最強騎士は気づかない

蒼色ノ狐

第1話 最強の騎士アリア・オルレアン

 とある世界、モンスターが徘徊し亜人たちと共存しているような世界で一つの国があった。

 その国の名はアッシュランド。

 その世界の中でも大きく強いその国は多くの強者を輩出した。

 中でも今、最も強いとされる女騎士がいる。


 ―アリア・オルレアン


 歴代の騎士の中でも卓越した剣の腕を持ち、その頭脳は文官も舌を巻くほど。

 その人柄はとても慈愛に満ちており部下からの信用も厚い。

 更に特出しているのはその美貌。

 何人もの資産家や貴族、はたまた王族が彼女に求婚を申し出たが、彼女は決まってこう言った。


 「今は自身の事よりも国の事を一番に動きたい。」


 大抵の男はそれを聞き諦めたが、諦めの悪い者はアリアが直接または直属の騎士団である『白竜騎士団』が叩き潰した。

 そのような事もあり彼女の強さ、美貌、高潔さは国だけではなく他の国々にも伝わっているほどである。


 …だがそんな彼女にもある欠点がある。

 それも他人が指摘しても独自の価値観も持っている為に欠点として認識していないやっかいな欠点が。

 国王であるヴァン・アッシュランド五世はこの欠点を口外する事を厳禁としたが、当の本人が戦場でも遺憾なく発揮してしまう。

 何とか秘密裏にこの欠点を直すよう命ずるが、なにぶん本人に自覚が無いため困難を極め誰もが匙を投げた。


 そんな皆を困らせているアリア・オルレアンの欠点。

 それは…。



 とある邸宅の一室、そこには鎧を着こんだ己の姿を何度も確認する若者がいた。


 「変…じゃ、ないよな?父上が戻って来るのに情けないところは…。」

 「ほう。なかなか様になっているではないか。」

 「ち、父上!?いつお戻りに!?」


 突如部屋に入って来た父親に若者は慌てて背筋を伸ばす。


 「クルセ・スパーダ卿。先日の戦においての…。」

 「クロノ。ここは公式な場では無い。家でぐらい気を張らせないでくれ。」

 「うっ!…申し訳ありません父上。」


 笑顔でありながらクルセに苦言を言われ落ち込むクロノ。

 そのクロノの頭にクルセはポンと大きな手を乗せる。


 「よい、その生真面目なところはお前の美徳だ。それよりも胸を張ってその鎧姿を見せてくれ。」

 「は、はい!」


 クロノはクルセが見やすい位置まで移動し鎧姿をくまなく見せた。

 その姿を満足げにクルセは頷きながら思い出すように言葉に出す。


 「お前も騎士学校卒業か…早いものだな。あいつが生きていればさぞ喜んだだろう。」

 「…そうだといいのですが。」


 クロノの母、つまりはクルセの妻はクロノが幼い時に病気で亡くなってしまったのである。

 互いにその事について考えていると、空気を変えるようにクルセが質問する。


 「…それで?どこの騎士団に所属になるか、もう決まったのか?」

 「いえ、まだ通知は…。スパーダ家の者の扱いに困ってるのでしょうね。」

 「全く。これだから頭でっかちの集団は…。」


 スパーダ家はアッシュランドではそれなりに歴史のある名家でもある。

 下手な騎士団には所属させられないし、かと言って厳しい騎士団にも入れられないというのが事務方の本音であろう。


 「まあ焦る事はない。いざとなれば推薦状の一つぐらい書いてやる。」

 「いいのですか?その…ヒイキのような事をして。」

 「フン。騎士学校主席で卒業しておいてよく言う。聞いたぞ試験で試験官を叩きのめしたらしいではないか。」

 「き、聞いておられましたか。」


 無論、クロノも無意味にした訳ではない。

 ある女騎士にセクハラをしていたところを止めたら、実戦試験中に試験官が切りつけて来たので応戦したまでの事である。


 「よい。それでこそスパーダ家の男よ。不義な輩にはそれ相応の罰を与えんとな。」


 余談ではあるがクルセはこの知らせを聞くやいなや、その試験官を遠くの地方に飛ばし位も取り上げたという。


 「まあこの話はここまでにしておいて、だ。クロノ、何か祝いの品は欲しいか?」

 「祝いの品…ですか?」

 「そうだ。折角我が一人息子が騎士となるのだ。祝いの席は勿論設けるが、品があってもいいだろう。」

 「品…品…。」


 騎士として各地を忙しく飛び回りプレゼントなど送った事など無いクルセからの申し出に悩むクロノであったが、一つだけ望む事がある。


 「品…では無いのですが、あってみたい方がいるのです。」

 「ん?誰だ言ってみよ。」

 「…アリア・オルレアン殿に合ってみたいのです。」


 その瞬間にクルセの全ての動きが止まったが、クロノはそれに気づかない。


 「聞けば聞きほどオルレアン卿はまさに騎士に相応しい方だとか。これから騎士を目指す者としてお会いしておきたいのです。」

 「う、うむ。志は立派だな。だが…その…。」

 「父上?」


 始めて見る父の挙動不審な様子に疑問が浮かんでくるクロノ。


 「…実は性格が酷いので?」

 「い、いや。まさに騎士として生まれたような真っ直ぐな性格だぞ。」

 「…容姿が酷い、とか?」

 「いや。実に優れた容姿をしているぞ。(だからこそ問題であるのだが。)」

 「…では何故そこまで渋るのです?」

 「ん?んー。…まあこれも大人への階段と思うか。」

 「父上?」


 クルセはクロノの両肩に手を置くと、真剣な様子で忠告する。


 「良いかクロノ。今すぐ合わせても良いが約束しろ。オルレアン卿の装備、あるいは服装に関しては一切口外してはならん。いいな。」

 「は、はい。」

 「よし。ならばさっそく向かうか。ちょうどオルレアン卿も邸宅に戻っている頃だろう。」

 (何だったんだ?さっきの忠告は?)


 クロノは疑問に思いつつも歩き始めている父の後を追うのであった。



 「しかしよろしいのですか?いきなり押しかけて?」


 揺れる馬車の中でクロノは急いで買った手土産を持ちながらクルセに聞く。


 「普通ならまずいだろうが、まあオルレアン卿なら笑って許してくれるだろう。」

 「はあ。」

 「それに下手に私服の時に行ったらどんな事になるか分からんからな(ボソ)。」

 「父上?」

 「ん?何でも無いぞ。何でも。」


 そう話している間にも馬車が止まり到着を告げる。


 「ついたぞここだ。」

 「…随分とこじんまりとしてますね。」


 ついた先に待っていたのは予想よりもこじんまりとした邸宅であった。


 「自分で出来る事は自分でする主義らしくてな。使用人も空ける時しか雇わないらしい。」

 「なるほど。」


 クロノが納得しているとクルセは扉を叩き訪問を知らせる。


 「どなたでしょう。」


 邸宅の中から返ってきた言葉はとても澄んでいて、それだけで聞きほれてしまうような声であった。


 「オルレアン卿、戦地から帰ってきて早々で申し訳ないが合わせたい人物がいるのだが。…大丈夫だろうか?」

 「その声はスパーダ卿?もちろん構いませんが…未だ鎧姿なので少し時間を頂けると。」

 「い、いや!会わせたいのは新米騎士でな!むしろ鎧姿の方が威厳があると思うぞ!」

 「分かりました。汚れた鎧姿でよろしければ少しお待ちを。」

 「…ふう。」

 「父上。何か隠していませんか?」


 一連の言動を見てクロノはクルセに問いかける。


 「その答えはもうすぐ来る。…いいな、約束を違えるなよ。」

 「…はい。」


 それから少しして邸宅の扉が開き、その主であるアリア・オルレアンも顔を見せる。

 言ってた通りあちこち埃まみれであったが噂に違わぬ美貌に一切の陰りは無かった。

 だがクロノの目に真っ先に入って来たのは顔では無い。


 (み、み、み…。)


 その鎧の脅威の肌色率。

 腕や足はしっかりと守られているが肩や腰は何の防具もない。

 詰まる所この恰好を一番言い表しているのは鎧姿ではなく。


 (水着だぁーーーーーー!!)



 最強騎士であるアリア・オルレアンの欠点。

 それは限りなく羞恥心が低いという事である。

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