墓参

 時は流れ、三年後、二人は嘘のように楽しい毎日を過ごしていた。

 

 寒い冬のある日、二十歳になった純が翔を墓参りに誘った。


 今まで、墓参りなんて一度もなかった。そもそも墓があるなんて話もしなかった。


 しかも、冬。


 誰の墓なのかも、純は言わない。


     ・・・・・


 墓に二人が着き、翔がその墓をみると、その墓石に刻まれていたのは三十年前に音信不通になった翔の最愛の恋人『純』の名前だった。


 命日は、30年前『純』が音信不通になったあの日だった。


     ・・・・・


 それはまさしく、今日だった。


     ・・・・・


 こ、これって・・・


 翔は純の顔を見ながら聞いた。


「この人とどういう関係なの?」


 純は、翔の顔を見つめながら、答えた。


「これ、わたしなの!」


     ・・・・・


 そのとき周りの風景が止まった。


 そして、純の顔が最愛の恋人『純』の顔に少しずつ変化していった。


 それと同時に、翔の姿が三十年前の彼女が亡くなった時の若さになっていた。


     ・・・・・


 『純』は言った。

「これからは、ずっと一緒よ。」


 翔は、喜び彼女の差し出す手に手を重ねた。

 

 そして、悟った。自分が死んだことを・・・


 若い翔たちの姿はやがて、透き通るように消えていった。そして、墓の前には幸せそうに微笑んでいる翔の年老いた亡骸があった。


 晴れた冬の午後、降り始めた雪は翔を優しく包み込んでいった。



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冬の駅 銀の筆 @ginnopen

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