第9話 ハロウィン侵入作戦
「ハロウィン?学校はそんなイベントもやるものなの?」
リリィは不思議そうに顔を傾げた。
「あぁ。とはいっても主催はこの街――アステリコオーニロだけどな。ハロウィンってのは魔法師にとって重要な儀式の一つだし、学校としても力を入れたいイベントなんだろう」
ハロウィンは秋の豊作を祝い、死者を迎い入れる儀式だ。その中でも魔法師は死者に紛れて訪れる悪霊を退治する役割を担っている。当初は厳格な儀式だったそうだが、今は儀式というより、皆で楽しむお祭りとして広く認識されている。
「お前も参加したことあるだろ?」
「ないわ」
「そうなのか?」
ハロウィンはポピュラーな祭りの一つだ。田舎でも必ずと言っていいほど開催されている。リリィの歳で参加したことがないというのは相当珍しい。
「えぇ、見たことはあるけど。君は?」
「基本、毎年参加してる。実家にいた頃は悪霊に攫われないようにって仮装もしてたな」
「悪霊なんて出ないんじゃない?」
「まぁな。この街とか都市部だと悪霊は信じられていないが、俺の実家は田舎だからな、結構信じてる人が多いんだ。だから仮装は絶対だったな」
ジョージは昔を思い出した。地元でも一大イベントとして盛大に行われていたハロウィンは、仮装に加え家の飾り付けなどは、手先の器用な叔父さんがやってくれたものだ。装飾も細かく丁寧で、よく友達に褒められた。
けれど、この学校に通うようになってからは仮装をしていない。というのも、仮装をする学生は賑やかな人達か、ファッションが好きな人ぐらいだ。静かでファッションに興味のないジョージにとって、仮装は最早無縁の話だった。
「仮装……」
リリィはハロウィンの仮装に反応をしていたが、ジョージは気付かずに話を続ける。
「でだ、この学園はハロウィン当日に一部を一般開放する。大学部も例外じゃない」
「確かにその時なら大学部に侵入しやすいでしょうね」
「大学部の一般開放部分は講堂だ。そこに魔法生物の骨格標本とかが展示される。大学部のどの辺に林檎を作ってる場所があるんだ?」
「第7研究室よ」
第7研究室、と聞いてジョージは少し顔を顰めた。そこは講堂から少し離れた場所にあるからだ。もう少し近ければ算段はつきやすいのだが、他にいい方法も思いつかない。
「少し遠いが仕方ないか……」
「じゃあ決定ね。ハロウィン当日、大学部の講堂から第7研究室に向かいましょう。詳細は追って伝えるわ」
アステリコオーニロ 郊外
夜も更け、人が寝静まる頃。深く霧がかかった路地裏で、中年男性の低い歌声が響き渡る。
「ラ〜ララ~……みんな大好きハロウィン。子供がいっぱいやってくる。お菓子を用意して待ってるね……綺麗な林檎も食べようね……ラララ〜ララ〜……」
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