白い手の記憶
マッチゃ
君のいる季節の手前で
あの冬、いくつかの別れといくつかの出会いがあった。桜が咲き、卒業式でみなが泣き出すあの季節の少し前だ。
何度目かの失敗をした。恋に恋してるなんて陳腐な単語が似合ってしまうような恋だ。自分の見る目の無さか、はたまた運の無さか。どの恋も最後には手品のサクラを見抜くような別れ方をした。嘘つきに限って演技がうまい。始めから嘘を見抜ければ安心して人を愛せるのかなどと無駄なことを考えながら歩道橋を渡った。
また自分は恋をしていた。それも、不相応の。高校生の自分とは違い中学生で、努力が出来て、それでいてかわいかった。ここは譲れない。彼女との思い出で景色の方が記憶に多いのはこのせいだ。栄えていた残り火で遠くに佇むショッピングモール、うっすら灯る信号。嫌味に光る看板。直視出来ないほどの尊さ、不釣り合いにもほどがあった。
彼女の家路の途中、高架線の下まで一緒に帰り、語らうのが日課になっていた。東京まで続く線路の下、この時間が自分を大学受験のプレッシャーから降ろしてくれる癒やしの時間だった。しかし、幸せってやつは長くは続かない。受験が片付けば、関東に引っ越す自分は彼女と離れ離れになる。不相応な恋をした罰なのか、はたまた恋に恋した罰なのか。東京へのレールはすでに敷かれていた。
12月。最後に会う日がやってきた。クリスマスの3日後、自分は彼女と向き合っていた。小さい背中、ほのかな灯りに照らされ浮かび上がる、白い小さな手。それを握っていた。最後にハグをした時、自分はおぼろげな光を反射する彼女の瞳を見つめていた。美しく尊い彼女をしっかり見ていたのだ。もう不相応な恋では無くなっていた。サクラはとっくに散っていたのだ。もう1度強く、彼女を抱きしめた。上着がほのかに濡れた感じがした。
あの冬、いくつかの別れといくつかの出会いがあった。桜が舞い散り、卒業式でみなが歩き出す、あの季節の少し前だ。
fin
白い手の記憶 マッチゃ @mattya352
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