深窓ーSHINSOUー
白崎祈葵
第1話 ひとりぼっち
ローズ・ウィンスレットは、突然はっと目が覚めた。文机の前に座ったまま、顔を両腕に
「また眠ってしまったわ。ご本を読んでると、いつも眠たくなるのよね」
ローズは独り言を呟き、
特に、ローズの暮らしは食べ物に恵まれていた。いつも侍女が御膳を持って、ローズの部屋まで運んで来てくれる。たまに台所の横にある食堂で食べることもある。朝から晩まで、美味しいものばかり。食欲を抑えるのが難しく、ついつい食べ過ぎた。
ローズは大きな屋敷で暮らしていた。日本家屋と洋館が廊下で繋がっていて、日本庭園が広がり、池には朱色や墨色、金や銀色の鯉が泳いでいる。緑も石も静けさを湛えていて、侘び寂びの世界を感じることができた。時折、幻のように
ローズは、この屋敷で一人で住んでいた。侍女達やシェフ、執事はいるのだが、ローズと口を聞いたことはなく、ローズはこの人達の声を聞いたこともないし、この人達が何処で眠っているのかも知らなかった。いつも、いつの間にか現れては、気配もなく消えている、影のような霧のような存在だった。
ローズは、お父さんもいない、お母さんもいない、兄弟姉妹もいない、親戚も存在するのかどうかも知らない、お友達もいない、ひとりぼっちだった。ローズの世界は、この屋敷と庭園の中だけでまわっていた。屋敷と庭園の外に出たことは、一度もなかった。
外の世界があるということすら、ローズははっきりと認識していなかった。洋館にある図書室で本を沢山読んできたローズは、ぼんやりと、違う世界、違う暮らしを妄想することはあった。ローズは、孤独な深窓の令嬢だった。まだ寂しさに苛まれたことはなかった。寂しいという感情を味わい知ることが出来ないぐらい、寂しい場所にいた。
✽
そんなローズを、実は見守っている存在がいた。屋敷にある黒電話の横の柱にカレンダーが掛かっていて、下半分が日付、上半分に絵が描かれている。そのカレンダーに描かれたレースの帽子を
つづく……
深窓ーSHINSOUー 白崎祈葵 @matsuri_spoon
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