時の雫
https://kakuyomu.jp/works/16817330657237921080
💕本編を読んでくれている方へ、ここでしか読めないお話です(1)💕
もう一つのプロローグ
世界が終わりを迎えるとき、人はどんな音を聞くのだろう。
叫び声だろうか。
崩れ去る建物の轟音だろうか。
それとも、大切な人の名を呼ぶ、掠れた声だろうか。
――違う。
本当に世界が死に瀕したとき、そこに広がっているのは、耳が痛くなるほどの「静寂」だ。
赤く染まった空の下、街は静まり返っていた。
戦火の煙がゆらりと立ち上り、かつて人々が笑い合っていた日常は、影も形もなく消え去っている。
俺は冷たいコンクリートの上に膝をつき、自分の手のひらを見つめていた。
血と硝煙の匂い。
握りしめた拳は震えており、己の無力さに押し潰されそうになっていた。
「……ねえ」
背後から、小さな声が聞こえた。
振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。
深く、底の見えない瞳で、じっと俺を見つめている。
彼女が差し出してきたその手をとれば、救いが待っているのか、それともさらなる絶望へと堕ちていくのか。当時の俺には知る由もなかった。
『人間という種は、増えすぎた』
遠く脳裏に響く、冷酷な男の叫び。
世界を蝕む病原菌。
死を司る神の影。
俺たちはまだ知らなかったのだ。
これから始まる戦いが、どれほど残酷で、どれほど尊いものになるのかを。
守りたいと願った絆の裏に、どんな秘密が隠されているのかを。
絶望の淵で、俺は静かに息を吸い込んだ。
どんなに傷つき、裏切られ、足がすくもうとも。
俺はもう、あの日のようにただ見ているだけの自分には戻らない。
そう決意したあの日から――俺たちの本当の物語が始まった。
・・・・・