等速運動をするコスモス

花野井あす

等速運動をするコスモス

旅するくじらは、静寂の星の中を悠々と泳いでいる


生涯の友も安息の父母もおらず、くじらはひとり彷徨っていた


彼より小さな瞬きたちが彼を取り巻き、彼はその儚げなものたちの声を聞き届ける

それらは光の粒となって深淵の底から天高い何処かへと昇ってゆく

そして二度と帰ってくることは無い


掴む手の持たぬ彼は彼らの最期を見届けるほかないのだ

言葉を持たぬ彼は彼らを呼び止めることも叶わぬのだ


くじらは彼を知るもののない宇宙をひとり漂う

それはくらげがのものに身を任せて浮遊するように


是も非もない

愛も憎もない


彼の銀河には平たい虚無だけが流れている

起伏の知らぬ彼のこころは響くこともなびくこともない


それはすなわち、等速で運動する世界なのだ

それはすなわち、いつまでも変わらぬ世界なのだ


ゆえに彼は緩やかに死ぬことも、急速に活きることもない

ゆえに彼は常にそこ在らず、常にそこに在る

誰かを求めて歌うことも無く


きっとこのくじらが永遠の無であり、宇宙なのだ

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