カメくんの友だち
@pawn99
短編。1話完結
ある小池でのお話。
その日、池の真ん中にカエルとカメとコイとナマズが集まっていまいました。
カエルの提案で彼らは友だち比べをしようというのです。それはそれぞれが持つ友だちの中で一番すごい友だちを決めようという、ちょっと失礼な話でした。
四人のうちナマズが最初に声を上げました。
「僕は暴れん坊のヤマウツボくんと友だちさ!」
おーっ、と他から歓声が上がります。ウツボといえばいつの間にか池に住み着いた大きなお魚で、お腹が空けば他のお魚を食べてしまうので手のつけられない暴れん坊として有名でした。
しかしこれはナマズのウソでした。
次にコイが声を上げました。
「僕はヘビくんと友だちさ!」
えーっ、と驚きの声が上がります。
ヘビといえばたまに池に泳ぎに来るならず者で、なんでも丸呑みにしてしまう恐ろしい生き物なのでした。
しかしこれもコイのウソでした。
とうとう主催者のカエルが声を上げました。
「僕はネコくんと友だちさ!」
うわーっ、と悲鳴が上がります。
ネコといえば気まぐれに池に来ては池の生き物をもてあそび、気に入った生き物は連れ去ってしまう怖い生き物なのでした。連れ去られた仲間たちの行方はようとして知れません。なので池の仲間たちはその名前を聞いただけで震え上がってしまうのです。
しかしこれもまたカエルのウソでした。
カエルが言います。
「さぁさぁ、ネコくんより凄い友だちはいるかい?」
コイとナマズは頭を悩ませますが、ネコより凄い友だちはついぞ出てきませんでした。
カエルはコイとナマズとカメの順に視線を向け、はと気づきました。
「カメくんはまだ友だちを言ってないぞ」
コイとナマズもカメに視線を向け、そういえばそうだとはやし立てます。
「カメくんだけズルいぞ、みんな言ったんだから」
コイが意地悪く言います。カエルとナマズも頷き、カメに友達を言うように促します。
しかし彼らはいつものんびりしているカメには友だちが少ないことを知っていました。この場にいるメンバーがカメの友だちのおおよそのはずだったのです。
そんなカメがすごい友だちなど言えるはずがないと彼らは考えていました。
しかし発言を促されたカメが言います。
「ボクはねぇ、ボクはお月さまとお友だちだよ」
その言葉を聞いたカエルとコイとナマズは驚きました。カメがこの場において友だちを挙げたこともそうですが、あまりにも突飛なことを言い出したからです。
「お月さまってあのお空のお月さまかい?」
「そうさぁ。お月さまがボクのお友だちさ」
カエルとコイとナマズはいよいよ呆れました。
「そんなの嘘だよ。お月さまは遠い空の上にいるんだよ」ナマズが言います。
「そうだよ、君みたいにどんくさくてノロマなのがどうやって会いに行くのさ」コイが続きます。
「ボクのお友だちのネコくんに勝ちたいからってウソはダメだよ、カメくん」カエルが口を尖らせます。
3匹からありえないと言われても、しかしカメは顔色一つ変えずに言います。
「ほんとうだよぉ。ボクとお月さまはお友だちさ」
強情なカメに業を煮やし、カエルとコイとナマズはとうとう言い出します。
「そんなに言うなら会わせておくれよ」
彼らはてっきりカメはウソを認めて謝ると思っていました。彼らはそれぞれ自分と同じようにカメがウソをついていると考えていたからです。
しかしカメはやはり何でもないことのように言います。
「いいよぉ。じゃあボクのウチへ来てよ」
カエルとコイとナマズは驚き、顔を見合わせました。そして納得のいかないまま、泳ぎだしたカメに追従するのでした。
カメの家は小池の奥。さらにその片隅の見つけづらい窪地でした。
池と繋がってはいますが、孤立しており、まるでイボのように池にくっついている場所でした。
「もうちょっと待っててね」
カメはそう言ってのんびりとしだしました。
カエルとコイとナマズは気が気でなく、チラチラと天上の月をうかがっては来るはずがないと自分を安心させていました。
しばらくして、月が少しずつ西へと移動して頂点を過ぎた頃、カメが言いました。
「来たよぉ、お月さまだ!」
カメの視線の先を追うと窪地の入り口に差し掛かった月の影、水月がありました。
「ほらねぇ、ボクとお月さまはお友だちだったでしょう」
無邪気な笑顔を向けてくるカメに他の3匹は呆れました。
「カメくん、あれはお月さまの影だよ」コイが言います。
「影とお友だちになってもしょうがないじゃいか」ナマズも言います。
「カメくんはおっちょこちょいだなあ」カエルも言いました。
しかしカメは3匹になんと言われてもキョトンとして言います。
「でも、毎日遊びに来てくれるんだ。ならお友だちじゃないかなってボクは思うよぉ」
水月をお友だちだというカメを前に3匹は言葉に詰まりました。なぜなら少なくともカメは本当のことを言っていたからです。3匹は唯一本当の事を言っていたカメを前に自分の嘘が恥ずかしくなってしまったのでした。
「影がお友だちかはわからないけど……」コイが言います。
「勝負はカメくんの勝ちだね」ナマズも言います。
カエルもまたうんうんと頷いていました。
「ほんとぅ、やったぁ。じゃあみんなでお祝いしようよ。お月さまもお友だちだけど、ボクはやっぱりお友だちみんなでお話しするのが好きなんだ」
カメは嬉しそうに言います。
その夜は4匹みんなで月を囲み、飽きるまで取り留めもないお話をしたのでした。
カメくんの友だち @pawn99
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます