Admit

榮樂奏多

第1話

『ねぇ、パパとママはどうして結婚したの?』

4歳になったばかりの俺の娘、ユイが聞いてきた。色々知りたい時期らしい。

「パパがママと出会ったのは高校生って時でね、」





俺は、我儘すぎる。

それは自分が一番わかってる。

家族にも、クラスの皆にも言われた。

"お前はいつも我儘すぎだ"

"自己中っつーんだよ、そーゆーの"

"あんたみたいな奴がいると迷惑"

わかってる、俺のことだ。

だから俺が一番わかってる。

ずっと、この我儘で嫌われてきたんだ。

だからわかってる。

わかってるから、もう我儘はやめる。



『ミオ、今日の夜何がいい?』

「なんでもいい。」

『あら珍しい、なんでもいいなんて。いつもだったら、あれがいい、これじゃないと嫌、なんてうるさいのに。でもなんでもいいって、それもまた困るのよねぇ。』

なんだよ、面倒臭い。

いつも聞くだけ聞いておいて、材料ないし今日はこれにしようかしら。って結局俺の言うことは無視して決めるくせに。

でも献立を考えるのは大変なんてよく聞くし、ここは素直に食べたいものを言うべきだったかもしれない。



『じゃあ、文化祭の出し物決めまーす。』

実行委員が声をかける。

いつもだったら、これじゃないと無理、とかいうけど、ここは我慢しておく。

『おいミオ、いつもみたいくなんか案出せよ。』

『そうだよ、ミオが出してくれないと何も決まんない。』

『また去年みたいに、これじゃないとやらないから、とか言うんでしょ。だったら先に言ってくれた方が私らも楽なんだけど。』

なんでまたこうなる。

いつもいつも、我儘すぎる。出たわ自己中とか言うくせに。

結局俺は何をしても駄目なのか。

「俺は、なんでもいい。」

もう、どうすればいいのかわからない。

『もう、誰も自分の意思ないの?ひとつずつくらい案だしてよ。ミオも、急になんなの、なんでもいいなんて。らしくないじゃない。』

委員長、それは俺が一番わかってんだよ。

でも、みんなが我儘な俺に文句を言うからだろ。

だから我儘言わないようにしてるっていうのに。

「はぁ、我儘言わなければ言わないでそれに文句言うとかなんなんだよ。俺はどうすればいいんだ。」

誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。


『起立、礼、さようなら。』

その声と共に教室を出る人や、

友達と楽しそうに話し始める人、

部活に向かう人たち。

俺は一人屋上に向かった。

「結局、何しても駄目なんだ、俺は。」

また一人、呟く。

『そうだね。君は駄目人間だ。』

なんて声が背中から聞こえて、振り返る。

そこには、隣の席の女子がいた。

『ごめんね、さっき教室で呟いてたの聞こえて。なんかあったのかなって思って、追いかけてきちゃった。』

なんて、君は笑顔で言う。

「そっか。俺は、どうすればいいのかな。」

『うーん、そうだね、いつもみたいに我儘に過ごしていいんじゃない。』

「なんで?そうするとまた文句言われるだろ。」

『でもほら、今日君の我儘がなくて、みんな困ってたでしょ?文句を言いつつみんな助けられてたのよ、君の我儘に。』

「俺には、わからない。我儘なんて、言われるだけ迷惑なんじゃないの?今までそう言われてきたし。」

『確かに言われてるね、人間って難しいね。でもね、我儘に蓋をするって、嘘つきなんだよ。』

俺には意味がわからない。

我儘を我慢するのが普通のことなんじゃないのか?

我儘を言わないのが嘘つきって、なんだよそれ。

『なにそれ、意味わかんない。って思ったでしょ。顔に出やすいね、君は。だってね、我儘って、自分の気持ちを正直に言ってるだけ。それに蓋をするってことは、自分の気持ちを言わない、ってこと。嘘をついてる、でしょ。嘘をつくと本当の自分がわからなくなる、なんてよく言うでしょ。本当に、やりたいこととか、好きなものとか、段々わからなくなってくるよ。少なくとも、私はもう何もわからなくなってる。私ね、小さい頃から君とは真反対で。臆病で、我儘が言えなくて、やりたいこと隠して。ひとりぼっちが嫌で、みんなみたいに、友達が欲しくて、周りに合わせて好きでもないこと一緒にやって、それなりに楽しい人生だと思ってた。でもね、君の我儘を見た時、すごく羨ましかった。友達といるみんなより、一人自由に生きる君が。君みたいに、正直になんでも言える人って、あんまりいないと思うよ。見たことない。なのに、勿体無いよ。素直に生きた方が絶対いい。私さ、自分の好きなこととか、やりたいこととか、嫌なこととか、もう全部わからないんだ。ずっと自分に嘘つきすぎて。だからね、本当は今日、私も君と逆のことしようとしてたの。我儘な人になろうとしてた。自分に嘘、つきたくなくて。君に憧れちゃったから。でも急には無理だったね。そもそも友達なんて、いなくても生きていけるよ。君の我儘を認めてくれる人が一人でもいれば。だから、私が我儘な君を認める。私に、本当の自分を与えてくれた君だから。だから、自分に嘘つかなくていいよ。我儘でいいんだよ、私みたいになるよりよっぽどいい。そうでしょ。』

「ありがとう。なんか、少し楽になった。そうだね、我儘を言わないのは嘘。そっか。」

『じゃあ、私もそろそろ我儘言いますか。"本当の私を認めてくれない友達なんていらない、私は私の思うままに生きる"ってね。これからは我儘言いまくるよ。だから君も。一緒に我儘でいようよ。』

「あぁ、そうだな。」


俺も君を認めるよ。

初めて俺を、本当の笑顔にさせてくれた君を。





俺の奥さんは誰よりも俺を幸せにしてくれる。

"本当の私を認めてくれない友達なんていらない、私は私の思うままに生きる"

あの時、君の叫んだこの言葉は、

きっとこれからも俺を支えてくれるから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Admit 榮樂奏多 @strange_01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ