第3話 始動

「今、何が…」


あまりの衝撃に、思わず声が漏れる。


これがエアコンなのか?


自分の想像よりもはるかに小さな機械が、

通路に不自然に佇む。


『創れる』?僕が、あれを?


「すごいでしょ、それを『解る』まで大変だったんだから。」


少し笑いながら、得意げに彼女はそう言う。


「羨ましいな。僕の知らないことを、君は

知ってる。」


「教えてあげるよ。私の知ってることなら、何でも。時間はあるんだ。」


一瞬の静寂の後、続けて


「20年もあれば、小説の人間と私たちが違うことに気づくの。君もうっすらわかってるんじゃないの?」


小説を読んでる時に感じた違和感。


想像できないような概念。


例えば…


「『食事』」


「いい線いってるね。もっと言うと『三大欲求』がないの。食事も睡眠もセックスも必要ない。食事と睡眠はできたけど、何がいいのかよくわからなかった。最後のはそもそもできないしね。そんな区別、私たちにないし。見た目は女だけど。」


美味しいご飯が食べたいとか、眠くて起きてられないとか、親がいるとか。


小説の中の人間と自分を重ねると、あまりにも違いがありすぎるから、いつからかその違和感を気にしなくなっていた。


「ねぇ、気にならない?ある日たった一人で高校生ぐらいの身体で、この世に生み落とされた。記憶はないけど歩けるし、言葉だって話せる。何年経っても一向に成長しない。食事も睡眠もいらない。おかしいのは小説の中じゃなくて私たち。そう考えた方が自然じゃない?」


淡々と言葉を紡ぐ。


「私ね、ようやく見つけたの。私のことを知る手掛かりを。」


彼女はそう言いながら古ぼけた本を見せた。


異質。


その本を見ていると、今まで味わったことのない気持ちが、ふつふつと湧き上がる。


焦燥感、とでも言うのだろうか。


「2ヶ月前、たまたま図書館で手に取ったのがこの本。見て。」


恐る恐るページをめくる。


何だ?これは。


語学の心得があるわけではないが、おそらく複数の言語で書かれているであろうことがわかる。


何と書かれてあるかはさっぱりわからない。


「いったい何ページ書かれているんだ?」


「いいから読み進めて。」


一枚、また一枚とページをめくる。


全て違う言語なのか?


半ば機械的に目を通す中、突然目を奪われる。





















————— 悠久の図書室 —————


————— 知りたくばここへ—————











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