お嬢様に最高のオムライスを①

 「ここから少し離れたところに、フードデリバリーの使命を与えられた方専用のキッチンを備えた小さな建物があるんです。さっそく移動しましょう!」

 

 「ああ、行こう!…ところで、配達用の自転車はどうするんだ?」

 

 「自転車ならご心配なく!私の魔法で移動させておきますので!」

 

 アニメやライトノベルで見たことのあるような街並みや人々を眺めながら、「俺って本当に異世界に来てしまったんだな…」と今更ながら実感しつつ、妖精に案内されるままついて行くと、20分ほど歩いたところで妖精がふと、ある建物の前で立ち止まった。

 

 「ここが今日からあなた専用のキッチン兼おうちです!」


 妖精が、「じゃじゃーん」という感じのジェスチャーをしながら楽しそうに言った。

 

 「おお……」     

 

 俺は建物の外観を見て驚いた。それは、木と石でできたシンプルな造りだが、とても立派な建物だった。

 

 「中に入ってみましょう!」


 妖精が扉を開けて俺を招き入れた。

 

 恐る恐る中に入ると、目の前に広がる光景に息をのんだ。それは、俺が今まで見たこともないほどの豪華なキッチンだった。広々とした空間には、色とりどりの食材や調味料が並んでいて、棚の上にはたくさんの調理器具がきれいに並べられていた。壁には絵画や鏡が飾られていて、天井にはシャンデリアが輝いていた。  

 

 「これがあなたのキッチンです!すごいでしょう!」

 

  妖精が得意げに言った。     

 

 「すごいというか……信じられない……」


 俺は呆然としたまま言った。俺は料理が好きだったが、こんなに豪華なキッチンで料理をしたことはなかった。

 

 「さあ、早速料理を始めましょう!お嬢様が、あなたの最高の料理を待っていますよ!」


 妖精がそそくさとエプロンをつけて、やる気満々という調子で言った。そして、俺にもエプロンを差し出す。

 

 「というか、あんたも手伝ってくれるんだな」

 

 「……は?手伝いませんよ?」


 こいつ何言ってんだとでも言いたげな表情で、妖精は言った。

 

 「は?やる気満々でエプロンつけてるじゃん」

 

 「あ、これはですね、なんか形だけでもぽくしておこうかなと思いまして~」

 

 妖精がぽわぽわした笑顔で答えた。

 

 「なんだそれ!!」


 俺は全力でツッコんだ。       

 

 「まあまあまあ落ち着いてくださいよ~」


 「お、おう」


 妖精の憎めない笑顔に、俺は少し複雑な気持ちになりながら答えた。


 「じゃあ、さっそく作るか」


 「作りましょう!必要な材料はあそこの棚にありますよ!」


 そう言って、妖精は部屋の奥にある、店のような図書館のようなデカい棚の列を指差した。

 

 俺は棚のほうへ行き、さっそくオムライスに使う材料を探した。


 「まずは、米~コメコメ~♪」


 謎にわくわくしてきた俺は、変な歌(?)を口ずさみながら、米を探した。


 「お、あったあった~」


 米を見つけ、謎に高いテンションでほかの材料も探していく。


 10分ほどで、すべての材料を見つけ、キッチンの台に適当に並べた。


 「よっしゃ、作るか!」


 俺は腕まくりをし、さっそく米を研ぎ始めた。2回ほど水を入れ替えて丁寧に研ぎ、鍋に移して適量の水とケチャップ+少量のトマトピューレを加え、火にかける。

 

 元の世界の調理方法で大丈夫だろうか……と不安に思いつつ、俺は、チキンライスに入れる具材――元の世界と異世界こっちの食材には、違いはあまり見られないようだ――を切り始めた。

 玉ねぎ(と思しき食材)をみじん切りに、人参(にしか見えない食材)を1㎝角に、鶏肉(だよな?)を食べやすい大きさに、慣れた手つきで切っていく。


 そんな俺の姿を、妖精がキラキラした目で眺めていた。

 

 「わあ~」


 妖精にじっと見つめられて少し緊張しながら、俺はすべての具材を切り終えた。

 

 ケチャップライスの炊け具合を確かめる。ちょうどグツグツしかけているところだったので、様子を見ながら待っておこう。

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バナナの皮で死んだ俺の、異世界フードデリバリー奮闘記 月坂いぶ @Tsukisaka_ibu

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