第9話 霊科学

「ある日、一通の手紙が届いた。

霊科学の教材のお知らせだった。」


まるで、僕が生まれ直し体験の手紙を受け取った時のようだ。


アカリさんは続ける。


「それから私は、霊科学の勉強を始めた。


『存在するはずだった人』という、現実的にはありえない存在を創るために。


そして私は、『存在するはずだった人』をあたかも存在していたような架空の家族を創る技術を得た。


そして、『子ども体験』という手紙を書いて、こっそりポストに入れたの。


私の新しい両親は、喜んで架空の弟を望んだ。


その手紙が出される前にこっそり回収し、私は架空の弟を創った。」


僕はアカリさんに、ハルの様子を全て話した。


「やっぱり……


ハルくんの生存欲が暴走したみたいね。」


アカリさんによると、生存欲、生きたいと思う欲求は、人間の一番中心にあるのだという。


「この世界に生まれた者たちは、みんな生存欲がある。


人間だけじゃない。生物みんなもっている。


それは、架空の人間でも、同じだった。」


アカリさんが得た霊科学は、

『今存在する人間と、存在するはずだった人間を繋ぐ』


というものだった。


つまり、ヒナタの弟も、本当の家族ではないが、生存欲があるちゃんとした生物なのだ。


そして、僕にはに気なることがあった。


「ヒナタは、ヒナタは生きてるの!?」


「大丈夫、鏡を見てみて。」


僕は、そばにあった少し大きめな鏡に視線を向けた。


「……いつのまに……!!」


僕は、元のハヤトの姿に戻っていた。


「あなたはハルくんと出会えたことで、本当のあなたに戻った。そして、ヒナタも……」


「ハヤト!!」


懐かしいヒナタの声がした。


「ヒナタ!!」


久しぶりにヒナタに会ったが、久しぶりだと思わないくらい、いつものヒナタだった。


アカリさんは、僕にカメラのようなものを渡した。


「あなたは、ハルくんのところへ行ってあげて。


このカメラで、あなたの周りの様子を見る。


あなたでしか、ハルくんとは話せないから。」


そして僕は、僕の姿で、僕の家へと向かった。

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生まれ直し体験 カタミミズク @kingyo3

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