博士が遺した機械

文重

博士が遺した機械

「随分とへんてこな格好の機械ですね。“鉄仮面”のような」

「太った“鉄の処女”に見えなくもないが」

「顔のないロボット?」

「取っ手はあるが開きませんな」


 若かりし頃から天才と謳われた博士が亡くなった後、研究所兼自宅の調査のために調査団が派遣された。データ類は几帳面に分類されており、その独創性に驚かされこそしたものの、大方の装置については用途や操作法に不明点はなかった。唯一、博士の寝室に据えられたこの機械にだけは何の説明書きもなく、たった1人の助手も、国を代表する科学者たちも首をひねるばかりであった。


 外側からの照査の結果、危険物でないことが判明し、その機械は助手の手元に残された。


 数十年が経ったある日、みずからも孤高の権威となった助手の手が、偶然例の機械に触れた。すると突然、上面が開き、愛する者たちのありし日の姿が内部に浮かび上がった。涙にむせびながら、助手は博士の発明の偉大さに打ち震えるのだった。

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博士が遺した機械 文重 @fumie0107

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