第5話 よく見たら……

「はあ、どこにいっちゃったんだろう……」


 美優は部屋に戻るともう一度本棚の前に座った。兄弟たちが自分たちの本を勧めてくれたが、今はやっぱりあの本が読みたかった。


「本よ、出てこーい……」


 美優はそう言って再び扉を開く。するとそこには、別の乙女ゲームの小説が棚差しされている。


「仕方ない。見つかるまで『乙女ゲームの主人公は辛すぎる』を読むか」


 そう言って本を取ったときだった。その奥にあった本の背表紙が現れたのである。そこには『乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと分かったので、スローライフを目指そうとしましたが、主人公が消えたから一緒に探してほしいとヒロインに頼まれたので、探す旅に行く羽目になりました』のタイトルの文字が。


「……あれ?」


 よく考えてみたら、この本棚は、文庫本を奥に向かって三列に並べることができるのだった。そしてお気に入りだったこの小説を一番後ろに入れ、テスト中に目に触れないように手前に別の小説を置いていたということを。


「あった……あった……!」


 美優は奥から本を取り出すと、ぎゅっと抱きしめた。


「あー良かった! 見つかったよー!」


 しかしすぐに複雑な気持ちが湧き出て来る。


「ってことは、よく見なかった私が犯人だったってことじゃん……」


 美優はため息をつくと、すっくと立ちあがってすぐに兄の部屋に向かった。


 本が見つかって嬉しい気持ち半分と、三人の兄弟に謝らなければいけない憂鬱な気持ち半分で複雑な気持ちになったが、さっさと謝って楽しい気分で本を読んだ方が良い。


 そう思い、彼女は三人の部屋に謝りに行き、すっきりとした気持ちで『乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと分かったので、スローライフを目指そうとしましたが、主人公が消えたから一緒に探してほしいとヒロインに頼まれたので、探す旅に行く羽目になりました』を読み始めるのだった。


(完)

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本が消えた! 彩霞 @Pleiades_Yuri

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