二章 モルデントでの学園生活 前編

「どうするぅ?おこすべきかなぁ?」


「そっとしておくんだな」


「けどここまで来ても起きないなんて異常だよぉ」


 意識がはっきりしない。確か誘導係に魔術をかけられてそれから....


「ゴブリンとの一戦で疲れているんだ、寝させておいた方がいい」


「そうかなぁ」


 どうやら誰かが近くで話しているようだ。


「.....ッ」


「あ、起きたぁ」


 目を開けると大きい広間に数人の合格者らしき少年少女がいた。俺は体を起こし、誰かがかけてくれた毛布を畳んだ。


「あのぉだいじょぶですかぁ?」


 えらくフワフワした声の少女がこちらを覗き込んでくる。


「だ、大丈夫かな。心配ありがとうな」


「そうですかぁ。どこか痛かったら言ってくださいねぇ。わたしぃ治癒魔法使えるんでぇ」


「そうだぜぇ!こいつの治癒魔法はスゲーんだ!なんでも癒えちまう」


「ちょ、なんでもは言い過ぎですよぉ」


 遠くの方から、えらく元気な少年が話しかけて来た。


(アイツは確か....8番目ぐらいにギリギリで合格したやつじゃないか?そしてこのフワフワ少女は4番目ぐらいに合格した魔術師見習いの子だな)


「なんですかぁ?そのフワフワ少女ってぇ?」


「え?」


(心の声が聞こえるのか!?いや、まさかそんな魔術があるとか聞いたことないし、多分、たまたまだよ....な?)


「いえいぇ。たまたまじゃないですよぉ」


「本当に俺の心の声が聞こえるのか!?」


「はぃ、生まれつきでしてぇ。聞こえちゃうんですよぉ」


「そうだぜぇ!その女の前では嘘つかないことだな!」


 なんなんだアイツ。


「だからと言って遠慮しちゃダメですよぉ。私はみんなと仲良くなりたいですからぁ」


「わかったよ。そういえば自己紹介がまだだったな。俺はレン・ホープ、よろしくな」


「レンくんですねぇ。私はアイシャ・リールですぅ、アイシャでいいですよぉ。よろしくお願いしますレンくん」


 アイシャはとびきりの笑顔を俺に見せた。


「よろしく、アイシャ。ところで質問いいか?俺はどのくらい寝てたんだ?」


「はぃ、レンくんがここに運ばれて来て15分は寝てましたねぇ」


 え?俺15分も寝てたのか。


「それから、ここには数人しか合格者がいないみたいだが他の合格者はどこに行ったんだ?」


「それがですねぇ、なんだかチーム分けだとかなんかで何チームかに分けられちゃったんですよねぇ」


「チーム分け....じゃあここにいる面子は同じチームの仲間ってことでいいのか?」


「あぁ、そうゆうことになる」


 横から槍を持った少年が話に入ってきた。こいつは確かすげー槍捌きゴブリンを完封したやつじゃねーか。


「あ、すまない。自己紹介がまだだったな。俺はアルバード・ハイムだ。よろしく頼む」


「あ、あぁ。俺は....」


「いや、いい。レンだろ?」


 俺の名前覚えてくれていたのか。


「合格者には化け物がたくさんいたが、その中でも五本の指に入るくらいの化け物と同じチームで名前まで覚えてくれてるなんてな、幸運にも程がある。改めてよろしくな、アルバート」


「ちょっとぉ、レンくん。人を化け物呼ばわりするのは酷いすよぉ」


「アイシャ、レンは多分俺のことを褒めているのだろう。だから俺は素直にその”化け物“というフレーズを称賛として受け取ろう」


「確かに、化け物は言い過ぎかもな。悪ぃ、アルバート、これからもチームメイトとしてよろしくな」


「あぁ、よろしく頼むレン」


 こいつ、試験中も今もずっと無表情だったからなに考えてるかわからなくて近寄りがたいイメージだったけど、案外いいやつだな。


「フフ、男と男の友情っていいですねぇ」


「友情といえば....ソラってやつ見なかったか?俺の親友なんだけど」


「ソラくんですかぁ....私は見てませんねぇ。アルバートくんはどうですかぁ?」


「すまない。俺も見てない」


 脳裏に不安がよぎる、大丈夫だよな?ソラなら。きっとゴブリンなんか倒して今頃ぐうすか寝てるよな?すると部屋の外がどうやら騒がしくなって来た。何か話しているらしい。俺は引き止めようとしたアイシャを無視して扉をそっと開けて、話を盗み聞きした。


「なにッ!試験会場が何者かによって襲撃を受けただとッ!?」


「しッ!声が大きい....すぐ隣には新入生がいるんだぞ。入学希望者がたくさんの殺されたらしい。殺された入学希望者の知人が新入生にいたら悲しむだろ」


(嘘....だろ)


 俺はその話を聞いて膝から崩れ落ちた。ソラはもしかしたら死んじまったのか?そんなの何かの間違いだ。信じられない。


「生憎、誘導係のやつが生き残った入学希望者の一人を保護しこっちに連れてこれたらしい」


「そうなのか、その子は相当幸運だな....その子の名前とかわかるのか?」


「え?えっと....名前は確か、ソラ」


 ソラ....あいつ生きてるのか!俺は思わず扉を飛び出してこの話をしていた学園職員に聞いた。


「あの!そのソラって子今どこにいるかわかりますか?俺の親友なんです!」


「えぇ!?えぇっと、確か医務室で怪我の治療を受けてるとか....」

 

「ありがとうございます!医務室はどこにありますか?」


「そこ曲がって左だよ」


 俺は、ソラとの再会できることを知って喜びのあまり涙が出て来た。


(ソラは死んでなかったッ!ほんとよかったー!)


 俺は医務室に入り、そこで魔術師に治療を受けているソラを見つけた。


「ソラ!」


「レン!?」


「死んだかと思ったぞ、ソラ!」


「僕も正直殺されるかと思ったよ....」


 治療していた魔術師のお姉さんは空気を読んだのか治療をやめて、なにやら薬の調合を始めた。


「それよりレン、他の同級生に挨拶は済んだ?僕も早く挨拶しに行きたいんだけど....」


「それがよソラ。なんかチーム分けだかなんかで何チームかで振り分けられたんだよ」


「え!?それって僕とレンが別の組ってこともあるの!?」


「まぁそうだろうな。まぁそん時はライバルとしてよろしくなソラ」


「あぁ。こっちこそ手加減なんてしないからなレン」


「その心配はないですよ」


「「うわッ!」」


「ハーイ、いいリアクションだねぇ君たち」


「「アイリさん!?」」


 そこには転送所で別れたはずのアイリさんの姿があった。そっか、確かこの人はこんなんでもこの学園の立派な先生だったなそういえば。


「ちょっとぉ今度会うときはアイリ先生ですしょ!」


「は、はいすみません。アイリ先生」


「久しぶりだなアイリさ...いやアイリ先生。その心配はないってどうゆう意味だよ」


「そのまんまの意味です。言ったでしょう?合格した暁には私はあなたたち一年一組の担任になりますって」


 言ってたが....もしかしてこのチーム分けは元から決まっていたものなのか。まぁなんにせよソラと同じチームで良かった。


「はい、これ薬」


「え?あ、ありがとうございます」


「また具合悪くなっても来ないでね。私の仕事が増えるから」


 えらく無愛想な医者のお姉さんだな。でもこの学園の医者なら腕は確かなんだよな。


「相変わらず。メイたんは冷たいね」


「ちょっと....職場でメイたんは....やめて」


 アイリ先生に“メイたん”と呼ばれた途端、お姉さんは付けた仮面が崩れるように赤面した顔をあらわにした。


「ごめんごめん。じゃあまた。今度ご飯でも一緒に食べようよ」


「.....うん」


「なぁソラ、アイリ先生とメイさんってどうゆう関係だと思う」


「僕も同じこと聞こうとは思ったよ。けどねレン、他人のプライベートは詮索するもんじゃないよ」


 確かに俺もハルヒのプライベートを詮索はしたくないかな。


「あ、そういえばハルヒに手紙おk」


「それじゃあ行きましょうかレンくん、ソラくん」


 ん?気のせいか、なんだか今わざと言葉を被せられたような....まぁいいか、緊急時だし先生も内心焦ってるんだろうな。


「はい、行きましょう」


 モルデント学園は寮制である。それぞれの組によって宿舎が設けられている。さすがモルデント学園だ。俺の組、一年一組の部屋分けで俺とソラは同じ部屋にしてもらった。そのソラは今....クラスのとある女子に質問攻めを受けている。


「ねぇアンタ、どこから来たの?王都?」


「いや、王都の離れにある小さな森からかな」


「へぇ〜、田舎育ちってことね、わかんないことがあったらこの私に聞きなさい。私の名前はファナティア・グローリー。こう見えても王族よ、よろしく。アンタは?」

 

「僕はソラ、ソラ・エバーマインド。よろしくねファナティア」


 ソラの笑顔を見たファナティアとかいういかにもいい環境で育ったであろう女は顔を赤面させていた。ハハァン、あいつもしかしたらソラに一目惚れしてるな。まぁアイツはかなりの美形だし?村でもよくお母さん方に可愛がられてたなそういえば。しょうがない、ここは一つソラの親友としてビシッと言ってやらんとな。


「おーいソラ、そろそろクラス会議始まるぞぉ。っとなんだよこの可愛い女はよぉ、もしかしてソラ。こいつに一目惚れでもしたのかぁ?」


「え?えェェ!?ソラってばそうなの?」


 よしよし、この女も満更でもない顔してるぞ。


「ちょ、レン!なに言い出すの急に、確かにファナティアは綺麗で美しいけど、まだ会ったばっかりだし一目惚れなんて全くないよ全然」


 おぉ、はっきり言ったなこいつ。こりゃ相手はそんな気がないって知ったら傷つくかな。


「褒められた....綺麗って褒められた....」


 こ、こいつなかなかにちょろいな。綺麗って褒めただけでニコニコしてやがる。いや、普通は喜ぶか。俺は顔を褒められたことがないからわからないな。


「おい、お前ら。クラス会議がそろそろ始まる。大丈夫か?」


「悪ぃアルバート。ごめんな、今行く」


「謝罪を求められるためにやったわけではない。クラス会議に遅れたらレン達が困るだろうと思っただけだ」


「えぇっと、初めましてアルバートくん。僕ソラっていいます。今日からチームとしてよろしくお願いします」


「お前がソラか。レンに話は聞いている、お前は確かレンの“親友”と言うものらしいな」


「え、あ、はい」


「俺のことはアルバートと呼んでくれて構わない」


 なんだかソラとアルバートは馬が合いそうな気がするな。


「じゃあ、行くとするか」


 俺たちは一年一組と言う看板が吊りかかっている教室に入った。教室には目が覚めた時大広間に居た面々が居た中にはロイの姿もあった。


「お、来たねぇ。みんな席についてぇ」


 アイリ先生が教卓立っていた。教室には俺たちの分の机があり特に指定はなかったからソラの隣の席に座ることにした。


「よし!これで全員ですね。では改めまして、こんにちは可愛い可愛い私の生徒たち。アイリ・セイブルグです。みなさん今更ですが合格おめでとうございます。とても怖かったでしょうがそれを乗り切れたあなた達はもう怖いものなしです」


 先生が淡々と話している中俺の頭の中には今日から始まる学園生活のことで頭がいっぱいだった。


「いったい....どんなことを学ぶんだろう....」


「前振りはここまでにして、今から記念すべき一年一組初めての出席をとります。出席番号は個人成績が高い順で決まりまーす。ちなみに私は学生時代常に出席番号一番でした」


「先生ぇ〜、そんな自慢話はいいから早く出席とれぇ〜」


 こいつは目が覚めた時遠くの方にいた奴だな。確か名前聞いてなかったな。出席の時に覚えよう。


「では出席番号一番から行きます」


(レンレンレンレンレンレンレンレン!)


「出席番号一番....アルバート・ハイムくん」


(なぁー!)


「はい」


「やっぱりアルバートが一番かぁ....」


「次、出席番号二番....」


(俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺!)


「ソラ・エバーマインドくん」


「えぇぇぇぇ!?」


「なに驚いてるの?レン」


 少しニヤけた顔で、そう言われた。くそうめっちゃ悔しい。だけど次だ次、次入ればいいんだ!


「次、出席番号三番....」


(来い来い来い来い来い来い来い来い!)


「ロイ・スターリンくん」


「ぐがぁ!」


「なんだ、三番スタートかよ!燃えるぜ!」


「あれ、レン全然呼ばれないね」


「うるせ!」


 せめてだ、せめて半分には入りたい!


「次、出席番号四番....」


(頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む!)


「ファナティア・グローリーちゃん」


「なんでや!」


「ちょ、どうしたの急にレン!」


「ど、どうしたのかしらあのソラの犬....」


 やばい、残っているのは治癒専門の魔術師アイシャとゴブリンと壮絶な泥試合を繰り広げたあのバカしかいないッ!ここで入るしかない!


「次、出席番号五番....」


(お願いお願いお願いお願いお願いお願い!)


「アイシャ・リール」


「え?治癒専門の魔術師にも負けた....」


「いやぁ、流石に攻撃魔法も習得してますよぉレンくん」


「レン本当に大丈夫!?」


 俺、もしかして最下位スタートある?


「次、出席番号六番....」


(流れ的にこれは....)


「レン・ホープくん」


「え?なんだろ、素直に喜べない」


「うっそ!俺七番ってことかよ!」


「....へへへ」


「おーいそこの赤髪のりんご頭。今へへって笑ったの聞こえたからな、後で決闘な」


「上等だよ、劣・等・生くん」


「レン、それは流石に言い過ぎなのでは?」


「そうなのだわ」


「そうですねぇ」


「そうだな!」


「そうかもな」


「すまん、俺が悪かった」


「謝るの早くねーかお前!」


「いや、冷静に考えたら俺も劣等生だなって。だから劣等生同士手を取り合うのが得策かなって....」


「.....すまん俺も悪かったよ」


「ふふ、これでクラスの距離も一気に縮まりましたね。それでは最後、出席番号七番タロウ・ミヤシマくん」


「は〜い」


(タロウ....この辺りじゃなかなかに珍しい名前だな)


「記念すべき出席確認も終わったことだし、それでは授業に移りますか」


 お、ついに来た。待ちに待ったモルデント学園初めての授業だ。なんの授業なんだろう?魔術かな?剣の修行かな?どっちだ。


「宿舎に帰って寝てください」


「え?」


 これもアイリ先生なりの気遣いだろう。こうして俺たちはみんな仲良く宿舎に帰り、宿舎での方針などを決め寝ることにした。


 後日


「おい、朝だ、起きろ。起きないと....なんて言えばいいんだ?」


(ん?これはアルバートと)


「抱きつくぞって言ってみろ」


(タロウだな)


「起きないと抱きつくぞレン」


「アルバートならいいぞ、カモン」


「逆効果みたいだぞ」


「これは予想外だな、まさかレンがそっち方面だったとは。確かになぁ、よくよく思えばソラとよく一緒に行動してるもんなぁ」


「冗談だわ!」


 俺は飛び跳ねて起き上がった。


「おはよう、レン。ぐっすり眠れたか?」


「おはようなアルバート、それからタロウ。朝起こしに来てくれたのか、優しいなお前ら」


「礼ならソラっちに言えよ、あいつが起こしに行くよう俺たちに言ったんだからな」


「さすがソラ、気遣いができるところは昔から変わらないな」


俺たちの部屋は俺とソラの部屋とアルバートとタロウ、それからロイの三人部屋、アイシャとファナティアの部屋がある。部屋は宿舎の二階にあり、一階は大きなリビングとキッチンルームだ。キッチンルームでは料理ができるからという理由でソラとアイシャが朝ごはんと夜ご飯を交代で作ることになった。朝作られたのは卵焼きと魚の塩焼き、それからサラダだ。質素ではあるが料理の腕がいいせいかとても美味しく感じる。


「うまいなこれ、ソラが作ったのか?」


「いや、僕は夜当番だからアイシャが作ったんだ」


 へぇーアイシャが。魚の塩焼きとか塩加減が完璧だ。


「アイシャ!これめっちゃうまいぞ!ほら、アルバートも食え」


「いや、俺は....」


「アルバート!そんな量しか食わなかったら授業の時に腹が減るぞ!食わないなら俺がもらうがな」


「あ、おいずるいぞロイ!俺にも分けろ」


「おい、お前ら食事中だぞ、暴れるな」


「そうよ、犬の言うとおりよ。食事の時くらい静かにしなさい」


「わぁかったよ」


「なぁファナティア。なんで俺のこと犬って呼ぶんだ?」


「ん?だってアンタソラの犬でしょ?」


「なに言ってるんだお前。俺はどちらかと言えば猫だろ」


「レン....それ本気で言ってるの?」


「え?違うのか?」


「レンくんはぁ、どちらかと言えば犬ですねぇ」


 俺のイメージって犬だったのか....ずっと猫だと思ってた。


「別に私がアンタのことどう呼ぼうが勝手でしょ?まぁいいじゃない可愛くて」


「男は可愛いじゃなくてカッコいいって言われたいんだよ!」


 俺たちは雑談を終え食べ終わった食器を片付け、アイリ先生に指定された演習林に向けて歩き始めた。


「なぁソラ、今日なんかアイリ先生になにするか聞いたか?」


「いや、全然知らないよ。知るわけないじゃん」


「そんなわけないだろ。お前クラスリーダーじゃん」


 クラスリーダーとはクラスの代表のことを指し、チームをまとめる重要な役割だ。アイリ先生の独断と偏見でソラが任命された。真面目そうだし出席番後が若いからだそうだ。


「けどなんだかワクワクすんなっ」


「あぁ、魔物と戦ったりするかもな。安心しろオレの拳でチームを引っ張ってやるよ!」


「回復なら任せてくださぁい」


「せいぜい私の足を引っ張らないことね。特にレン!」


「なんで俺指定なんだよ....」


「レンがもし足を引っ張っても、俺とソラがカバーする。だから安心しろ」


「そうだよレン。僕たちチームなんだから」


 なんだろう、こいつらなんだかすげー頼もしい。こいつらとならどんな困難でもやっていける気がする。


 山の中の林道をひたすら歩きひらけた場所にやってきた。そこには待っていたぞ諸君と言わんばかりにアイリ先生が立っていた。


「待っていたぞ諸君」


 (本当に言いやがった)


「時間ぴったりだね。じゃあ授業を始めるよ」

 

「先生ー、なんでこんな山の中で授業するんですかぁー」


「いい質問ですねタロウくん。ちゃんと意味があるんですよ」


「魔物と戦うとかですか!」


「半分正解よロイくん。実はこの森.....一種のダンジョンなの」


「へ?」


 ここダンジョンだったのか。けどなんで道中魔物に遭遇しなかったんだ?


「けど私たち道中魔物なんてみてませんよぉ?」


 (これ絶対心読まれたやつだ)


「実はですね。先生君たちが通りそうな道にいる魔物倒して回ったんですよ」


 すっごいなこの人。さすが先生やってるだけあるな。


「これから君たちに受けてもらう授業はこの山から生きて学園に帰ってくることです」


「あれ?でも先生それだと来た道に魔物は居ないから来た道にたどるだけでこの授業すぐに終わりませんか?」


「まぁ、これに関しては直接感じた方がいいかな。とりあえずこの山から生きて帰ってきてください。みなさんには学園の方向がわかるコンパスといざとなったら私を呼ぶことができる鈴を渡しておきます。帰ってきた人には個人成績の10点を上げます。一番最初に帰ってきた人にはプラスで5点上げちゃいます」


「おぉ!ぜってー俺が最初にゴールしてやんよ!」


「いいや、俺だね。お前は卒業まで出席番号七番だ!」


「うるせーよ出席番号六番がよ!」


「おっと悪ぃな。俺が最初にゴールするぜ。足の早さには自信あるんだ」


「負けねぇかんなロイ」


 絶対に最初にゴールする。そして少しでもソラやアルバートに追いつくんだ!


「あ、言い忘れてましたけど。ここ結構強めの魔物出るから気をつけてくださいね。それではよーい始め!」

 

「ねぇみんな。ここはみんなで協力して山を降りよう。どうやら強い魔物もいるらしいし....」


「同感だ、上位の魔物とまではいかないが厄介な魔物は今の俺たちでは太刀打ちできない。ここはチームで行くべきだ」


「私も賛成ですぅ」


「ふん、まぁソラがどうしてもって言うなら私は別にいいわよ」


「みんな....」


「レンたちもそれでいいよね....って、レンたちは!?」


 先生が合図した瞬間俺とロイとタロウは全速力で学園に走り出していた。


(やっべ、道とか全然覚えてないけど飛び出してきちまった。ロイとタロウは別の道から行ったし、とりあえずコンパスの方向に進めばいっか)


「なぁソラ。レンは元からああいう無鉄砲なやつだったのか?」


「まぁね。レンの実力なら大丈夫だとは思うんだけど。僕たちも追いかけよう、みんなに何かあったら大変だ」


「ふ〜ん。ちょっとはクラスリーダーっぽくなったんじゃない?」


「え?そうかなぁ....」


「そうですよぉ。今ちょっとかっこよかったです」


「ちょ、アイシャ!ソラを揶揄んないでよ!」


「本心ですよぉ〜」


「ハハハ....」


「お、ソラくんを先頭にアルバートくん、アイシャさん、ファナティアさんが動き始めましたね。さすがソラくん、全員とまではいかなかったけどクラスリーダーとしてみんなをまとめてるね。レンくん、タロウくん、ロイくんときたら.....はぁ.....まぁそろそろこのうち誰かが出会うでしょう。“大物”に」


 開始地点から少し進んだ林でタロウが足を止めていた。


「な、なんなんだよこいつ.....」


 コンパスに従い無我夢中で山を駆けていたタロウに立ち塞がるは巨体の大男。手には丸太と同じぐらいに太い棍棒を持っていた。それはトロルと呼ばれる魔物であった。


「あんなの食らったらひとたまりもねーな....」


(逃げるしかないのか?いや、ここでこいつを倒したらレンのやつを抜かして出席番号上位に入れるかもしれない)


「やるぞ....俺!」


 拳を軽く握り、体に魔力を循環させる。そして徐々に体から体を模った魔力を体から分離させる。目、耳、口。人間の身体を魔力で模倣する。


「分身成功ッ....」


 タロウの隣には魔力で構成されたタロウが立っている。


「ウゴォォォッォ!」


「うーわこえー」

 

 だけど


「悪いな大男。お前を倒して絶対レンを超えてやるからな!」


(来た!大振り攻撃!大きい相手ならまずは!)


「足!!」


 分身と息の合ったトロルのアキレス腱を刀で斬りつけた.....が。


「え?なんだよこれ、石かよ」


「ドォォォウ!!」


「うぐッ」


 タロウはトロルの蹴り飛ばされて硬い石にぶつかった。タロウの分身も体が崩壊し魔力が露散した。


「ううぅ....やばいなこれイキリすぎた...」


(クソ....分身も維持できないまま消えやがった。アイツ今度こそ俺をあの棍棒で潰す気だな....ここまでか....出席番号7番の劣等生は死ぬまで劣等生....か)


 トロルが棍棒を振り下ろす。タロウは死を覚悟して目を瞑った。


「ここまでか....」


「せいッ!」


 振り下ろされるはずだった棍棒は宙を舞っていた。タロウの前には武器を持たない剣士が一人。


「大丈夫だったか、タロウ」


「ロイ....!」


「その感じからするとあいつにこっぴどくやられたらしいな。これが先生の言っていた“大物”か。安心しろタロウ、オレがこいつを足止めしてなんとか時間を稼ぐ。その隙に逃げろ、行けるか?」


「あぁ....なんとか。だけどロイ、気をつけろよこいつの体石みたいに硬いからな!」


「なんとかやってみるさ」


「行ったか....よし!おいお前、バトンタッチだ。次はオレが相手だッ!」


「ウゴォォォッォ!」


(突進攻撃!なかなかの速さだが....)


「正面から突破する!火”拳“!」


 ロイの拳が燃え盛り、何千度もの炎が拳に宿った。


「せいッ」


 思いっきりトロルの足を殴りつけた。トロルの足は焼き焦げ、機動力を奪うことに成功した。だがトロルは怯むことなくロイを掴んだ。


「なにッ」


 そのままロイは地面に叩きつけられるが、なんとか受け身をとりほぼ無傷で着地できた。


(っぶねぇ、こいつ結構タフだなおい。オレ一人じゃこいつを止めることができない、このままだとオレの体が先に朽ちる。せめて一人....最低でもファナティア以上のナンバーが来ないとやばいな)


「まぁ、言ったことは変えられない。なんとかタロウが誰かと合流するまで時間を稼ぐ!」


 いっぽうその頃レンはというと


「クソなんでだよ!」


 林の中を全力で走っていた。それはそれは必死に。それにはちゃんと理由があります。


「なんで!なんでこんなとこに“グリフォン”がいるんだよ!?」


「キイイィィィィィィ!」


 そう、アイリ先生が言っていた“大物”とはトロルではなく、“グリフォン”だったのだ。


(やばいやばいやばい!マジでやばい!とにかく逃げなきゃ!逃げてどこかに隠れてやり過ごそう。ちょうど前方に入り組んだ木々の群れがある)


 レンは機転を効かせて木々を利用しグリフォンの死角に入ることに成功した。だがグリフォンはまた襲ってくるだろう。


「助かったぁ〜。マジで死ぬかと思った。一人で行動するのは流石に危険か....よし、とりあえずソラかアルバートあたりと合流しよう」


 俺は通り過ぎて行ったグリフォンに警戒しつつ移動を開始した。


(それにしてもさっきからこの地響きはなんだぁ?誰かが魔物と交戦してんのかな)


 俺は地響きの鳴る方向へ走り出した。するち頭から流血していて今にも倒れそうになっているタロウの姿があった。


「おい!大丈夫かタロウ!?」


「いいや、やばそう....そんなことりだレン!この先にロイがこの俺を襲ってきたトロルと俺を助けるためにやり合ってんだ!頼むレンあいつに助力してやってくれ!」


(なに?ロイのやつがトロルと?)


「まぁ状況はわかった。任せろタロウ、俺がきっちりお前の仇うってやるから」


「お前のこと初めて頼れるやつだと思ったよ....とりあえずロイを任せた」


 俺はタロウに指示された方向に駆け始めた。確かにどんどん地響きが近くなってる気がする。それと


「なんでこんな暑いんだ」


 すると前方から何かが飛んでくる。あれは....


「ロイ!?」


「何!?レンだと!?」


 思いっきり木に激突するロイ、だがどうやらロイの体は頑丈らしくすぐに立ち上がった。


「お前どうしてここに」


「タロウのやつにお前を助けてやってくれって頼まれたんだ」


「そうだったのか...まぁ戦力が多いことに越したことはない!レン、一気に攻めるぞ!お前は足を狙え!」


「了解!」


(あれがトロル、確かにデカくて厄介そうだ。だがグリフォンに比べたら——)


「おせーよ!オラァァ!」


 思いっきりトロルのアキレス健に斬りつけたが、皮膚が分厚く擦り傷をつけた程度だった。


「クソッ!」


「いや!何度やれはいつか斬れるはずだ!オレが隙を作る、そのうちに斬りつけろ!」


(こんな時でもえロイは冷静だな、さすがナンバースリーなだけある)


「火拳!」


 ロイはトロルの手や顔をドカドカ燃えている手で殴り続けている。効いているのは確かだがトロルはお構いなくロイに猛攻を奮っている。


「スゥゥ....フンッ!」


(刺さった!よしこのまま!)


「オラァッ!」


 トロルのアキレス腱を切断することに成功し、トロルは片足をついた。


(今だ!)


 ロイはトロルの顔を目掛けて炎の波動を放った。


「効いてるッ...効いてるぞロイ!」


「このまま畳み込むぞレン!お前は目を狙え!」


 俺はトロルの付いた足をつたい、目に向けて斬りつけた。どうやら足と違い目は柔らかいらしい。すんなり刃通り視界を奪うことに成功した。


「よし!かましてやれロイ!」


「あぁ!喰らえ!」


 ロイは飛躍した、その跳躍力は凄まじくトロルの顔まで跳んでいた。


「豪火拳ッッ!」


 ロイの拳はトロルの顔にクリーンヒットし、トロルの生命活動は停止した。


(すげーパンチ力だ、炎を噴射して勢いをつけて威力を底上げしてるって感じか。今ので痛感した....ロイは俺よりはるかに強い)


「やったな、レン。お前が助けに来なかったらどうなっていたことやら。感謝を言わねーとな」


 笑顔を向けてロイはそう言った。


「じゃあ....今度模擬戦でもしてくれ。それでチャラだ」


 知りたい、ロイの技をこの身で受けてみたい。そして強者と自分の違いを知りたいんだ。


「あぁ!そん時は全力でやろうなレン」


 俺とロイは軽くグータッチを交わしタロウの元へ向かった。そこにはソラたちの姿があった。


「あ!レンとロイ!?大丈夫?タロウの話によればトロルと交戦してたとか....」


「まぁなんとかな、俺は無傷だ」


「俺も何回かモロにくらったが俺は生まれつき頑丈でな、あんなのじゃ傷ひとつつかないぜ!」


 すると奥からタロウに治癒魔術を施していたアイシャが歩いてきた。


「それでももしかしたらのことがあるかもですから念のため治癒かけときますねぇ」


「お、おう」


「よし、これで全員揃ったね。先生の言っていた“大物”も倒せたことだし....後は道中魔物を倒して学園を進むだけかな」


「いや、待ってくれ話があるんだ」


 そう、このダンジョンに住まう“大物”とはトロルのことではない。


「ロイと合流する前、“グリフォン”に遭遇した」


「何?グリフォンだと?」


「グリフォンってあの伝説とかに出てくるあれよねね!?」


「確かぁ顔が上半身が鷹でぇ下半身が獅子?」


「馬だ、俺も何度か会ったことがある」


「えぇ!?アンタあのグ、グリフォンに会ったことあるの!?」


 マジか、アルバートの故郷はいったいどんな場所なんだ。


「なぁ...そのグリフォンってやつは強いのか?」


「もしかしてだけどロイは知らないのグリフォン?」


「あぁ。聞いたこともない!」


 こいつはこいつでどんな故郷なんだよ。


「まぁとりあえず足を動かそう。グリフォンに怖がっていたら目的地に辿り着けない」


「それもそうだ。もしグリフォンが来ても戦ったことはないがお前らよりは知っているつもりだ。囮なら任せろ」


「お、ならそん時はオレも囮になるぜ!」


「いや、その時はみんなで立ち向かおう」


 俺はその時素直に感動していた。ソラ、お前は立派なクラスリーダーだな。


「なにせ僕らはチームなんだから——」


「そうだ、俺たちはチームなんだ。絶対生きて学園に辿り着こうぜ!おい、いつまで寝てるつもりだよタロウ。全員居なきゃ一年一組じゃねーだろ」


「あぁ....そう....だよな。そうだよな!なんか力湧いてきた!今ならアルバートにも勝てそうだ!」


「おう!その息だ!タロウ」


 こうして俺たちは固い団結力をこのダンジョンで築くことができた。向かうはモルデント学園。立ちはだかるは数多の魔物たち。絶対生きて俺たちは学園に帰るんだ!

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希望の光と学園生活 〜幼馴染と過ごす魔術学校の3年間〜 とみね @kotominen

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