第2話 忘れ物
「お爺ちゃん…、私が王都に行くの何で嫌なの?もしかして寂しい?」
「寂しいなんて気持ちあるもんか」
「じゃあ何で?お母さんだって学校に行ってたんでしょ?」
「も〜!ジジイは寝る時間なのにうるさいのぉ」
「本気で聞いてるの」
—せっかく合格したのに、どうして喜んでくれないの。
「お前が遠くに行こうが、心配もしとらん。お前らには何度も力について教えた、じいちゃん自慢の剣技も教えた。間違っても雑魚どもには殺されんと思ってる。
だけどな、カレン。
やっぱり怖いんじゃ。
人間の欲望がお前に降りかかっても、わしはその時近くにおらん。
どうしようも無く腹を空かせる権力者には、何もかも奪われるんじゃ」
彼は何かを思い出すかのように語った。
「ふむふむ、結局のとこ私が心配でしょうがないって事だ!
すんごい遠回しで色々言っておりますけども、心配してるんじゃん!
いやー、嬉しいですね〜!
大丈夫!私はお爺ちゃんの血を引いた最強の孫だから!フンッ」
彼女は照れ隠しなのか、捲し立てて喋った。
「そうじゃなくて、切り倒す力とはまた別の力ってのがあってだな…」
「心配で寂しいんなら、私たち3人でお守り人形作ってあげようか?私たち相当上手いよ!作るの」
「要らん…。後、あの子は—」
「じゃあ、代わりにお爺ちゃんが色を混ぜてよ」
「わしとお前は赤じゃろ、やかましくなるからいいわ」
彼はちょっとだけ期待をしたが、やっぱり諦めた。
「あっそう」
彼女はソファーの上で胡座をしながらぴょんぴょんと跳ねていたが、拗ねて寝る準備を始めた。
「子供には分からんことよ…。この先何が起こるかも分からん、お前の色は絶対に捨てるなよ。お星様に見捨てられちまう」
「うん!じゃあおやすみなさ〜い!」
「色々喋らせといて…。わしも寝る」
そう言って彼は、カレンが部屋に戻るのを確認して、寝所ではなく鍛冶場に向かっていった。
—ご先祖様、お星様、
馬鹿なカレン達をどうかお守りください。
——————
————
——
9月1日9:00頃
お世話になった人たちにお別れの挨拶を済ませた3人は馬車駅に着いた。
もう少しでヨミ村と別れる。
この3人は村に特別思い入れがある訳では無い。
ただ、2人は少し寂しそうにしている。
「ほとんど、クリム関係の挨拶だったね」
「クリム君の家は村で一番お金持ちだもん。繋がりは多いよね」
「おい、フラン…。金持ちは関係ないだろう。
でもまぁ、よく分からん知り合いが多いのは事実だし、この村に残るのは母さんだ。
お母さんの為にもヘラヘラと挨拶しないとな」
「クリム…。別の日に挨拶しなくて良かったね」
「うるせー、お前もさっき挨拶しなきゃーとか言ってたのに、結局は僕とフランの家だけじゃねーか!びっくりしたわ」
「フランの家は距離が遠いから時間がかかると思ったのよ!」
「カレン 嬉しかったよ。お爺ちゃんもお婆ちゃんも喜んでた」
彼女はカレンの方を向き微笑んだ。
「フランの家族とは家族ぐるみで仲が良かったでしたから…フッ」
—でも、最後までちゃんと顔を見れなかったな。
「嬉しそうだな」
「クリム君もありがとう…。家に来るの嫌だったはずなのに…」
「あぁ。昔のことだから忘れてただけだよ」
「えっ?なんかあったの?」
「あ〜…、多分フランに言いよる男とでも思われたんだろうな」
「やめてよ」
「そりゃ年上の男の人が来たらビックリしちゃうよ」
「おい、年齢の話はシビアなんだから学校で絶対に言うなよ!」
カレンとフランは村の学校の同級生だが、クリムは学年が2つ上だ。
「クリム君は若い方だよ」
「お前らが若すぎるんだよ。こんな若者に囲まれてさ…アイサが居れば…」
彼はだんだんと小さくなる声で喋ったせいで2人は何を言ってるの分からなかった。
「2歳だよ?大して変わらないからどうでもいいじゃん。それよりも、こんなに可愛い子に挟まれて妬まれちゃうよアンタ。どうすんの」
カレンは肘で突いた。
「…どうせお前らは僕を見捨てるよ。優秀な生徒たちについてっちゃ——」
「ずーと一緒にいるよ」
フランは目をぎゅっと瞑って静かに声を出した。
『ん?』
「なんて?」
「…」
「いや…。 あっ…!」
「ピィィィィィ!!
御神渡りの里行きの馬車がもうすぐ着きます!
搭乗する方々はこちらに並んでください」
煌びやかな馬車が3人の前に現れる。
「おお!来たよ、ヤバイよ、ドキドキしてきちゃったよ!」
「フッ、焦る気持ちわかるぜ。ちくしょう…新しい生活が始まるんだよな!くぅぅ!」
カレンは待望の夢を目の前にして、よく分からないテンションになっていた。
その様子にクリムは、ちゃんと釣られている。
「ボクも少し緊張してきたかも…」
「もう、ヤバイよ〜〜〜〜」
「あっ!2人共、手紙に入っていた王都行きの乗車券持ってきたよね?」
フランは手に持って2人に見せた。
「流石によ。ほれっ」
「大丈夫!私も持ってきた」
3人が持っている乗車券は無料で王国オリエントまで行ける特別な券。
普通なら、ヨミ村から王都まで行くのに35000Dかかる。
35000Dは一般家庭で例えると3ヶ月分の給料ぐらいだ。
「そこの3人、乗るなら早くして」
入学時期で連日連夜駆り出されているせいで、
馬車の運転者は少し苛立ったようにしている。
『すぐ行きます!』
3人が馬車に乗る準備を始めた時、遠くの方から大声が聞こえた。
良く見ると、1頭の馬がこちらに向かって走ってくる。
ドドドドドドドドォ———
「おおおおおおいいい!!カレンんん!!」
謎の男が馬鹿みたいに叫んでいる。
「おい あれ、カレンのお爺さんじゃねーか?」
「え?なんで? ちょっとお爺ちゃん!!大声出さないで!!恥ずかしいよ!!」
カレンはより大きい声で応える。
馬車駅に居た人たちは全員カレンの方を見た。
「ダァアア!…カレン!!忘れ物じゃ!!」
そう言うと彼は3本の剣を取り出した。
「やめてよお爺ちゃん、必要ないよ!学校から支給されたものしか使っちゃ駄目なんだから!」
「あんな剣なんて、なまくらのゴミじゃ!じいちゃん自慢の剣を持ってけバカもん!」
「おじさん、学校以外での納刀は禁止されていて…お気持ちはとっても有難い——」
フランの言葉を遮って彼は彼女の頭を撫でた。
「フラン!最後に顔が見れて良かったわい。
剣が要らんくなりゃ捨てても構わん!そのほうが嬉しい!!!
だが、道中何があるか分からんから持って行きなさい!」
「有り難く頂こうぜ」
クリムは小声でカレンに問いかけた。
「うーん 捨てたくないんだもん…。でも絶対学校に怒られるし…」
「捨てられてもまた作ったるわい!いいから持ってけ!」
「わかったよ お爺ちゃんありがとう」
「そこの3人!他にも人を待たせてるから早くして!」
運転手は声を荒げた。
「おい貴様!こっちは愛弟子と別れの挨拶をしとるんじゃ!黙らんかい!」
「おじさん、私も最後に顔が見れて良かったです。家族のように接してくれて…本当に本当にありがとうございました!」
フランは顔を隠すように深い一礼をした。
「お爺さん、二人のことは任せてください!
近づいてくる男の生徒たちなんて僕がぶっ飛ばしますから!」
クリムは握り拳を空に突き立て、ニコッと笑った。
「お爺ちゃん、いってくるね」
カレンは、泣きながら最愛の家族に抱きついた。
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