七月六日・昼
明日はいよいよ七月七日。小鳥のちゅんちゅんと言う可愛らしい鳴き声が響きます。神様のお屋敷では織姫様がいつものように足をバタバタさせていますね。しかし、今日はいつにも増して激しいようです。
「あぁー! どうしよどうしよー!!」
「うるさいわい」
「だってぇー」
父親である神様に向けて、織姫様は唇をとんがらせます。
「一年前の七月八日からずっと悩んでるんですよ!」
「お、おぉ……」
本気度をうかがわせる強い口調に、思わず神様はのけぞってしまいます。
「だが、良いのか? 相手は女だ。しかも、お前はずっと彦星君のことを愛するのだと思っていたが……」
「でも、ちょっと見ちゃったんですよ! あの可愛い顔! まだまだあどけなさが残ってるんですが、それでもどこか彦星様の面影があって! しかも、すごい綺麗な服着てるんですよ! どこのぬのか分かりませんけどそりゃまた綺麗な! しかも、髪の毛もつやっつやだし、ほっぺもすごいプニってしてて、涙袋がすごいんですよ! さすがは美男の彦星様の娘です! でも、やっぱり女同士の恋愛って言うのは、はしたないものなのでしょうか……?」
「う、うむ……」
恐らく神様の頭の中には、その話三百六十四回くらいは聞いてるよ……とあるのでしょうね。
「あーどうしよう。本当に……」
織姫様は頭を抱えて、苦しそうに畳に寝転がりました。
「あぁ、あぁ、ひ、ひこぼしさまぁー!!」
畳の上で織姫様はばっちり目を開けて、必死に天井に手を伸ばしています。
「おぉ、おはよう。どうした? 昼寝なのに、変な夢見てたか? ずっと、ひこぼしさまぁひこぼしさまぁと叫んでいたが」
「え、そうなんですか! お恥ずかしい……」
文字通り織姫様は顔を真っ赤に染めて慌てふためいています。
「まあ、良いが……」
「あ、はい……」
「で、何の夢を見たのだ?」
「ええっと、それは、彦星様が夢に出て来て……」
十数分くらい息を継ぐ間もなく織姫様は話し続けました。
「ほぉ、なるほど。彦星君がそのようなことを……」
「だから、決心できた気がしました。彦星君はずっと私の幸せを願ってくれていましたし、彼ほど誠実な人は見たことがありません」
「ほぉ……」
「『恋心は自分で壊そうとすると必ず糸を引き』ますから、絶対に恋心は持ち続けないといけないのですよ。その恋心って言うのは『同性であろうと』決して絶やしてはいけないんです!」
「なるほどなぁ……」
神様、目を細めてゆっくりとうん、うん、と頷いています。
「なので、そうと決まれば早速、贈り物と台詞を考えることにします!」
織姫様は目を真っ直ぐ前に向け、ああだこうだと神様と相談を始めました。
星の祭典を前に、天からは強く熱い日差しが天の川に差しています。
どうかまた来年、この天の川で逢える時まで DITinoue(上楽竜文) @ditinoue555
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