東雲のオリエント
そぎお
第1話 東雲のオリエント
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12月24日
時間はAM4:01
身体はとても冷え切っていた。
国を想った青年はもうじき死ぬ。
「.....」
やっと、昇り始めるのか。
彼の白い息が陽射しに溶けはじめた。
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オリエントにある小さな村
—ミヨ村—
9月1日 AM07:30
「おーい!クリムが来てるぞ!ワシに!朝から!大声を出させるなあ!」
「準備終わったからちょっと待って!」
「そうだぞー!カレンー!急げー!はーやーく!」
—クリムまで急かしてくるじゃん。
私の朝がどれだけ大変なのかをまるで理解してないよ!
「ハァハァ… お待たせしました…。あれっ一人で来たの?」
「お前は寝坊すると思ったからな。案の定だ」
「…悪かったね」
彼女は言い訳をしようとしたが諦めた。
「クリム、お前まで受かっちまうなんてな…。」
カレンのお爺ちゃんは悲しそうに肩を落とした。
「お爺さんのおかげです!本当にお世話になりました!学校でも頑張ります!」
「お爺ちゃん、身体には気をつけてね。それじゃあ行ってきます!」
「カレン、危なくなったら直ぐに帰ってこいよ。ワシはお前の味方だ」
「私が帰ってくるまでに死なないでよ!村の事はお爺ちゃんに任せたからね!」
「死なんわ!フランにもよろしく言っとけ!」
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————
——
村の通りを歩く2人
「ねぇー!私まだお世話になった人たちに挨拶してないよ」
「別の日にしろよ」
「んっ?別の日って、もう何年も帰れないよ?」
「...えっ?」
彼は驚き、その場に足を止める。
「学校からの手紙を読んでないの?」
「そうなるな。」
—私とお爺ちゃんをどんな気持ちで見てたのよ
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—彼女たちが住む国の名前はオリエント—
王が政権を握る君主制。
自然豊かな土地が広がり、不思議なお花が沢山咲いているのだが、
それが原因で過去に2度、他国との戦争が起きている。
国民達は満14歳になると国内で1番大きな学校、
王都ナムディアム校に通うための試験を受ける権利が与えられる。
その試験内容は、王の下で働く力を培える能力があるのか、
また侵略行為があった際に王を守る事ができるかと、それらを見定められる。
試験内容は一般的な教養と力を授かれる見込みがあれば合格するのだが、
安定した将来を夢見る者達は沢山いる。
国内にある町村から、
14歳から25歳までの者たちが年に1回の4月に行われる試験に殺到する為、
合格率は極めて低い。
今年、この村からの合格者は3人だ。
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「なあなあ!とりあえず朝ご飯でも買いに行こうぜ」
「急いでた理由はそれね。私は買わないけどついてくよ」
「おお!女子ですねー!僕は朝から食べないとやってけないよ」
「お爺ちゃんからお弁当貰ったんだもん。せっかくなら空腹状態で食べたいじゃん」
「あー、てかさ、カレンのお爺さんって何で僕たちが王都に行くの嫌がってたんだ?」
—弁当あったことめちゃくちゃ忘れてた
「私が心配なんだってー」
彼女は嬉しそうにスキップをはじめた。
「普通は心配より喜ぶのになー。この村からは5年ぶりだし」
「剣の使い方と花の力は教えてくれたけど、それは試験の為じゃない!って最後まで勉強の邪魔をしてきたから大変だったよ」
「まぁ、戦いに関してはお爺さんの右に出る人はいないからな。本当にお世話になったよ」
—クリムのお爺ちゃん—
村のみんなからは、カーツ爺と呼ばれ慕われている。
わしは最強じゃった!が口癖で、剣技等を4人に教え込んでいた。
今は鍛冶屋兼何でも屋さんをしている。
「ねぇ フランはどこで待ってるの?」
「あっ!!やばい!」
クリムを慌てて走り出した。
——————
————
——
—星の碑広場—
「ハァハァ 悪い!フラン!」
「私が寝坊しちゃって ごめん!」
2人は大急ぎで走ったため息が切れている。
「いいよ 私も今さっき来たばかりだし」
フランは2人に気を止めずにいた。
「…」
「よし! 挨拶したい人いるし行こう! …あれっ、フラン?」
「…」
クリムもフランと同じく黙って石碑を見上げ始めた。
広場の中心には噴水があり、その真ん中に堂々と星の名を冠した石碑が建っている。
それには古びた大量の文字が書かれていた。
「今気づいたんだけど、この碑に苗字が書いてある…」
「あー 確か私とクリムの苗字が書いてあった気がする 星の三十一族だっけ?」
「…」
クリムは何故か神妙な顔をしていた。
「…アッ そうそう!何かの記念碑って事だけ知ってたけど、苗字が書いてるとは思わなかったな」
フランは目を細めて書かれている全ての文字を読もうとしている。
「私のお爺ちゃん曰く、昔このヨミ村にいた一族ってだけらしいから、特別な意味はないって言ってたよ。
後、王様に支えたなんとかだ——」
「おい!そろそろ時間だ、行こうぜ」
「あっ うん」
2人は慌ててクリムを追いかけた。
……………
…………
………
……
—いつしかの夜、場所はカレンの実家—
「お爺ちゃん…、私が王都に行くの何で嫌なの?もしかして寂しい?」
「寂しいなんて気持ちあるもんか」
「じゃあ何で?お母さんだって学校に行ってたんでしょ?」
「も〜!ジジイは寝る時間なのにうるさいのぉ」
「本気で聞いてるの」
—せっかく合格したのに、どうして喜んでくれないの。
「お前が遠くに行こうが、心配もしとらん。お前らには何度も力について教えた、じいちゃん自慢の剣技も教えた。間違っても雑魚どもには殺されんと思ってる。
だけどな、カレン。
やっぱり怖いんじゃ。
人間の欲望がお前に降りかかっても、わしはその時近くにおらん。
どうしようも無く腹を空かせる権力者には、何もかも奪われるんじゃ」
彼は何かを思い出すかのように語った。
「ふむふむ、結局のとこ私が心配でしょうがないって事だ!
すんごい遠回しで色々言っておりますけども、心配してるんじゃん!
いやー、嬉しいですね〜!
大丈夫!私はお爺ちゃんの血を引いた最強の孫だから!フンッ」
彼女は照れ隠しなのか、捲し立てて喋った。
「そうじゃなくて、切り倒す力とはまた別の力ってのがあってだな…」
「心配で寂しいんなら、私たち3人でお守り人形作ってあげようか?私たち相当上手いよ!作るの」
「要らん…。後、あの子は—」
「じゃあ、代わりにお爺ちゃんが色を混ぜてよ」
「わしとお前は赤じゃろ、やかましくなるからいいわ」
彼はちょっとだけ期待をしたが、やっぱり諦めた。
「あっそう」
彼女はソファーの上で胡座をしながらぴょんぴょんと跳ねていたが、拗ねて寝る準備を始めた。
「子供には分からんことよ…。この先何が起こるかも分からん、お前の色は絶対に捨てるなよ。お星様に見捨てられちまう」
「うん!じゃあおやすみなさ〜い!」
「色々喋らせといて…。わしも寝る」
そう言って彼は、カレンが部屋に戻るのを確認して、寝所ではなく鍛冶場に向かっていった。
—ご先祖様、お星様、
馬鹿なカレン達をどうかお守りください。
——————
————
——
9月1日9:00頃
お世話になった人たちにお別れの挨拶を済ませた3人は馬車駅に着いた。
もう少しでヨミ村と別れる。
この3人は村に特別思い入れがある訳では無い。
ただ、2人は少し寂しそうにしている。
「ほとんど、クリム関係の挨拶だったね」
「クリム君の家は村で一番お金持ちだもん。繋がりは多いよね」
「おい、フラン…。金持ちは関係ないだろう。
でもまぁ、よく分からん知り合いが多いのは事実だし、この村に残るのは母さんだ。
お母さんの為にもヘラヘラと挨拶しないとな」
「クリム…。別の日に挨拶しなくて良かったね」
「うるせー、お前もさっき挨拶しなきゃーとか言ってたのに、結局は僕とフランの家だけじゃねーか!びっくりしたわ」
「フランの家は距離が遠いから時間がかかると思ったのよ!」
「カレン 嬉しかったよ。お爺ちゃんもお婆ちゃんも喜んでた」
彼女はカレンの方を向き微笑んだ。
「フランの家族とは家族ぐるみで仲が良かったでしたから…フッ」
—でも、最後までちゃんと顔を見れなかったな。
「嬉しそうだな」
「クリム君もありがとう…。家に来るの嫌だったはずなのに…」
「あぁ。昔のことだから忘れてただけだよ」
「えっ?なんかあったの?」
「あ〜…、多分フランに言いよる男とでも思われたんだろうな」
「やめてよ」
「そりゃ年上の男の人が来たらビックリしちゃうよ」
「おい、年齢の話はシビアなんだから学校で絶対に言うなよ!」
カレンとフランは村の学校の同級生だが、クリムは学年が2つ上だ。
「クリム君は若い方だよ」
「お前らが若すぎるんだよ。こんな若者に囲まれてさ…アイサが居れば…」
彼はだんだんと小さくなる声で喋ったせいで2人は何を言ってるの分からなかった。
「2歳だよ?大して変わらないからどうでもいいじゃん。それよりも、こんなに可愛い子に挟まれて妬まれちゃうよアンタ。どうすんの」
カレンは肘で突いた。
「…どうせお前らは僕を見捨てるよ。優秀な生徒たちについてっちゃ——」
「ずーと一緒にいるよ」
フランは目をぎゅっと瞑って静かに声を出した。
『ん?』
「なんて?」
「…」
「いや…。 あっ…!」
「ピィィィィィ!!
御神渡りの里行きの馬車がもうすぐ着きます!
搭乗する方々はこちらに並んでください」
煌びやかな馬車が3人の前に現れる。
「おお!来たよ、ヤバイよ、ドキドキしてきちゃったよ!」
「フッ、焦る気持ちわかるぜ。ちくしょう…新しい生活が始まるんだよな!くぅぅ!」
カレンは待望の夢を目の前にして、よく分からないテンションになっていた。
その様子にクリムは、ちゃんと釣られている。
「ボクも少し緊張してきたかも…」
「もう、ヤバイよ〜〜〜〜」
「あっ!2人共、手紙に入っていた王都行きの乗車券持ってきたよね?」
フランは手に持って2人に見せた。
「流石によ。ほれっ」
「大丈夫!私も持ってきた」
3人が持っている乗車券は無料で王国オリエントまで行ける特別な券。
普通なら、ヨミ村から王都まで行くのに35000Dかかる。
35000Dは一般家庭で例えると3ヶ月分の給料ぐらいだ。
「そこの3人、乗るなら早くして」
入学時期で連日連夜駆り出されているせいで、
馬車の運転者は少し苛立ったようにしている。
『すぐ行きます!』
3人が馬車に乗る準備を始めた時、遠くの方から大声が聞こえた。
良く見ると、1頭の馬がこちらに向かって走ってくる。
ドドドドドドドドォ———
「おおおおおおいいい!!カレンんん!!」
謎の男が馬鹿みたいに叫んでいる。
「おい あれ、カレンのお爺さんじゃねーか?」
「え?なんで? ちょっとお爺ちゃん!!大声出さないで!!恥ずかしいよ!!」
カレンはより大きい声で応える。
馬車駅に居た人たちは全員カレンの方を見た。
「ダァアア!…カレン!!忘れ物じゃ!!」
そう言うと彼は3本の剣を取り出した。
「やめてよお爺ちゃん、必要ないよ!学校から支給されたものしか使っちゃ駄目なんだから!」
「あんな剣なんて、なまくらのゴミじゃ!じいちゃん自慢の剣を持ってけバカもん!」
「おじさん、学校以外での納刀は禁止されていて…お気持ちはとっても有難い——」
フランの言葉を遮って彼は彼女の頭を撫でた。
「フラン!最後に顔が見れて良かったわい。
剣が要らんくなりゃ捨てても構わん!そのほうが嬉しい!!!
だが、道中何があるか分からんから持って行きなさい!」
「有り難く頂こうぜ」
クリムは小声でカレンに問いかけた。
「うーん 捨てたくないんだもん…。でも絶対学校に怒られるし…」
「捨てられてもまた作ったるわい!いいから持ってけ!」
「わかったよ お爺ちゃんありがとう」
「そこの3人!他にも人を待たせてるから早くして!」
運転手は声を荒げた。
「おい貴様!こっちは愛弟子と別れの挨拶をしとるんじゃ!黙らんかい!」
「おじさん、私も最後に顔が見れて良かったです。家族のように接してくれて…本当に本当にありがとうございました!」
フランは顔を隠すように深い一礼をした。
「お爺さん、二人のことは任せてください!
近づいてくる男の生徒たちなんて僕がぶっ飛ばしますから!」
クリムは握り拳を空に突き立て、ニコッと笑った。
「お爺ちゃん、いってくるね」
カレンは、泣きながら最愛の家族に抱きついた。
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