キャッチトマト

ぐらにゅー島

キャッチトマト


 投げられたのは、トマトだった。


 四角くて薄い箱に入った私は、遠くにいる君から何かを投げられた。スマートフォン越しに文字に乗せて投げられる、君からのメッセージ。君が、パクパクと口を動かして何かを言っている。なんだろう、わからない。そうして君が私に投げてきたのはトマトだった。トマト。赤くて、丸くて、ひんやりとしたトマト。君は満足そうに笑っている。何がしたいのかはわからない。

 コミュニケーションは言葉のキャッチボールだとよく言われる。そんなふうに、私と君はキャッチトマトをしていたのかもしれない。

 だから私も、トマトを投げ返した。無機質な明朝体の文字に乗せて。君はそれを受け取って、首をかしげる。私が投げたのはトマトのはずなのに、君はじゃがいもを持っていた。

 いつ入れ替わったのだろう。どうしてじゃがいもを持っているのだろう。そんな疑問をただ抱いて、君から投げ返されたものをまたキャッチする。

 手に取ったのは、スイカだった。重くて、大きいスイカだった。絶対に違う、君が私に投げたのはそれじゃない。ただ、何をしたいのかはわからない。同じ言葉でも、それが正しく伝わるに決まっているなんていうのは傲慢な考えだ。

 私は大声をあげて遠くの君に話しかける。「君はスイカを投げたの?」と。

 君はハッとした顔をして、うーんと考え込む仕草を見せる。そうしてにっこりと笑った。笑って、君はナイフを投げつけてくる。ナイフが、スイカに突き刺さる。

 どくどくと、スイカから赤い液体が流れ出る。どくどく、どくどく。その音は、私の心臓の音だったのかもしれない。


 次の日、どうしてナイフを投げたのか君に直接聞きに行った。君は不思議そうにこう言った。「私はずっとあなたにボールを投げていた」と。

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