーす!」


 馬車は5分遅れて出発。

 3人の他に老夫婦と若者たちが乗っている。


 んうぉおおお!!


「おっ、おい!お爺さんが凄い顔で走ってくるぞ!」


「えっ!また?」


 カレンは咄嗟に馬車の窓を開けて叫んだ。


「お爺ちゃーーーーん!向こうに着いたら手紙書くねー!!バイバーーーーーーーイ!」


「ぬぉおお!!頑張れよー!!負けんなよーー!!」


 お爺ちゃんは馬鹿みたいに号泣していた。


 ——————

 ————

 ——


[ヨミ村]

 ↓

[イーダ村]

 ↓

[ナイナイ村]

 ↓

[星の鐘]

 ↓

[ノーチ村]

 ↓

[御神渡りの里]


 3人が乗車した馬車はこの順番で移動する。

 御神渡りの里に着けば、そこからは王都まで電車で移動できる。


 ——

 ————

 ——————


 残暑でまだ暑い。

 フランは他の乗客に断りをいれて窓を開けた。

 そして、若者たちがガヤガヤと騒いでいる中、

 カレンは泣き疲れたのか…爆睡している。


「ねぇ クリム君のお母さんは見送りに来なかったけど・・・」


「お母さんは朝からお仕事で来れないって言ってたな。あの人からしたら、僕が学校に行くなんて当たり前の事だから特別感はないんだろ」


 少し寂しそうに目を瞑る。


「そっか…」


 フランはまだ理由があるんじゃないかと疑っていた。


「お前の家族は…。 と来れないよな」


「違うよ。 カレンのおじさんとは違って、ボクの家族はちゃんとご老体。

 村から一番遠い地域に住んでるんだから、来ない方が安心だよ」


「なぁ お前等の両親とお兄さんが死んだのって——」


「関係ない。カレンの両親も、ボクの家族も、ただ襲われただけ」


「…」


 少し気まづい空気が2人の間に流れる。


「あっ この道の先、郵便物を乗せた馬車が強盗にあったんだよね。確か9年前と4年前に」


 フランは思い出したかのように窓から外を見た。


「あー 確かアイサの家族が任された郵便局だったはず」


 —よく何年前だって覚えてるな。


「アイサ姉ちゃんが引っ越した後、連絡とった?」


「取ってないけど平気だろ。事件が起きた後に引っ越したんだし、あとと一緒にいるんだ」


「停留所があったはず、止まってくれないかな」


 フランは何故か少し不安そうにしていた。


「アイサが乗ってくるかもよ!」


 カレンは急に話しかけた。


「うわっ!起きたなら起きたって言えよ!」


「一々起きました報告しないよ」


「2人共 あいつから聞いてないのか…? 王都にはいけないとか〜、色々と」


「おっ…?」


 ——————

 ————

 ——

 2年前の3月


 クリムのお家


「クリム、私引っ越すことになったの」


「どこに」


「ナイナイ村。 国がね、私のお爺ちゃんに任せてた郵便局をお父さんに任せることにしたらしいの」


「馬車で1時間ぐらいの場所だろ、じゃあ!アイサだけでもこの村にのこ——」


「私の家は、あなたみたいにお金持ちじゃないの!安定はしてたかもしれない…けど、色々あったの知ってるでしょ…?私だけ残るなんて出来ない!」


「…」


「お父さんを支えなきゃいけないから、王都には行かないことにした。」


「えっ…、じゃあ何の為に…一緒に勉強したんだよ!」


 彼は初めて彼女に声を荒げた


「仕様がないよ。…でもでも、郵便局がまた安定すればさっ、王都で働かなくても良い生活が出来るかもしれないからさーって、ははっ」


「ダメだ…」


 —アイサも一緒にじゃないと…


「2年後にはフラン達が試験を受けるよね、そして卒業したら国に従事できるようになるでしょ、そうしたら、もしかしたら…また一緒に過ごせるよね」


 彼女は、それが無理なことだと分かっていた。

 カレン達は特別。王の下で働けるぐらい強い。

 わざわざ、郵便関連の職に就けるはずが無いと。


「嫌だ!お前が行かないなら僕も行かない」


「クリム…。


 ねぇ、聞いて。


 私はあなたのお陰で、この村で過ごせたの。

 学校で私がイジメられてる時、真っ先に助けてくれて…

 そのせいでクリムの周りから友達がいなくなった。

 だから、罪滅ぼしじゃないけれど、

 私がこれから覚える事は全部教えたくて、居残りもして勉強をした。

 キモイよね。クリムには重かったかもしれない。

 でもね、あなたが助けてくれた時から、私の時間は全部捧げようと思ったの。

 だから…クリムが学校に合格できれば…それで…」


「…」


 でも、わたし

 皆んなと クリムと一緒に王都に行きたい 離れたくないよ


 涙と共に本音が溢れ出した。


「…こんな事言いに来たんじゃないのに…ごめん取り乱して。

 私もう行かないと。」


「待って、アイサ——」


 ——

 ————

 ——————


「私はてっきり、もう入学してるんだと思ってた。 なんで行かないの?」


 カレンは学校に行く楽しみが一つ消えてしまった。


ってやつだよ」


「…運転手さん!この馬車ってナイナイ村に止まりますか?」


 フランは急に運転手へ問いかけた。


「止まらないよ!次に止まるのは星の鐘だ!」


「おい!お前何してるんだよ」


 クリムは彼女の肩に手を当てた。


「友達に会いに行くだけだよ」


 フランは珍しくクリムに反抗的だ。


「俺はアイサに会わねーぞ」


「アイサ姉ちゃんはクリム君に会いたいはず、だって1に届いた手紙にはそう書いてあったから」


「私も会いに行けるなら行きたい、入学日って3日後だよね?間に合うはず」


「なんだよ!2人とも!他に客乗ってるんだぞ!迷惑だろ!」


 —やめてくれぇ…。本当に気まずいんだよ!


「友達に会いたいんだろ…?私たちのことは気にせずに」


 老夫婦の旦那は微笑えんで言った。


「あーもう!分かったよ!運転手さん!この券って途中下車できま———」


 DBAAAAANG!!!


 馬車は突如爆風に巻き込まれた。



 この事件は5日後に新聞へ掲載される事となった。


 運転手及び乗客 計8名 死亡

 犯人を含む行方不明者 計5名


 1日昼、ナイナイ村付近で、爆破事件が発生。

 犯人達は現在も逃走中で、が行方を追っています。


 事件の犯人は現在逃走中の下記2名


 カレン・バーニリア 14歳

 特徴:赤髪の長髪でナムディアム校の制服を所持

 生死問わない


 フラン・フレーゲ 14歳

 特徴:黒髪のショートヘアー

 生捕


 以下、行方不明者の捜索は現——


 ……………

 …………

 ………

 ……


*******************************************************


—1年前、とある村—


白い霧が半月から降り注ぐ。


見つけた!局長の娘だ!

お前らのせいで俺達は!

捕まえろ!

虐めて殺してやる!

王の為にあの一家を探せ!


「あゝ惨めな愚民。ふふ!」


まずは父親。


—殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ


切れ味の悪い包丁で体を何度も何度も肉を叩く。


—殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ


首を絞めて何度も何度もお腹を殴る。


—殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ


「いやいやー。中々酷い事を私に命令なさる」


これは全部、による幻覚。


  あの一家はただ日々を過ごしていただけで

 悪いのは2通の手紙。

 あゝ可哀想な家族。

 ううぅん。面白い面白いよおお!

 わらっちゃ駄目笑っちゃダメ!


村人はお互いに疑い、錯覚し、惑わされ、

愚民はお互いに殺し、結託し、娘を襲った。



「お前ら家族のせいで、俺らは何もかも失ったんだぞ!」

村人は娘の髪の毛を掴み只管に殴った。


別の村人は娘に這いつくばる様に指示をして、父親から流れる血を舐めさせた。

「私達が稼いだお金を使って食べてたパスタは美味しかった!?」

「俺らの息子達はな!お前らが、国に納める筈のお金を着服した事で持ってかれたんだよ」

「殺すだけじゃ終わらねーからな」


—知らない知らない。私たちは何にも知らない。

 何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で?

 何でお父さんは殺されてるの?


「ウゲェエェ…!気持ちわり、もうお手紙は何処にも無さそうだし、探すのも大変だからいいっか!それじゃ、後は勝手に自害して下さい!」


 この出来事は全部で終わる話。

権力が殺せと言ったのだから、お前らは仰せ——まに殺れち——やうん——。



道化は自分の頭を何度も殴りながら、ぴょんぴょんと跳ねて消えていった。


*******************************************************


——

————

——————


9月1日 15時頃

ナイナイ村付近の森


突如襲った爆風により、馬車は100m近く吹き飛ばされた。


急な出来事に理解不能。

国の未来に必要な若者達は幸いな事に一瞬で死んだ。


「こりゃひでぇな」


「ですね。あっ生首だけでも持っていきまやすか?」


「若者を殺したって事実だけでも胸が潰されそうだ。よって却下!」


「モノマネ挟み込む余裕はあるんすね〜」


「カネだよカネ。お金様の事を考えたら心が落ち着くんだ。余裕が生まれる」


「誰かに見られると面倒くさいんで早く立ち去りやしょうぜ兄貴!」


「ダメ押しだ。この辺り燃やしといてくれ」


「へーい」


謎の二人組は事件現場から消えた。


——————

————

——


9月1日 16時頃

ナイナイ村付近の森


事件現場付近は、山吹色の炎が一面にめらめらと広がっていた。


その中、1人の男が目を覚ます。


「痛っ! イッタ!!」


目を覚ましたのはクリムだ。そして再び倒れ込む。

吹っ飛んだ際に左腕の骨にヒビが入っていた。

その事に気づかず、目を覚ました際に全体重を左手にかけてしまった。

倒れながらも状況を整理しようと周りを見渡す。


—激痛が走ったと思えば…。

辺り一面に不自然な色の炎が上がっている…。

待てよ…。カレンの火は赤だよな。

んん?どういう事だ。

炎はオレンジ色?

ダメだ。全く状況がわからん。


「おおい!!おおーい!!」


聞き覚えのある声が近づいてくる。


「…?」


「クリム!ポックだよぅ!ボクポックだ!」


「…え?」


「ねーねー!フランとカレンは治療したよぅ!後は君だけだぁ!」


得体の知れない小さい塊がぴょんぴょん跳ねながら言葉を発している。

だが、確かに懐かしさを感じざるを得ない声に彼の脳みそは目を覚ました。


「痛っ!ポックて、人形の!?」


「久しぶりだね!」


久しぶりだねときゃんきゃん跳ねる物体は、昔にクリム達が作ったお守り人形。

お守り人形は花の力を有する者達が色と祈りを丁寧に混ぜ合えば出来上がる、

生物では無い無機物のペット。

見た目は如何にも子供が作った人形で不恰好だが、昔はもっと綺麗で色鮮やかだった。

その違和感に彼は気づいていない。


「ポック!腕がめちゃくちゃ痛くて起き上がれないんだ。助けてぇ…」


「任せてぃ!ええいっ!」


ポックはクリムに奇蹟を施した。

苗色の綺麗な煙がクリムを包み込む。


ボロボロになった肌や、一瞬で蓄積された痛みなどがふっ飛んだ。

ただ、一番治って欲しい骨のヒビは完治とまではいかなかった。


「ありがとう!助かったぜ!」


「どういたしまして!さあっ!カレン達の元に行こう!」


「よっしゃ!」


—あいつ等なら、いやっフランなら状況がわかってるかもしれない。


お守り人形はクリムと共に彼女達の元へ向かった。

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