第10話 ハロウィン当日
毎年のハロウィン当日、学園は公休日となっている。ハロウィンは学園側も準備に追われているからだ。初等部から大学部にかけて、各自イベントを開催するのだが、それには学園見学も兼ねている。
教員を筆頭として有志で集まった学生も忙しくしている中、観客として参加する生徒も多い。ジョージとリリィもその一人だ。
午前中、ジョージは既に準備を終えていた。準備といっても杖や箒、宝石程度なのですぐ終わるのだ。作戦決行はハロウィンが盛り上がる夜であるため、それまでは時間が空く。
彼は趣味である模型作りでもやろうと机に向かっていた。最近は魔法の練習などで手を付けていなかったので、久々にゆっくりできる。模型は海賊船をイメージした木製のもので、スタイリッシュで複雑なデザインだ。黙々と作業をしているところ、ゾンビの仮装をしたレイが話をかけてきた。
「Trick or Treat!」
「はい、ハッピーハロウィン」
ジョージは模型から目を離さないまま、飴を1袋あげた。というのも、レイは毎年似たタイミングでお菓子を強請ってくるのだ。長い付き合いのジョージにとっては馴れたものである。
「あっ弾けるやつだ!流石じゃ~ん!」
「アピールしまくってたろ」
「ハハ、バレてた!?はいこれ、俺からのお菓子。じゃあ俺行くわ!いいハロウィンを~!」
クッキーを渡して部屋を出るレイ。おそらく街へ行くのだろう。ジョージも、去年まではよくハリソンやマーカスと街へ出かけていた。今年はそれどころではなくなってしまったが。
ハロウィンに浮かれた彼が退室したので、部屋はジョージ1人となった。模型を触る微かな音に混じり、遠くに学生の笑い声が聞こえる。
彼は寂しがることもなく、静かに時を過ごした。
模型作りが終盤に差し掛かったタイミングで、約束の時間となった。ジョージは少ない荷物を持ち、パーカーにジーンズというシンプルな格好で部屋から出る。
長い廊下を進み、中央にある階段を降りたところ、エントランスで制服を着たマシューと出会った。人気者の彼にしては珍しく、一人でいる。普段なら挨拶も交わさないが先日のこともあり、互いに無視もできなかった。
「あ」
「やぁ、ジョージ。これから外出かい?」
気まずいながらも気さくに挨拶を交わすマシュー。ジョージもそれに合わせて、なるべく平静を装い対応した。
「まぁ、そんな感じ。お前は有志か?」
「そうだよ。一般客の方々にお菓子を配るんだ」
彼は両手に持っている大きいバスケットを掲げた。その中には沢山のお菓子が入っている。カボチャの飴、おばけのクッキーなど、ハロウィンらしい見た目だ。
「でも、今年は人手が少なくて。結構大変なんだよね」
マシューは苦笑いをする。お手伝いより一般客として参加をしたい学生は多い。そのため毎年有志は少ないのだが、今年は特に酷いようだ。
「へぇ、大変そうだな……そうだ、俺も手伝おうか」
お菓子を持っていればいいカモフラージュになりそうだ。ジョージはそう考え、マシューに提案した。彼は驚いた表情を浮かべている。それもそのはず、ジョージはただの一度も有志として参加をしたことがないのだ。
「いいのかい?折角のハロウィンだ、予定とかあるんじゃないか」
「大丈夫だ、間に合うから」
なるべく愛想よく、違和感がないように表情を作る。それが功を奏したのか、マシューはあっさりとバスケットを1つ渡した。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
ジョージはバスケットを受け取り、足早に講堂へ向かった。
竜の騎士 笹倉亮 @samanoginngamiyaki
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