第30話/今度はイチャイチャしすぎて青春が死す(エピローグ)
愛と将来を誓い合った二人であったが、その関係や生活が劇的に変わったかというとそうではなくて。
確かに変わったのは、未来予知であった。
システムが見せる未来の中に、彼女の命の死がなくなり、代わりにウェディング姿で幸せそうに微笑む姿が偶に見えるようになった。
「――先輩、まだかなぁ……」
そんな幸せな未来の可能性がある紫苑といえば、青一色の晴れやかな空の下、病院の屋上で退屈そうにしていて。
今日の彼女は、七海の経過観察の為の来院に着いてきたのであった。
待っている間はとても退屈で、しかし苦にならなかったが同時に軽く心配でもあり。
(後遺症、今更でなきゃいいけど……)
どんな事になっても側に居て支えるという決意はあたが、何事もない方がいいに決まっている。
普段の様子からは特に変な様子もなく、不調の予兆も素人目には見られない。
だから大丈夫、そう自分に言い聞かせてきたが。
「やっ、待たせたね紫苑、よーやく終わったよ」
「先輩! わーい、待ちくたびれましたよぉ~~、ささっ、ハグですハグ、健気に待っていた恋人にぎゅーっと再会の愛を示してくださいなっ!」
「相変わらずあざとい恋人さんだなぁ……はい、ぎゅーっと」
「いやぁ~~、この胸板の感触がたまりませんなぁ。……それで? 検査結果はどうだったんです?」
「退院した時から変わってないよ、後遺症もなくて健康な体だって、もう病院に来なくていいって言われたよ」
「おおっ!! それは良かったじゃないですか先輩! それじゃあ今日はお祝いですね!! ぱーっとやりましょう!! 義母さん義父さんも一緒に!!」
「そっちのご両親はいいのかい?」
「えぇ……まぁ、そっちはおいおい、ね?」
現在の七海の心配事の一つは、紫苑とその両親の不仲、正確にいえば紫苑が一方的に感じている苦手意識みたいな物であったが。
大きな問題でもなく、少し先の未来、結婚式までに多少なりとも改善すればいいかな、という案配だ。
対して、彼女の心配事といえば。
「そういえば、未来予知は相変わらず検査とかで?」
「うん、どうも現代の技術では俺以外には分からない事みたいだね」
『フフン、未来予知という超常現象が科学技術で分かるはずがないのだよご主人!! このシステムはご主人の為だけに存在する! これからも佐倉紫苑との未来を応援する健気なシステムをよろしくぅ!!』
と、変わらずこんな調子のシステムであったが。
七海にとっては、言いたいこともある。
それは。
(おいシステム? 君さ、あの廃教会の時どうして何も言わなかったの? あれ、明らかにヤバい状況だったよね??)
『実はなご主人、あの時はデッドエンド寸前で心中は勿論のこと、殺し合いの末に相打ちで死ぬ未来まであったのだが…………二人を信じて黙っていた、ああ、別にそれが一番の方法だと分かっていた訳ではないが、…………ご主人の喪った記憶の代わりに生まれた存在としては、そうした方がいいとこのシステムめの本能が思ったのだ』
(おい、おい?? それに対して俺はなんて言えばいいんだ??)
『助かった、ありがとう、でいいんじゃあないか?』
(何もしてないのにか??)
『何もしてない、という事をしたのさご主人』
急に黙り込んだ七海に、紫苑はふと気がついた。
今日、病院に行く途中で、そういえばと七海に未来予知のシステムの事を教えられていて。
彼女としては、そんな事もあるのかという感想であったが、それ以上に。
(じぃ~~~~っ、未来予知のシステムって聞いた話じゃあ人格っぽいのがあるって、……それ、女の子じゃないよね??)
怪しい、と紫苑は彼を睨んだ。
簡単に言えば、嫉妬と独占欲である。
だってそうだ、実の所、七海がクラスメイトの女子と会話するのにも軽い嫉妬を起こすのに、もしシステムとやらが脳内彼女の類であったなら。
(くっ、負けられない戦いがここにあるッ!! 先輩を正しい道に戻さなきゃ!!)
『――む、ご主人!! 新しい未来予知だ!! 佐倉紫苑の“社会的”な死が確定されようとしているッ!!』
(はぁっ!? なんでいきなりそんな――!!)
瞬間、時が止まったような感覚が七海を襲う。
未来予知のビジョンが来る前兆だ、そう思考した瞬間、彼は未来の光景を見ることになり。
現実世界では一秒も満たないが、ビジョンの中で数十秒を過ごした後に戻ってくる。
(またか!! またなのか紫苑ンンンン!! いやいいけどさぁ!! 命の危機よりマシだけどさぁ!!)
『デキ婚おめでとうご主人、やったなある意味で男のロマンだぞギリギリ高校在学中に第一子誕生だな!! ――――その代わり、佐倉紫苑の青春時代が幸せの中で死ぬがなぁっ!!』
(むぅ、抱きしめてるんだからそのまま私のコトだけ考えて欲しいのにぃ~~っ!!)
そう、紫苑が不幸の中で命を落とす未来は消えた。
だが代わりに、彼女と七海がイチャイチャしすぎて、その結果、何らかの原因で紫苑は幸せだが高校生活や大学生活といった青春時代が死ぬという未来の可能性が発生してしまい。
しかし、そうとは知らない紫苑といえば。
「ね、先輩…………おっぱい揉みます? いや揉め、手の平の痕が残るぐらい揉むんだよオラァ!!」
「待って、マジでまって、君を放置してシステムと話し込んでたのは謝るから一度立ち止まろう!」
「は? 言い訳するのこの浮気者?? 現実の私より好き放題できる脳内彼女の方がいいっていうの!? 見せつけてやるよ私という超絶美少女の極上の肉体を!! オラ揉め!! 顔を埋めろぉ!!」
「はい待ってねー、冷静になってねー、未来予知的にはそれがアウトなんだよ」
「私のおっぱいのドコがアウトなんですかぁ、話してください七海先輩!!」
浮気の言い訳ではないのか、処すぞ処すぞゴールデンボールの場所は分かってるんだ、な勢いの彼女に七海は努めて冷静な顔をした。
今回の予知の内容を話すには、少しだけ抵抗があるのだが。
七海のプライドなんて今更だ、ちゃんと伝えないとと彼は勇気を出して。
「その、な? おっぱい揉むじゃん? そしたらどーなると思う?」
「私が満足する?」
「違うんだ……違うんだよ紫苑、…………俺が、我慢できないんだッ!!」
「…………ぷぇい??」
なんか思ってたのと違う、と紫苑は首を傾げた。
よくよく見ると、彼は耳まで真っ赤にしており。
女の勘が、おやおやとニヤつきだす。
「せんぱぁ~~い? 続き、続きはどーしたんですかぁ~~??」
「お前……分かってて言ってるだろ」
「分かりませーん、だから教えて欲しいなぁ~~って」
「くっ、だからさぁ!! 俺が問題なんだって!! 紫苑のおっぱい揉んで我慢できなくなってさぁ!! そのまま、な? なんだ? こう、な? ……孕ませちゃって君は自主退学して俺の家に嫁いで新婚生活的な?? 学生時代という青春時代が死んじゃう感じなんだよ……」
「あっ、…………ご、ごめんなさい七海先輩、そ、その…………で、でも、先輩が望むなら……、ど、どうぞ!! ママになる覚悟はできてるんで!!」
「俺がまだパパになる覚悟できてないんだけど!? それにまだまだ一緒に学生生活したいんだけどォ!?」
あー、それがあった、と紫苑は少し反省した。
確かにそれは魅力的だ、かなり魅力的だ。
七海と学生生活を楽しみたいし、現在は七海以上にボッチでもあるので少しでも友達を作って遊びたい。
――とはいえ、だ。
「分かりました……でも、その、言いにくいんだけどぉ…………、えっち、したくなっちゃった的な?」
「安心して欲しい、解決策は――あるッ!!」
「おお! なんて頼もしい!! どうやってです!?」
「…………パンツ」
「え?」
「紫苑が今履いてるパンツを今すぐにスカートをめくって見る、それしかない」
「ええっ、そんなコトで――――――ぁっ」
さぁ、と紫苑の顔は青ざめた、七海は真面目な顔をしながら唇を噛んでいる。
不味い、今だけはダメだ、紫苑にはパンツを見せられない理由がある。
油断していた、今日はまだだと思っていたから。
「だっ、ダメダメダメダメっ、それだけはダメですよ七海先輩!? ちょお~~っと待っててください!!」
「残念ながらそうはいかないよ、だって君さぁ、夜の為に持ってきていたエッチなパンツに履き替えるつもりだろう? ――即ち今は、俺に見せたくないパンツを履いてる……そうだなッ!!」
「くッ~~~~~!! 来ないでっ、来ないでったらぁ!!」
「すまん!! これも俺たちの未来の為!! 否!! 実はちょっと見たいんだ油断してる時の紫苑のパンツ!!」
「先輩のばーーかばーーかばーーーーかっっっ!!」
「――――見えた!! 金のシャチホコのパンツ…………え? なんで金のシャチホコ?? そりゃあウチの市のマスコットだけどもさ」
「うわああああああああああん、見られたぁ!! クソダサパンツみーーらーーれーーたぁーー!! こんな小さな子しか履かないようなの、ママに貰ったからって履くんじゃなかったあああああああ!! 最初からえっちなの履いてくればよかったああああああ!!」
「あー……なんかすまん、でもギャップがあってよかったよ??」
「語尾が疑問系じゃないですか!! この裏切り者!! 二度とパンツ見せてあげないし、おっぱい揉ませてやんない!!」
「ごめんごめん、まぁこれで解決した筈だし……そうだよなシステム?」
『久々のコングラッチェレイショオオオオオオオン!! 佐倉紫苑の青春が死ぬ未来は回避できた! しかしだなご主人、佐倉紫苑にはこのシステムめの声は聞こえないのだから配慮すべきでは??』
「ぶーぶーっ! どーせ未来は変えられたとか言ってるんだろうなぁ……、でもそれで私の機嫌が直ると思ったら大間違いですよーーだっ!!」
ぷくーっと可愛くむくれる紫苑に、七海は思わず苦笑して。
彼女の腰を抱き寄せると、彼女もまたぴとっと体をくっつけて。
自然と歩き始める、笑いあいながら前に進む。
「帰ったらさ、夕飯は腕によりをかけて作るから機嫌直してよ」
「つーん、つーん、つーーーん、ダメですよーだ。……二人で、二人で一緒に料理しようでしょ先輩っ!」
「うん、そうだった。二人で一緒に作ろうか!」
一人じゃなくて二人で一緒に、楽しい事も悲しいことも、何もかも二人で歩いていけると今は信じられる。
七海は紫苑を、紫苑は七海を、確かに信じられる。
そしえ紫苑はもう自分自身を嫌いじゃない、いや違う、嫌う事を怖がっていない、嫌っても引き戻してくれる七海が側にいるから、もう怖くない。
『――――いつか消える日が来る、でもまだ先だな、二人の幸せを見届けるまでは――』
(何か言ったかいシステム?)
『気のせいだご主人、階段を降りてる途中だ足下に気をつけろ』
(はいはい、これからもよろしくなシステム)
『聞こえないフリをする所だぞご主人、……これからもよろしくな』
「あ、そういえば先輩。私もそのシステムってヒトと会話してみたいんですけど――――」
二人とシステムは、仲良く屋上を後にした。
七海と紫苑の左手の薬指にはペアリングが今も、確かに存在しており。
まるで二人の未来を祝福するように光り、そして輝いていたのであった。
――薄幸の美少女を自称する後輩は、俺とイチャイチャしないとすぐ死ぬ・完
未来予知を手に入れたら、イチャイチャしないのが原因で後輩が死ぬ未来が見えた 和鳳ハジメ @wappo-
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