第4話 向かう先

「悠久の…図書室。」


「そう、私はそこを目指す。本の最後のページ、見てみて。」


彼女にそう言われて、そのページを見る。


そこには方位磁針の針のようなものがあった。


「それね、常に同じ方向を指し続けているの。

でも北を指してるわけじゃない。」


それは、つまり…


「もうわかるでしょ。その先に必ずある。

『悠久の図書室』が。」


彼女から興奮が伝わる。


「今日君に会って確信した。この本は私たちのために創られてる。そして、世界には私たちみたいな人がまだいるはずよ。じゃないとあれほどたくさんの言語で書いた説明がつかない。」


確かに、そう考えるのが自然だ。


『そこ』を目指せと、本が語りかけているように感じる。


今までに読んだどんな本より少ない情報が、こんなにも僕の心を震わせるなんて。


思わず鼓動が速まる。


「ねぇ、私と一緒に行くでしょ?」


返答は、もちろん決まっている。


「うん。『悠久の図書室』に、この世界を知るヒントがあると思う。」


「はい。」


彼女がリュックを手渡してきた。


「それに本を詰めて。必要なものができた時に、『創れ』ないと困るもの。」


服、とかは『創れた』方がいいかな。


食料は、いらない。


夜も歩けるようにライトとかも…


「とりあえずキャンプ用品とかのやつを何個か入れなさいよ。それで足りないやつを、他の本でまかなえばいいの。」


彼女に言われるがまま、アウトドアのコーナーに向かう。


一冊につき一個だから、4、5冊はいるか?


「準備できた?行くわよ。」


速歩きで図書館を出た彼女についていく。


「そう言えば、あなた名前は?」


「名前…か。そんなものないよ。生まれてからずっと1人だったんだから。」


「ふーん。じゃ、私と一緒ね。そしたら、お互いの名前を考えようよ。」


「君の名前を、僕が?」


「うん。君の名前は何がいっかなぁ。」


名前なんて、1人しかいない世界では必要なかったからな。


しばらくの沈黙の後、


「そうだ!『ナツキ』とかはどう?夏に、樹木の樹と書いて『夏樹』。こんな暑い日に出会ったんだし。」


「『夏樹』か。いい名前だね。気に入った。僕は今日から夏樹だ。」


「ねぇ、私の名前思いついた?」


初めて会った時の、夏にしてはあまりにも

白い肌。


それが一番大きな最初の印象。


「『マシロ』。真実の真に、白色の、白。

君にぴったりだと思うんだけど。」


「わかった!私は『真白』ね!不思議な気持ちだわ。20年間名前なんてなかったんだから。」


そう笑いながら話す僕らの足取りは軽やかだった。


これからたくさんのことを話しながら『悠久の図書室』へと向かうことになるんだろう。



そこに僕の望むものがあると信じて、アスファルトを踏み締める。


雲ひとつない青空が、広がっていた。






















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回顧の図書 藤内 楓 @kaede-fujiuchi

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