ダブルデート ~百合バージョン~

烏川 ハル

ダブルデート

   

 噴水の縁石に腰を下ろして、両手で頬杖をつく妹と、その傍らに立って、彼女の様子を見守る私。

 風の強い日ならば、水飛沫が吹き付けてくるかもしれない。でも今日は穏やかな天気なので、その心配もないだろう。

 澄みきった青空の下、私たち二人は駅前の広場で、待ち人が来るまでの時間をのんびりと過ごしていた。


「少し早く来過ぎちゃったかな?」

「そんなことないわ。時間ぴったりよりは、余裕ある方がいいでしょう?」

 妹の呟きに笑顔で返すと、彼女も同じ表情で頷く。

「うん、ここならば涼しいもんね」

 軽く振り向いて、後ろの噴水に目を向ける。私はそんな妹を眺めていたので、通りを行き交う人々の方は、二人とも見ておらず……。

「おーい!」

「冬美さん、待たせちゃったかな」

 背後からの声で、待ち合わせ相手の到着に気づかされた。

「あれ? カオルくんと倫子さん、二人一緒に来たの?」

「違うよ、夏帆ちゃん。駅の改札のところで、ばったり会ってさ」

「どうやら同じ電車だったみたい」

 親友の倫子は、こちらに顔を向けている。カオルの補足というより、私に話しかけているのだろう。

「あら、そうなの」

 軽く相槌を打ってから、ワンテンポ遅れた返事も口にした。

「大丈夫、たいして待ってないわ。私たちも今来たばかり」

 こうして今日も、私たちのダブルデート、つまり休日の恒例行事が始まるのだ。


――――――――――――


 私たち姉妹は、いつも一緒に行動している。

 歳が三つ離れているため、中学も高校も入れ替わり。だから共通の友人は少ないけれど、みんな口を揃えて「姉妹にしては仲が良過ぎる」と言う。普通ならば、思春期くらいで自然に距離を置くようになるらしい。

 でも私たちの場合、昔から妹が、

「どっちかに恋人が出来ても、恋人を交えて三人で遊ぼうね。お姉ちゃんと私、両方同時に恋人が出来て、四人でダブルデート出来たら理想だなあ」

 と言っていたし、その発言に私も悪い気はしていなかった。

 実際には、妹の方が私よりも先に恋人を獲得。ちょうど今日みたいに噴水広場で待ち合わせて、そこで紹介されたのだが……。

「お姉ちゃん、これがカオルくん。私と同じ高校で、三日前から恋人同士になりました」

「初めまして、冬美さん。よろしくお願いします」

 驚いたことに、妹の交際相手は女性だった。それまで妹の話に出てくる呼び方が「カオルくん」なので誤解していたが、漢字で書けば「薫」だったのだ。


 二人とも口を揃えて「たまたま好きになった相手が女性なだけで、レズビアンではない」と言う。

 そして妹が望んでいた通り、彼女に恋人が出来た後も、私は二人のデートに毎回同行していたが……。

 立場的には邪魔者みたいで、少し気まずい。私に恋人はいないからダブルデートは出来ないし、もしも彼氏を作ったとしても、女性三人のところに男性一人を加えるのはいかがなものか。

 そんなわけで最近は、私の親友の倫子を誘って、ダブルデートみたいにして四人で遊ぶ習慣になっていた。


――――――――――――


 噴水の前で合流してから一時間後。

 私たち四人は、小洒落たレストランのテラス席に座っていた。

 パスタとケーキが美味しいお店であり、私と妹の昔からのお気に入りだ。特に、明るい外の日差しに照らされて、開放的な気分で食べるのが大好きだった。

 倫子もカオルも、この店を気に入ってくれたらしい。私たちはいつも、数種類のパスタを注文して、みんなでシェアするスタイル。ただしケーキは、四人それぞれで頼むのだが……。


 今日は少し事情が異なっていた。いつもみたいな各自の小さなケーキではなく、テーブルの真ん中に、大きなホールケーキが運ばれてきたのだ。

「えっ、どういうこと? こんなケーキ、この店のメニューにあったっけ……?」

 わざとらしいくらい大袈裟に、私は目を丸くする。ケーキには白いプレートが添えられて、チョコ文字で「ハッピーバースデー! 冬美」と記されていた。

「うん、メニューには書いてないけどね。予約すれば、作ってもらえるみたい」

「冬美さん、今度の月曜日が誕生日なのでしょう? 少し早いけど、誕生日のお祝いです。おめでとうございます!」

 落ち着いた声の倫子と、陽気な口調のカオル。気のせいかもしれないが、カオルよりも倫子の方が、より幸せそうな笑顔を浮かべているように見えた。


「おめでとう、お姉ちゃん。サプライズだよ!」

 妹の夏帆もニヤニヤしている。

 誕生日のサプライズパーティーというのは、ある種の定番だろう。何も知らなければ、サプライズ成功を喜んでいる笑顔と思う状況だけど……。

 真相は違う。妹の目の輝きは、密告者のものだった。

 今日のこのイベントを、昨日のうちに私は聞かされていたのだ。私たち姉妹の間に、隠し事は存在しないのだから。




(「ダブルデート」完)

   

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