感謝を込めて 7

途轍もなく大きな火柱があがっている。

大量のイチゴの残骸に一気に火が回ったからだ。


「よく燃えるな。」


「予想外だ。

普通の木材より水分量が多いと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。

それに、もしかしたら油分がどこかに含まれているのかも、、、」


いずみさんが研究者モードになっている。

いずみさんの指示により、枝、幹、葉、根など、色々な部位のサンプルも採取している。

何をどう使うのかは俺にはわからないが、研究者モードのいずみさんは凄い集中力を発揮する。

燃え上がる炎で熱いはずなのに、一切気にせず、観察を続けていた。


・・・

「ようやく燃え尽きたな。

これで大丈夫なんだな?」


「あぁ、ここまで燃やされて復活する植物はいないよ。

それよりも燃やした後の炭もいくつかサンプルを採取しておいてくれ。」


「わかったよ。」


焼け跡から炭をいくつか採取。

そして、再燃しないように、丁寧に水を撒き、農場を後にした。



「お帰りなさいませ、魔王様。」

出迎えるリノアとクローディア。


クローディア

魔王城の料理番。

魔王城のみんなの食事を作ってくれている。

当然、俺のランチも彼女が作ってくれている。

種族はオーガクイーン。

額に生えた角がチャームポイント。

身長は俺よりも大きく、190センチぐらいかな。

非常に力の強い種族だが、彼女の作る料理は繊細で美味しい。


そんなクローディアをスタンバイさせている時点で、リノアはイチゴを食べる気満々ということだろう。


「準備がいいな。」


「お疲れ様です。

イチゴはクローディアにお渡しくださいませ。

今日の夕食に間に合うようにイチゴのタルトを焼かねばなりませんので。」


「ん?

ちょっと待て。

夕食だと、俺帰った後じゃん。」


「仕方ありません。」

冷たく言い放つリノア。


「魔王様、さすがに今からタルトを焼いていると、3時のおやつには間に合いません。

ちゃんと魔王様とそのご家族の分は取り置きますので、ご安心ください。」

クローディアがフォローを入れる。


「そうか、まあ仕方ないな。」


「それよりもイチゴはちゃんと手に入りましたか?

少なければスカスカのタルトになってしまいますよ。」


「任せておけ。大量だ!」


俺が保存ボックスを出すと、


「「おぉぉぉ!」」


山盛りのイチゴに歓声があがった。


「これだけあれば、色々なデザートが作れます。」


「そうだろ。

とても甘くて美味しいイチゴだ。

クローディア、後は任せたぞ。」


「承知致しました。」

クローディアは特大の保存ボックスを軽々と持ち上げて、運んでいった。


「さてと、これで先代の依頼は完了だな。

今後は暴れ回って、手がつけられないような作物は作らないでくれよ。」


「ハッハッハッ、私は失敗をちゃんと活かすぞ。今後は暴れても倒せる範囲におさまるようにしよう。」


「暴れるのは暴れるんかい!」

ついツッコミを入れてしまう。


「仕方ないだろう。

この世界では動く植物は珍しくない。

品種改良で美味しい作物を作ろうとすると、より活発に動いてしまうのはよくあることだ。」


「そうなのか?」


「まったく動かない野菜だけなど、面白くないしな、ハッハッハッ。」


先代魔王八木いずみは去っていった。

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パパの仕事は魔王です 田中 @sssmm4

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