輝き

西順

輝き

「絶交よ」


 俺は驚きで動きが止まってしまった。まさか25歳にもなって「絶交」されるなんて思わなかったからだ。


 俺に「絶交」を言い渡したのは姉の娘。つまり俺の姪である。子供はおろか、奥さんはおろか、恋人もいない俺からしたら、目に入れても痛くない程可愛い可愛い姪だ。その姪から「絶交」を言い渡される事が、どれ程の絶望か理解出来るだろうか。


「こら! おじちゃんに何て事言うのよ!」


 姉が姪を叱りつけるが、「おじちゃん」と言うな。姪には「お兄ちゃん」と呼ばせているのだから。


「だって、私が欲しかったのはサテライトブライトステッキじゃなくて、スタートゥインクルステッキだもん」


 姪が欲しがっていたオモチャを買ってきたのだが、どうやら姪の目当てのオモチャと違うものを買ってきてしまったらしい。いや、似ているのが多過ぎて分からんて。


「ごめん! 今度はそのスター……なんたらステッキを買ってくるから!」


「…………」


 俺が手を合わせて謝っても、姪はソッポを向いて何も答えてくれない。「絶交」したのだから、話したくもないと言う事なのだろう。


「こら! 何その態度は!」


「だって……だって……」


 姪は反論する言葉が出てこなかったのだろう。口ごもってうつむくと、大声で泣き出してしまったではないか。


「姉貴」


「あなたは黙ってて!」


 こうビシッと言われては俺も黙るしかない。


「おじちゃんは騙せても、私に嘘泣きが通じると思っているの?」


 姉がそう言えば、先程まで大泣きしていた姪がピタリと泣き止んだ。ええ、嘘泣きだったの?


「全く、自分の思い通りにならないと、いっつも嘘泣きして」


「お兄ちゃんが悪いの! わたし悪くないもん!」


「オモチャ買って貰ったんでしょ?」


「わたしが欲しかったのじゃないって言っているじゃん!」


「あなたねえ」


 姉の怒りが頂点に達したのを悟ったのか、姪はすくっと立ち上がると、テテテと子供部屋へ逃げて行ってしまった。


「はあ。ごめんなさいねえ」


「いや、良いよ。俺が違うのを買ってきたのが悪かったんだし。新しく買ってくるから」


「悪いわよ。そんな何個もオモチャを買い与えるのも教育に良くないし」


 そう言われてもな。俺は姪が雑に開けたオモチャの外箱を見て、ここまでになったら、返品交換も出来ないだろうと嘆息した。やはり買い直すしかないだろう。


 ☆ ☆ ☆


「いらっしゃい!」


 翌日、俺はスターなんたらステッキを買い直して、再度姪の家にやって来たのだが、まだオモチャを渡してもいないのに、玄関で姪が笑顔で迎えてくれた。何事があったのだろう? と姉を見遣る。


「昨日あの後、アニメであなたの買ってきたオモチャを使うキャラが活躍してね。この子も大興奮したの。友だちにもオモチャ持っているって自慢して」


 ああ、成程。人気の無かったキャラが活躍して一気に人気になるのは、少年マンガでもあるあるだな。


「じゃあ、このスターなんたらは……」


「え? スタートゥインクルステッキ買ってきてくれたの? やったー! お兄ちゃん大好き!」


 どうやら無駄にはならないようだ。


 俺は姪の家に迎え入れられ、姪はリビングで雑にオモチャの外箱を開けて、またもがっかりと肩を落とした。


「お兄ちゃん、これ、スタースパークルステッキだよ」


 似たオモチャが多過ぎるんだよ。

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輝き 西順 @nisijun624

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