Admit
u03u
第1話
『ねぇ、パパとママはどうして結婚したの?』
4歳になったばかりの俺の娘、ユイが聞いてきた。色々知りたい時期らしい。
「パパがママと出会ったのは高校生って時でね、」
◇
俺は、我儘すぎる。
それは自分が一番わかってる。
家族にも、クラスの皆にも言われた。
"お前はいつも我儘すぎだ"
"自己中っつーんだよ、そーゆーの"
"あんたみたいな奴がいると迷惑"
わかってる、俺のことだ。
だから俺が一番わかってる。
ずっと、この我儘で嫌われてきたんだ。
だからわかってる。
わかってるから、もう我儘はやめる。
『ミオ、今日の夜何がいい?』
「なんでもいい。」
『あら珍しい、なんでもいいなんて。いつもだったら、あれがいい、これじゃないと嫌、なんてうるさいのに。でもなんでもいいって、それもまた困るのよねぇ。』
なんだよ、面倒臭い。
いつも聞くだけ聞いておいて、材料ないし今日はこれにしようかしら。って結局俺の言うことは無視して決めるくせに。
でも献立を考えるのは大変なんてよく聞くし、ここは素直に食べたいものを言うべきだったかもしれない。
『じゃあ、文化祭の出し物決めまーす。』
実行委員が声をかける。
いつもだったら、これじゃないと無理、とかいうけど、ここは我慢しておく。
『おいミオ、いつもみたいくなんか案出せよ。』
『そうだよ、ミオが出してくれないと何も決まんない。』
『また去年みたいに、これじゃないとやらないから、とか言うんでしょ。だったら先に言ってくれた方が私らも楽なんだけど。』
なんでまたこうなる。
いつもいつも、我儘すぎる。出たわ自己中とか言うくせに。
結局俺は何をしても駄目なのか。
「俺は、なんでもいい。」
もう、どうすればいいのかわからない。
『もう、誰も自分の意思ないの?ひとつずつくらい案だしてよ。ミオも、急になんなの、なんでもいいなんて。らしくないじゃない。』
委員長、それは俺が一番わかってんだよ。
でも、みんなが我儘な俺に文句を言うからだろ。
だから我儘言わないようにしてるっていうのに。
「はぁ、我儘言わなければ言わないでそれに文句言うとかなんなんだよ。俺はどうすればいいんだ。」
誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。
『起立、礼、さようなら。』
その声と共に教室を出る人や、
友達と楽しそうに話し始める人、
部活に向かう人たち。
俺は一人屋上に向かった。
「結局、何しても駄目なんだ、俺は。」
また一人、呟く。
『そうだね。君は駄目人間だ。』
なんて声が背中から聞こえて、振り返る。
そこには、隣の席の女子がいた。
『ごめんね、さっき教室で呟いてたの聞こえて。なんかあったのかなって思って、追いかけてきちゃった。』
なんて、君は笑顔で言う。
「そっか。俺は、どうすればいいのかな。」
『うーん、そうだね、いつもみたいに我儘に過ごしていいんじゃない。』
「なんで?そうするとまた文句言われるだろ。」
『でもほら、今日君の我儘がなくて、みんな困ってたでしょ?文句を言いつつみんな助けられてたのよ、君の我儘に。』
「俺には、わからない。我儘なんて、言われるだけ迷惑なんじゃないの?今までそう言われてきたし。」
『確かに言われてるね、人間って難しいね。でもね、我儘に蓋をするって、嘘つきなんだよ。』
俺には意味がわからない。
我儘を我慢するのが普通のことなんじゃないのか?
我儘を言わないのが嘘つきって、なんだよそれ。
『なにそれ、意味わかんない。って思ったでしょ。顔に出やすいね、君は。だってね、我儘って、自分の気持ちを正直に言ってるだけ。それに蓋をするってことは、自分の気持ちを言わない、ってこと。嘘をついてる、でしょ。嘘をつくと本当の自分がわからなくなる、なんてよく言うでしょ。本当に、やりたいこととか、好きなものとか、段々わからなくなってくるよ。少なくとも、私はもう何もわからなくなってる。私ね、小さい頃から君とは真反対で。臆病で、我儘が言えなくて、やりたいこと隠して。ひとりぼっちが嫌で、みんなみたいに、友達が欲しくて、周りに合わせて好きでもないこと一緒にやって、それなりに楽しい人生だと思ってた。でもね、君の我儘を見た時、すごく羨ましかった。友達といるみんなより、一人自由に生きる君が。君みたいに、正直になんでも言える人って、あんまりいないと思うよ。見たことない。なのに、勿体無いよ。素直に生きた方が絶対いい。私さ、自分の好きなこととか、やりたいこととか、嫌なこととか、もう全部わからないんだ。ずっと自分に嘘つきすぎて。だからね、本当は今日、私も君と逆のことしようとしてたの。我儘な人になろうとしてた。自分に嘘、つきたくなくて。君に憧れちゃったから。でも急には無理だったね。そもそも友達なんて、いなくても生きていけるよ。君の我儘を認めてくれる人が一人でもいれば。だから、私が我儘な君を認める。私に、本当の自分を与えてくれた君だから。だから、自分に嘘つかなくていいよ。我儘でいいんだよ、私みたいになるよりよっぽどいい。そうでしょ。』
「ありがとう。なんか、少し楽になった。そうだね、我儘を言わないのは嘘。そっか。」
『じゃあ、私もそろそろ我儘言いますか。"本当の私を認めてくれない友達なんていらない、私は私の思うままに生きる"ってね。これからは我儘言いまくるよ。だから君も。一緒に我儘でいようよ。』
「あぁ、そうだな。」
俺も君を認めるよ。
初めて俺を、本当の笑顔にさせてくれた君を。
◇
俺の奥さんは誰よりも俺を幸せにしてくれる。
"本当の私を認めてくれない友達なんていらない、私は私の思うままに生きる"
あの時、君の叫んだこの言葉は、
きっとこれからも俺を支えてくれるから。
Admit u03u @strange_01
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