時(とき)

・・・《30年前》


 翔と付き合うことになる『純』は、柱の陰から飛び出した。


「やっぱり来たわね」

「来ると思ってたよ」

 大きく明るい彼女の声は、翔だけじゃなく周りまで明るく楽しくした。


「お兄さん、1000円ありがとう、良かったら、デートしてくれない」


 こんなにも明るくて可愛い子にデートに誘われて、しない男はいないだろう。


 こうして、二人は付き合うようになった。

 待ち合わせは、いつもこの場所、この柱の前。

 楽しい時間はいつもあっという間に過ぎ去った。


 しかし、何回目かの・・・

 ある寒い冬の日、デートに『純』は来なかった。


 そして、音信不通になった。


     ・・・・・


 それから30年、翔は独り身でいつも『純』のことを思い続けていた。


     ・・・・・


《30年後 (現代)》・・・


 待ち合わせの場所には大きな柱が何本も立っていて、純はその陰から飛び出した。

 30年前のあの時と同じだった。


「やっぱり来たわね」

「来ると思ってたよ」

 大きく明るい純の声も、翔だけじゃなく周りまで明るく楽しくした。


「お兄さん、1000円ありがとう、良かったら、デートしてくれない。」


 まるで30年前の再現だった。

 ただ、違うのは翔の歳と病に侵された身体。


「おいおい、私は君のお父さんの年齢だ。デートにならないだろう。」

「二人で歩いてたら、援助だと思われるよ。」

「ケホッ、ケホッ! がはは!」

 と、翔は咳こみながら笑った。


「大丈夫、いいの」

「デートしてくれないと1000円返さないもんね」

「お兄さんがデートしてくれないなら、その辺のおっちゃん捕まえて援助しちゃうよ!」

 と、純はあどけなく大声で言った。


     ・・・・・


 偶然あの時と全く同じ状況で声をかけられ、三十年前と同じようにその彼女と三十歳以上も離れた二人は付き合い始めた。


(純、十七歳。翔、五十歳。)








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