愛に溺れて、マリアナ海溝の底へ

健野屋文乃(たけのやふみの)

もうしゃーない。

マリアナ海溝に沈んでいく。


もう人の文明の気配が完全に消えたくらいの場所で、

不思議な形の深海魚が出迎え、透明な海老や烏賊が、わたしに問いかけた。


「あなたは愛されたの?」

「愛されたから、ここに来たの?」


「さあ・・・」

わたしは答えた。


さらに沈んでいくわたしの方へ、人魚が泳いできた。


人魚は微笑むと、


「愛に溺れた人の魂は、マリアナ海溝に沈んでいくの」

「わたしが愛に溺れた?」


と自分で聞き返してみたものの、心当たりがあり過ぎた。


あいつの甘い顔が思い浮かんだ。

そう、わたしは愛に溺れたんだ。


人魚はわたしの手を握ると、

「だから一緒にお出で、次から愛に溺れない様に、泳ぎ方を教えてあげるから」


マリアナ海溝の底で、わたしは人魚から、もう愛に溺れない様に、泳ぎ方を教わった。さすが人魚だ。泳ぎ方が上手かった。


「お上手、これでもう愛には溺れないよ」

と人魚に言われて、わたしは地上に戻った。


わたしは、もう愛に溺れない泳法を、習得したのだ。


       


оО〇・-・〇Оо・-・оО〇・-・〇Оо・-・оО〇・-・〇Оо




なのに、わたしは地上に戻り、また愛に溺れた。


もうしゃーない。



おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愛に溺れて、マリアナ海溝の底へ 健野屋文乃(たけのやふみの) @ituki-siso

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ