二人は結婚詐欺未遂

第1話

「昨日バイクで事故っちゃってさ..」そんな今まで何回言ったかも覚えていない台詞を吐く。こんなに分かりやすい言葉で良いのかと思うかもしれないが、それは騙される方に聞いてほしい。ここからは『起業しようと思うんだ』だの『親が病気になって、』だのテキトーに言っておけば大丈夫だろう。そして吸い取るだけ吸い取ったらサッと消えれば良い。相手の話に空返事をしながら今後の流れを軽く確認する。すると、「ねえ、聞いてるの？」と相手の女が言ってくる。俺は全く聞いていなかったので「ああ、ごめんごめん」と申し訳なさなど少しも含まれていない謝罪をしてもう一度聞き返す。「だからぁ怪我とかは大丈夫なのって聞いてるの」と女が言う。「大したことないから大丈夫だよ。ありがと。」偽りの爽やかさを満遍なく纏わせた言葉で答える。ついでに、「お前は優しいなぁ〜」と頭を撫でてみたりして、二人で笑い合う。

出会って三ヶ月。こいつは楽に稼げそうだ。

口角が上がるのを笑うことで隠せたのはラッキーだと思っておこう。

「昨日バイクで事故っちゃってさ..」そんないかにも結婚詐欺師のような事を言う相手に一瞬驚きながらも、結婚詐欺師と結婚詐欺師が出会うという天文学的確率を信じるほどバカな人間ではないと思い自分を取り戻す。ここからは『離婚して経済的に厳しくて』とか『子どもの養育費が足りなくて、』とかそれっぽい嘘をついておけば間違いないだろうと、「怪我とかは大丈夫なの？」といううわべだけの心配をしながら考える。しかし、なぜか相手はボーッとしてたんだか考え事をしてたんだか分からないが私の言ったことを聞いていなかったようで聞き返してくる。私はしょうがなく「だからぁ怪我とかは大丈夫なの？」と少し気だるそうになるのを隠しながら言う。すると男は「大したことないから大丈夫だよ。ありがと。」と言った後に「お前は優しいなぁ〜」と頭を撫でてくる。そういうタイプの男かー、と面倒に思いながらも私は笑ってみせる。

出会って三ヶ月。少し変な男だが金を取るには十分すぎる人柄だろう。