第27話

「斗真なの!?」

「……ん!?」


 つい、返事をしてしまった自分に気が付いた。


 ――やっちまった。


 隠しているわけでもない、結果隠しているようなものだけれど。

 いや、でもこれ……うん、今バラす気はなかったというか……。そもそも、どう顔合わせて良いものかも分からない。

 幽霊ならまだしも、全く別人の顔で対面してるわけだし、乗っ取ったようにも見えるし。


「どうして!?何で殿下の身体に!?何があったの!?」


 怒涛の質問攻め。

 興奮気味に前のめりとなっているアイに、落ち着けと手で制す。

 まぁ、確かに謎でしかないよなぁ。

 執事を呼び、アイとの時間をもう少しとってもらえるよう調整をお願いすると満面の笑みで頷かれた上に、紅茶のお代わりとお茶菓子まで追加で用意された。

 ……二人の仲が良いのは喜ばしいって事か……今は俺だとしても何か複雑……。


「……実は……」


 一息ついて準備が整ってから、あの日、王子と出会った頃の話から始める。

 精神世界で出会った事。王子から説明を受けた事。王子の思い。

 そして、王子と共に目が覚めた事。身体の自由が利かなかった事。証拠を集めた事。


「私の事は良いのに!どれだけ心配したと思ってるの!?」


 アイが荒げた声を上げて驚いた。確かに、目覚めてからやっていたのはアニスの件だ。


「いや、でも違法行為だし、何とかしないと国の為にもならないでしょ?」

「だからって……私がどれだけ心配したと…………」


 アイからしてみれば、寝て起きたら俺が居なくて、呼びかけても現れなくて、という状態だったのだ。


「もう……会えないかと思った……」


 アイの嗚咽と共に漏らした言葉と、瞳から涙が零れ落ちるのを見て、俺の胸は激しく痛んだ。

 いきなり再会して、急に消えて……あんな状態で孤独の中で放り出されたら、どれだけ心細かった事だろう。……しかし、きちんと現場に来ていた辺り、今を生きるアイらしいと言えばアイらしい。


「これからどうなるの?王子の身体から離れて、また一緒に居られるの?」

「あ」


 アイの叫びで、説明が途中までだった事を思い出す。

 幽霊として一緒に居る事をお望みなのだろうか……そんなモヤモヤした感情が襲うけれど、これから先一緒に居るとしたならば、言っておかないと。

 ……というか、ぶっちゃけ支えて欲しいし助けて欲しい場面も出来そうだ。

 話した事により、妙に冷静な頭で先々を思い浮かべると、言う以外の選択肢はなかったな。結果オーライか。


「……王子から身体を貰った」

「……え?」


 王子から身体を貰った事、俺を呼び寄せていた事。

 捻じ曲げたルートから、こんな事が起こっていたという事を全て伝えた。


「本当に!?」


 聞き終えたアイは、嬉しそうな顔で喜んでいる。……それはそれで、王子の記憶がある俺は複雑な感情を抱くわけで……あ、何か俺、面倒くさい存在になってる感じか?


「……良いの?」

「良いんじゃない?」


 アイはあっけらかんとした感じで、簡単に言う。

 そりゃ政略的な婚約で、お互いがパートナー的な意味しかないし……そこに恋愛感情はなかったとしても……本来の王子は消えたのに、良いのか?本当に。


「どうせ将来は一緒に居ない人だと思っていたから、別にどうとも」


 私には関係ないといった風にアイは言い放つ。

 あー……確かに。


「殿下の言う通り、立太子は第二王子に譲って、のんびり暮らす方が合ってるわ。まぁ、王族と公爵令嬢の身分を考えると、王都から離れるのは難しいかもしれないけど。お金残してくれてあるなら、そこまで働かなくても良いわよね!」


 先々の不安がなくなったわ!とガッツポーズをするアイに、思わず苦笑する。

 今まで背負っていた命を脅かされる不安を考えれば、この先への不安なんて確かに微々たるものだろう。


「それで?アデライト嬢。婚約の話は?」

「継続でお願いします!」


 前世から一緒に居たという事で、簡単にノリで決めたような返事に思わずため息が出そうになるが、冗談のように言った俺にも原因があるだろう。

 ――ま、時間はあるから、これからが勝負で良いかな。

 俺がこれからもずっと傍に居るという事に対し、嬉し涙を流し喜んでいるアイを見て、今はそれで良いと思えた。









 あれから。

 ブルーノやルネは俺の側付きを外されたという醜態から廃嫡された。今はどこに居るのか知る由もない。

 アニスは違法アイテムの件と俺に対して精神を蝕むような事を計画した事やアイに冤罪をかけた不敬で処刑となった。

 それに対して思う事はあるが……ゲームと現実の境目をつけなかったアニスも人間性に問題があると言えるだろう。

 そして、俺達はというと……。


「書式は統一してほしい……必要事項が足りない書類は時間の無駄」

「簿記程むずかしくなくて良いけれど、あんな感じで勘定科目があれば便利よね」

「表やグラフって概念はないのか?」

「定規……定規欲しい……インクが滲まない、溝のある定規」


 前世での知識があるせいか、いまいち統一していない書類の山を見るのが面倒くさくて、ついつい色々と口を出してしまった。

 結果、王宮は働きやすくなったと皆に喜ばれた。


 ――人生。人は、いつどこでどうなるか分からない。

 だからこそ、大事に生きたいと思う。

 人を陥れる暇があるなら、それ以上に幸せを見つけて、喜んでいきていきたい。

 ――アイと共に、これからも。

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【完結】異世界で幽霊やってます!? かずき りり @kuruhari

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