夜を歩く二人が重ねていく言葉は足跡のようで、情景描写が抑えめであるにもかかわらず時間と空間が移ろいゆく様が読み取れます。深夜散歩という行為そのものは現状を何ら打開し得ない問題の先送りなのですが、それを全てわかっている夜海が最初に手を引いた年長者としてケジメを付けるところに現実の重さを感じました。千代と夜海の言葉からは、彼女らにそう言わせた現実の存在が見て取れ語られていないドラマを想起させるところはロードムービーに似たおもむきがあると思いました。
明るいときには見えすぎていたものが夜は全てを優しく隠してくれる。明るいときには気になるものが夜は姿を変えて魅せてくれる。細やかな心理描写が素敵な女の子二人っきりのショートストーリー。
深夜。コンビニ以外の風景は違って見えるのに、コンビニの存在って「日常」を維持している。コンビニまで近くても遠くても、まるで周りの風景を否定しているみたいだ。以前、介護施設からの緊急電話で、深夜に自転車を飛ばした時、特にそれを感じました。日中の景色は夜の景色に変わっているのに。まるで自分が異世界に入ってしまったような錯覚に襲われました。深夜の散歩。冒険で一杯ですね。
お話とそれますけど…①ベンゾジアゼピン系睡眠薬、②非ベンゾジアゼピン系睡眠薬、③メラトニン受容体作動薬、④オレキシン受容体拮抗薬…なんていろいろ試したけど、やっぱり安心感が一番ですわね…あくまでも私見ですけど〜感想はTwitterにて。
深夜お散歩百合、その言葉が相応しい、その言葉からイメージされる美のエッセンスのような物語でした。夜海さんと主人公は、それぞれ苦しみを抱えながらも、夜のお散歩という行為、二人で眺める一つ一つの事物に支えを見出しながら人生を歩いていく。綴られる夜の光景がまた美しい。不注意な観察者なら見過ごしてしまいがちな、拙い表現者なら出力できずに文脈に盛り込めない、何気ない物事を情感豊かに、独特の間で表現する。作者の文章力の高さを伺わせる短編、お見事でした。