第4話


◯◯◯


 ぼくには、テニスの才能が無い。天才的な才能は、ぼくには無い。

 ぼくがレギュラーにいれたのは、ちゃんとやってたから。いつも通りを繰り返してたから。

 継続は力なり。

 この言葉は、嘘じゃ無いと思う。

 だって、人並みの才能しか持ってないぼくが、レギュラーにいれたから。黎明の、あの環境と仲間がいたから、ぼくはテニスができた。


 黎明のあの環境だから、ぼくは自分の才能が大したことない事に気付けた。


 雪下ゆきした 燈示とうじサン。

 望月もちづき 文人ふみと

 蝶野ちょうの 晋太郎しんたろう

 そして、藍染あいぞめ いとサン。


 ぼくの先輩、同期、後輩達。

 全員、並外れた才能を持っていて、どの試合でも魅せつけてくる。

 彼らを見たら、否が応でも分かるよ。ぼくが、大したことないって。

 だから、ぼくは高校でテニスをやめた。


 「勇気ユウキセンパイ、今度大会やるんすけど来てくれませんか?」

 ぼくが卒業して、およそ半年。糸サンから、そんな連絡が来た。

 詳しく話を聞くと、黎明高校はインターハイ出場決定。団体、個人戦、共にだそうだ。

 そして、糸サンも個人戦シングルスに出場。その試合が一ヶ月後にあるので、応援に来てほしい、との事だった。

 勿論、行くと返事をした。




 行って、後悔した。

 自分の才能の無さを、また実感させられた。

 魅せつけられてしまった。

 見てたら惨めになるのに、目が離せない試合。

 観てた人達の、一生の記憶に残る試合。

 それを糸サンは、晋は。黎明の、後輩達は。

 全国の舞台で、やってのけた。


 「はぁっ、はぁっ、………フーッ」


 脳裏に染みついた糸サンの姿。

 荒々しく、鋭く、熱く。

 ぎらぎらした眼で対戦相手を睨みつけ、コート中を縦横無尽に駆け回る姿。

 誰も、対戦相手のことなんか見ていない。

 糸サンから、目が離せない。

 糸サンが、離させない。


 最後の一球。

 サービスエース。

 それで、糸サンは優勝した。


 「〜〜っしゃああああああ!!!!」


 腹の底から息を吐いて、彼女は吠える。

 観ていた観客も、選手も、仲間も。

 みんな、吠えた。


 ぼくには到底出来ない試合。

 羨ましさと、優勝した糸サンへの喜びと、それから嫉妬が混ざって、ぼくの心はぐちゃぐちゃだった。

 ぐちゃぐちゃで、訳が分からなくて、空を見ていた。


 底抜けに、青かった。


◯◯◯


 「竹乃たけの先生にとって、青春とは何ですか?」


 青春。

 ぼくの記憶の中で、一番鮮やかなもの。

 二度と訪れない、たった一度きりの時間。

 あの頃から何年経っても、色褪せない。


 「のろい、です」


 青春は、呪いだ。


 どれだけ時間が経っても、ふと思い出す。あの頃に聴いた音、見た景色、語った話。きらきらした日常。


 あの頃感じた、ぐちゃぐちゃな気持ち。


 忘れようと思っても、忘れられない。

 鮮烈に、美しく。

 ぼくの身体に、焼きついている。


 これを呪いと言わずして、何と言うのだろうか。


 「ぼくにとって、青春は呪いです」


 ジジ……、とフィルムが巻かれる音がする。記憶が再生される。五感が、あの頃を思い出す。


 「皆、青春の呪いに囚われてるんです」


 部活系漫画が人気なのもそう。

 学生日常系漫画が人気なのもそう。

 皆、もう来ない青春を思い出したくて、読んでいるだけ。

 2度と帰ってこない青春を、待ち望んでいるだけ。



 青春の呪い。

 一生、続く呪い。


 ああ、本当に。


 「厄介な呪いだ」


 ぼくは、一生呪われてる。

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青春の呪い あしゃる @ashal6

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