エピローグ 「馬鹿馬鹿しい……お話」


「本当になんとお礼を申し上げたら良いか……!」


「だから別にいいって、俺たちがやりたくてやったことなんだから」


 魔族との激闘から一週間、ようやくまともに動けるようになったリンとアースはちょうど、村を出ようとしていた。


「そうですよ。それに私たちだって色々お世話になりましたし、次の街までの詳しい地図もらっちゃって……」


「いや、全くその程度ではこの恩は返しきれんよ」


 おじいさんの言葉に他のみんなも頷く。


「あ、あの!」


 そんな中で一際高い声が聞こえてくる。


「ん? おー、セリカ」


「あの、その……」


どうやら言いたいことが色々あるようで、それがまとまらないらしい。


「あ、そうだ! ゴタゴタしてたから返しそびれてたけど……はいこれ。約束だったもんな」


「あ……」


 アースが渡したのは、セリカの両親が作ったお守り。


「本当に助かったよ、それがなかったらたぶん勝てなかった」


「え、そうなの……?」


「ああ。あー、あと、まあ信じるか信じんないかはセリカに任せるけど……」

「?」


「お前の父さんと母さんから伝言を預かってる」


「え⁉︎」


「いうぞ、いいか?」


 セリカは少しだけオロオロとしたが、やがて小さく頷いた。


「『セリカへ、父さんと母さんは遠く離れていてもずっと見守ってる、ずっと愛してる。約束守ってあげれられなくてごめんね。でも、どうか強く、可愛く、かっこよく、そして……健康に育ってね』以上だ」


「う……うぅ……!」


 セリカの目から自然と涙が溢れている。


「グスッ、あの!」


 セリカは涙を拭って、アースに話しかける。


「ん? どうした?」


「その、まずごめんなさい! 勇者が嫌いだとか言っちゃって……」


「あー、そのこと。別にいいよってか、いい忘れてたけど俺も勇者嫌いだし」


「え? で、でも、勇者目指してるって……?」


「まあ俺の目指す勇者は、伝説の勇者とは違うんだ」


「な、なるほど?」


 一応の納得の姿勢を見せるセリカだが、絶対分かってない。


「まあ、難しいわよね。そこら辺は……」


「とにかくさ、俺に罪悪感と感じて勇者好きになる必要はないぜ。嫌いなら嫌いなままでいいんだ。無理に誰かによる必要はない、大事なのは『自分がどうしたい』かだ」


「自分が……どうしたいか……」


「そういうこと……よし、じゃあそろそろ行こうか」


「あ、待ってまだ、言ってないことが」


「そうなの?」


「あのまだちゃんと謝りきれてないから……」


「今さっき言ったろ、罪悪感とか感じなくていいって」


「あ、いやその勇者とか関係なく……失礼な態度とかとっちゃたから……」


「なんだ、そんなこと気にしてたのか。じゃあ、ほれ」


「?」


 アースは屈んでセリカに視線の高さを合わせた後、手を差し出す。


「握手しよう。それで仲直りだ」


「え、あ、うん」


 おずおずと差し出される手を。アースは自分から握りにいく。


「はい、これで仲直り」


「これで……」


「ああ、んでもって友達だ!」


「!」


 アースはにっこりとセリカに笑いかける、一方でセリカはポーッとした表情でアースを見てる。


「よし、これでオーケーだな!」


「アース……あんたもっと考えて行動しないさいよ……」


「え、なんかダメだったか?」


「ダメじゃないけどダメっていうか……なんていうか……」


「?」


 リンはセリカの方を軽く見やってから、しょうがないと息をはく。


「まあ、それじゃあ今度こそ行きますね。本当にお世話になりました」


「またなー、みんなー」


「本当にありがとう! またいつでも来てくれていいからの!」


「こんな辺鄙なところに来る予定があればだけどねー」


 見送りの声と笑い声、それと


「あ、もう一つだけ! 約束も守ってくれて、ありがとう‼︎」


「ああ!」


 その言葉を受けてリンとアースは新たな旅路を歩み出した。



「ふぅ……いってしまったのー」


「自分が……どうしたいか……」


 リンとアースが去っていった方向をじっと見つめながら呟く。


「セリカ?」


「おじいちゃん。決めたことがあるの」


「ほう?」


 セリカは今ままでにないほどの明るい笑顔を見せる。そうして、


「私ね──」


 彼女もまた、新たな旅路へと歩みを進めた。


           ♢♢♢♢♢


 村からしばらく森を進んだところに行けばそこは高い丘であり、そこから次にいく街がみえる。ということで。


「うおーあれかー! でっかい街だな‼︎ 俺らあんなとこ行ったことないよな!」


「そうね……田舎者だって馬鹿にされないかしら」


 リンとアースはもらった地図を頼りに、街を一望できる丘に来ていた。


「うん、ここまでの道のりもバッチリだったし、ここから街に行くルートも詳しく書いてある。本当ありがたいわね……アース?」


 リンがアースの方を見ると、アースはどこか放心したように街を見ていた。


「なあ、リン」


 街の方に手のばしながらリンに呼びかける。


「何?」


「まだまだだ……ここからまだまだ!」


「……そうね」


「よし、いくぞ!」


 そして、グッと拳を握るアース。


「ええ」


 アースはかけ出していくが、ふとリンはもう一度だけ街を見る。すると。


「おーい、何やってんだリン! 早く行こうぜ!」


「はいはい、そんな呼ばなくてもちゃんとついていきますよ……行けるとこまで、ね」





勇者嫌いが勇者を目指す。

勇者になって勇者を否定する。

これを聞いてどう思うだろうか?

少なくとも私は、


馬鹿馬鹿しい……話だと思う。


でも、

きっとそんな勇者に救われる人がいる。

きっとそんな勇者にしか救えない人がいる。


そして、もし。もしもだが……。


そんな勇者が世界を救ったら?

そんな勇者が誰もを救ったら?



これは『世界が求める勇者』を『目指す』物語じゃない。


これは『世界が求める勇者』を『否定」する物語。



ああ、それはきっと



馬鹿馬鹿しいくらい、素晴らしい話だと思う── 。

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世界は勇者を求めてる! ポリタンク @poritanku

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